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ブレーク連発、ものまね芸人の今〝リアル路線〟時代にマッチした理由

和田アキ子さんに扮したものまね芸人のMr.シャチホコさん=2022年2月14日、名古屋市中村区、松島研人撮影
和田アキ子さんに扮したものまね芸人のMr.シャチホコさん=2022年2月14日、名古屋市中村区、松島研人撮影 出典: 朝日新聞社

目次

ものまね界の新星が次々と登場している。2018年にはMr.シャチホコ、昨年はJPとレッツゴーよしまさ、直近ではジョニー志村が脚光を浴びた。共通するのは“しゃべりものまね”で注目を浴びたことだ。トレンドは従来とは異なる“誇張しない”リアルなものまね。人気の背景から、ものまね芸人の今を考える。(ライター・鈴木旭)
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50歳で注目を浴びたジョニー志村

ここ最近でもっとも旬なものまね芸人と言えば、リアルな“今のタモリ”のものまねで注目を浴びたジョニー志村になるだろう。

今年4月29日に放送された朝の情報番組『ズームイン!!サタデー』(日本テレビ系)に「笑っていいとも!」のテーマソングとともに登場。その後、一部コーナーの進行も担当し、レギュラーメンバーとワイプ越しにVTRを眺めるなど、生放送を“タモリのまま”演じきった。

GW初日、ぼんやりとテレビを眺めていた筆者も目を疑った。それぐらい表情や動きがそっくりなのだ。程なくネット上で「本物かと思った」と大きな話題となり、5月29日には、『しゃべくり007』(日本テレビ系)にゲスト出演。突如としてブレークが期待されるものまね芸人の1人となった。

ジョニー志村は、30歳を目前にものまね芸人の活動をスタートし、50歳で脚光を浴びた苦労人だ。28歳の時に父親を亡くし、「好きなことをやって生きなさい」という生前の言葉を思い出して一念発起している。最初は氣志團・綾小路翔やGackt、X JAPAN・YOSHIKIといったロックスターが得意のレパートリーだった。

早くからタモリのものまねを試みてはいるが、当時は舘ひろしや松山千春などサングラスのイメージが強いタレントを次々とものまねしていくネタの中の1人でしかなかった。タモリのものまねに本腰を入れたのは6年前。ものまね芸人を多く抱える事務所側からのアドバイスをきっかけに、今のトレンドである“誇張しない”タモリのものまねを少しずつ研究していった。<2023年5月29日に「FRIDAYデジタル」で公開された「『リアルすぎる』…タモリのものまね芸人『ジョニー志村』が語る“誇張しないものまね”がトレンドの訳」より>

年齢を重ねたことも、今のタモリを真似るのにプラスになった。ものまねのトレンド、技術、容姿、タイミングなど複合的な要素が揃ったことで、ようやく大輪の花を咲かせた芸人と言えるだろう。
 

大活躍のJP、レッツゴーよしまさ

昨年、ブレークしたJPとレッツゴーよしまさも、いまだ大活躍している。

今年2月に『デカ盛りハンター』(テレビ東京系)、3月に『まさかのNo.1を発掘!上には上がいる!』(TBS系)、先月15日に『しゃべくり007』(日本テレビ系)に出演するなど、ものまね番組以外での露出も珍しくなくなった。

JPが注目を浴びたのは2022年1月のことだ。新型コロナウイルス感染者と濃厚接触の疑いがあったことから、ダウンタウン・松本人志が『ワイドナショー』(フジテレビ系)を欠席。松本からJPが代役に指名され出演したことで、一気に世間から注目を浴びた。

一方のレッツゴーよしまさは、2022年9月の『お笑いオムニバスGP』(フジテレビ系)の企画「2億4千万のものまねメドレーGP」に出演して人生が一変した。同番組でザ・ドリフターズのものまねを披露。とくに“素の志村けん”のものまねが反響を呼び、その後ラジオやテレビで引っ張りだことなった。

ジョニー志村を含む3人に共通するのは、歌手の“歌まね”ではなく、お笑いタレントの“しゃべりものまね”で脚光を浴びたことだ。加えて、ジョニー志村、レッツゴーよしまさにおいては、“誇張しないものまね”を武器としている。彼らの活躍が昨今のトレンドを形作ったと言っていいだろう。

昨年、筆者がレッツゴーよしまさにインタビューしたとき、「声帯模写や形態模写だけでなく、性格模写もしなきゃいけない」と口にしていたのをよく覚えている。ものまねの対象者が「この口癖をなぜ言うのか」を想像することで、自然と本人らしいワードが出て来るようになるそうだ。

誇張せずとも似せられるのは、そんな下準備の賜物なのだろう。
 

「しゃべりものまね」Mr.シャチホコ

“しゃべりものまね”と言えば、真っ先に思い浮かぶのが2018年後半にブレークしたMr.シャチホコだ。

ものまねの仕事がゼロだった2017年。何気なく自宅で『アッコにおまかせ!』(TBS系)を見ていたところ、「アッコさんやる人いなくないか?」と思い立った。交際中だったものまね芸人・みはる(現在の妻)の前で真似すると「いい線いってる!」と反応も良かったことから、本格的に和田アキ子のしゃべりものまねをスタートさせている。<2020年1月13日に「bizSPA!フレッシュ」で公開された「Mr.シャチホコが語る、アッコさんと初のサシ飲み『カツラをせずに行ったら…』」より>

