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マキオカリーパーク店「安定してないけど…」芸人店長の楽しさの理由
ハンジロウ・しゅうごパークさんに聞く
「神田カレーグランプリ」の優勝実績がある有名スパイスカレー屋「秋葉原カリガリ」。キングオブコント2013チャンピオンのかもめんたる・槙尾ユウスケさんがコラボする「カリガリマキオカリー」で、コンビでオーナーを務めるのがハンジロウの2人です。2022年12月、上野にオープンした「カリガリマキオカリー パーク店」の店長・しゅうごパークさんに、間借りカレーを始めた理由や両立の仕方について聞きました。(ライター・安倍季実子)
芸歴20年、ハンジロウのしゅうごパークさんがオーナーを務めるのは、仲御徒町駅から徒歩約5分の場所にある「上野カリガリ マキオカリーパーク店(以下、パーク店)」です。
月・火・木・金・日の週5日、「沖縄ダイニング和海(なごみ)」のランチタイムで間借り営業しています。
「沖縄料理店は音響設備が整っていて、ライブができるお店が多いんです。僕たちも10年以上前から、和海さんでお笑いライブをさせてもらっていて、そのつながりもあって、『パーク店』を始めることにしました」
相方たーにーさんがオーナーの「マキオタニカリー 五反田」のオープンは、パーク店より1年ほど早い2021年9月。
一昔前の「芸人は借金してナンボ」という時代を見てきたため、その頃のしゅうごパークさんは、芸人でありながらカレー屋を始めた相方を「たーにーはカレーの話しかしない!」などとライブでイジっていたといいます。
しかし、メディアでマキオカリーが取り上げられるようになったことで、「僕もカレー屋をやったら面白いかもって思うようになった」と振り返ります。
「コロナ禍からお笑いの仕事が減り、深夜の警備バイトを始めました。バイトと子育てがメインの生活でしたが、僕は子育てしたいタイプなので、充実した日々を送っていました」
地元で母親が保育園の園長をしていて、しゅうごパークさん自身も学生の頃からよく子どもたちの面倒をみていたそうです。お笑いの活動があまりできなくても、そこまで不満はなかったといいます。
「でも、コロナが落ち着き、お笑いの仕事が復活していくなか、深夜バイト・子育て・お笑いがフル回転しだすと、体力的にキツくなっていって、少しずつ体調も悪くなって……気づいたら頭に10円ハゲができてたんです」
パーク店の一番の強みは、沖縄料理店の間借りであること。カレー店ですが、トッピングの「ミニソーキ(数量限定250円)」や「海ぶどうサラダ(数量限定200円)」がよくオーダーされるそうです。
カレーを提供する前に、お皿はレンジでチンして温め、トッピングの半熟卵は卵1個分。盛りつけは映えを意識するなど、しゅうごパークさんならではのこだわりが散りばめられています。
「半熟卵を半分から1個にすると決めた直後に卵の価格が値上がりして、あの時はショックでしたね……」と苦笑します。
サービス精神が旺盛で、マキオカリーの中で原価率が一番高いそう。
「お客さんの希望によっては、ライスを多めにすることもあるんで、バイトの後輩芸人には、『サービスしすぎです』『だから赤字なんじゃないですか?』とか、いろいろ言われます」
また、一般的に「オープン直後の売り上げはいい」とされますが、パーク店は赤字からのスタート。黒字に転換したのは3カ月後だったそうです。
「黒字でも安定しているとは言い切れませんし、相方の五反田店と比べたら全然です。初期費用の回収もまだまだ。でも、自分の体調はよくなりましたし、10円ハゲも治りました。お店では、自由にアレンジしたカレーを出せるし、お客さんと直接触れ合えるし、毎日が楽しいです」と笑います。
「お客さんには満足して帰ってほしいんで、卵もライスも意地でも続けたいです。近くでお勤めの方々の『お気に入りのランチのお店リスト』に入りたいですね」
間借りカレー店の仕事を始めて、生活サイクルが変わって、さらに子育てにも参加しやすくなりました。
「朝は娘を保育園に送って、お店に着くのは9時くらい。仕込みをして、11時から14時まで営業して、後片付けなどをして15時半には退店します。できるだけお店にいるように心がけていて、テレビ番組のロケが午後の日は、少しでもお店に顔を出すようにしています」
その後、ライブがある日は会場へ向かい、芸人の仕事がない日は買い出しをしてから保育園にお迎えに行きます。
お笑いと子育てが両立しやすく、今の働き方に不満はないそうです。とはいえオーナーならではの苦労もあり、決して気楽というわけでもありません。
「食材の仕入れ、バイトのシフト管理、売り上げの管理、支払いはいつ……といったことをずーっと考えています。でも、これってお笑いの単独ライブの準備と似ているんです。そんなに難しくも感じないんですよね」
単独ライブは、日程を決めてからネタを考え、必要な衣装や小道具をそろえます。本番に向けて練習を重ねながら告知してチケットを売り、ライブ当日に来てくれたお客さんの前で、すべてを出しきります。
とはいえ「僕はとりあえずスタートしてみて、予想外のことが起こったら、その都度修正するタイプ。だから、最初に赤字を出しちゃったんだと思います」としゅうごパークさんは笑います。
失敗も糧にして、カレー店の副業をしながら芸人として前に進むしゅうごパークさん。年齢を重ねるごとに視野が広くなり、芸や生き方についても柔軟に考えられるようになりました。
「沖縄にいた頃は、変に尖っていたこともありました。芸人活動だけで生活できていたのに、『全国放送のテレビ番組でネタをしたい』っていう一心で上京したんです」
そうやって「ネタ」で売れることにこだわっていた時期もありましたが、ハンジロウの今の仕事の大半は沖縄をテーマにしたものです。最近では、NHKの朝ドラ『ちむどんどん』にも出演しました。
さまざまな出会いと経験を重ねて、自身の沖縄人というアイデンティティを受け入れられるようになりました。さらに、「あちらからやって来る流れにも乗っかれるようになった」と振り返ります。
「パーク店を始めたように、できることにはとにかく挑戦してみようと思って、最近になってコンビでTikTokをはじめました。『ビートたけし杯』や『THE SECOND』にも挑戦しています」と話します。
「ありがたいことに、『ビートたけし杯』では優勝させていただけましたが、『THE SECOND』は難しくて……。『キングオブコント』も含めて、参加できる大会がある限りは挑戦し続けます」と今後を見すえています。
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