それまでは歌まねに自信を持っていた。大学2年の時にYouTubeにものまね動画を投稿。Mr.Children・桜井和寿とサザンオールスターズ・桑田佳祐のコラボ曲「奇跡の地球」を1人2役でものまねした動画が、当時としては注目に値する2万回再生を突破し、テレビ局から声が掛かってものまね番組にも出場した。

順風満帆のスタートだったが、プロの世界はそう甘くなかった。ものまねショーレストラン「そっくり館キサラ」のオーディションでは3度目にようやく合格。プロになる足掛かりとして音響のアルバイトも経験した。先輩たちのステージングを学ぶ中で着実に歌まねのスキルを上げていったものの、なかなかチャンスは訪れなかった。

『アッコにおまかせ!』を見たのは、そんな状況下だった。しゃべりものまねは未経験。不安は大きかったが、周囲のお笑い芸人に披露するとゲラゲラと笑ってくれた。徐々に露出を増やし、2018年9月に『林先生が驚く初耳学!』(MBSテレビ/TBS系・現『日曜日の初耳学』)で和田アキ子本人と初共演すると、一気に人気者となった。

Mr.シャチホコの場合は、比較的ものまね芸人が目立ちやすい『ウチのガヤがすみません!』(日本テレビ系・2017年~2021年終了)に出演した幸運もあったのかもしれない。そこには、和泉元彌やIKKOのものまねでブレークしたチョコレートプラネットらもおり、お笑いのスキルを高められたのではないか。

結果的にMr.シャチホコやチョコレートプラネット・松尾駿の活躍によって、ものまね対象者である女性のメイクや衣装のままバラエティーに出演することが一つの定番となった。
 

古くからあった「しゃべりものまね」

しゃべりものまね自体は、古くから披露されている。

小林信彦著『決定版 日本の喜劇人』(新潮社)によると、1932年、弁士・俳優・作家など幅広く活躍した徳川無声のラジオ番組に代打で出演したコメディアン・古川ロッパは、代役であることを明かさぬまま本人の口調を真似て放送時間40分を押し切ったという。

ちなみに、役者や芸人などのセリフを真似る「声色」を「声帯模写」と命名したのはこのロッパ。人のしぐさや動きを真似る芸「形態模写」をもじったものだ。

新人時代のタモリも、歌人・劇作家としてカリスマ的な人気を誇った寺山修司のしゃべりものまねを披露している。青森の津軽弁で「いかにも寺山が言いそうなこと」を真似たしゃべりは、寺山本人から批評性の高い「思想模写」であると称賛された。<『週刊朝日1981年10月16日号』(朝日新聞出版)より>

「思想模写」は、今のものまね業界で言われる「性格模写」と同等の言葉にあたるだろう。1990年前後には、ビートたけしや元プロ野球選手の掛布雅之のものまねで延々としゃべり続ける松村邦洋が注目を浴び、2000年代初頭には、コージー冨田(タモリ役)、原口あきまさ(明石家さんま役)のコンビが“しゃべりものまねでトークする”という絶妙なパフォーマンスを見せ、木村拓哉やえなりかずきといったものまねの連続ネタを得意とするホリらも大人気となった。
 

なぜ“リアルなものまね”がトレンドに?

では、今なぜ“リアルなものまね”がトレンドになっているのだろうか。前述の「FRIDAYデジタル」のインタビューの中でジョニー志村はこう語っている。

「(Mr.)シャチホコくんも、アッコさん(和田アキ子さん)の代わりに『アッコにおまかせ!』(TBS系)に出演したりとかね。もちろん本人に取って代わることはできないけど、リアルなものまねが『スポット的に本人の代わりをさせても面白い』ってことが立証された気はします。

とはいえ、それは見てる人たちの評価だし、番組を作る人が『面白いな』と思って作ってくれるかどうかですからね。その部分では、“新しいものまねの使い方”を業界が発見したんじゃないのかなと。もちろん『似てる』って前提があってこそですけど、『そういう使い方もできる』っていうのが今のトレンドにつながっていると思います」

コロナ禍でタレントの代役を務める機会が与えられたことにより、結果的にものまね芸人の活躍の場が増えた、という後押しもあっただろう。

しかし、歴史を紐解いてみると、「ものまね」には、何かを模写することで、批評性を持たせながら笑いを生み出す、という特徴があることもわかる。

近年、人気のものまねは「タモリ」「松本人志」「志村けん」「和田アキ子」などいわゆる大物芸能人がそのモチーフだ。コロナ禍の代役で、時代が一周し、ロッパのような“リアル”に回帰していくというのは、批評としてはある意味で、自然な流れと見ることもできる。

ネタではなく、本人さながらにものまね芸人がその場のアドリブでトークする。そのことが心地よい違和感を生み出し、笑いを起こすとともに、「ものまね」される側のある種の権威性や実在感を炙り出している。

またその姿は、まるで情報が追加されるごとに進化していくAIのようだ。そう考えると、ものまねにはさらなる発展を遂げるポテンシャルがありそうだ。
 

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