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#18 親になる

〝2人目の壁〟の正体は 「10年で最高値」も当事者が覚えた違和感

「2人目の壁」が注目されているが……。※画像はイメージ
「2人目の壁」が注目されているが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

出生率が過去最低を記録する中、さまざまな理由で2⼈⽬以降の出産をためらうことを指す「2人目の壁」についての調査結果が発表され、その存在を感じる人がこの10年で最高値をマーク。しかし、この調査の中には当事者から見ると違和感を覚える結果もありました。政府の子育て支援策がSNSで批判される理由にもつながる、「2人目の壁」の正体を考えます。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「2人目の壁」10年で最高値

昨夏に生まれた第一子が、ついに「ぱぱ」としゃべるようになりました。しかし、どうやら「ぱぱ」=私と認識しているわけではなく、遊びたいとき全般に口に出す言葉として発しているよう。これからに期待です。

もうすぐ1歳。保活も進む中で議題に上がるのは、やはり今後の家族計画。そして、例に漏れず直面したのが、いわゆる「2人目の壁」でした。

6月2日、1人の女性が産む子どもの数の指標となる出生率が昨年1.26で、7年連続で前の年を下回り、統計を取り始めて以来、最低になったことが、厚生労働省の発表からわかりました。

5月31日には、公益財団法⼈1more Baby応援団が2013年から実施する「夫婦の出産意識調査」の最新の結果が発表されています。同財団は「2人目の壁」を「⽣活費や教育費などの家計、仕事環境、年齢などさまざまな理由から、2⼈⽬以降の出産をためらうこと」と定義しています。

同財団が全国の既婚男⼥2961⼈(「⼦どもがいない」「⼦どもが1⼈」「⼦どもが2⼈以上」)を対象に調査したところ、全体の78.6%が「『2⼈⽬の壁』が存在する」と回答。これは過去10年の最⾼値で、21年から2年連続で上昇しているということです。

「2⼈⽬の壁」を感じる理由としては、主に教育関連費などの「経済的な理由」(76.8%)がトップ。関連して、『2⼈⽬の壁』を解消するために必要なこととして「出産・育児費の経済的サポート」「教育費の経済的なサポート」が挙げられました。

ここで「経済的な理由」と答えた1787⼈に「どのような費⽤が負担に感じるか」を聞くと、1位が「⼤学の教育費」(63.9%)、2位が「⾼校の教育費」(58.0%)、3位が「⾷材・⾷品費」となっており、将来の教育関連の費⽤に加え、⽇々の⾷費について負担を感じている⼈の割合が⾼いことがわかりました。

一方、2人目の壁を感じる理由の2位以降は「ゆとりのある時間、⾃由な時間が取りにくくなる」(45.3%)、「第⼀⼦の⼦育てで⼿いっぱいのとき」(45.2%)など、同じような割合で複数の理由が選ばれており、「2⼈⽬の壁」は経済的な理由だけでなく、各家庭の事情に応じて、さまざまな要因が影響しているとわかります。

「2⼈⽬の壁」を感じた具体的なきっかけとして多かったのは「物価上昇や増税で家計の圧迫を感じる時」(51.2%)、「1⼈⽬の育児が⼤変だと感じる時」(45.8%)という結果になっています。
 

「2人目の壁」の“正体”は

大前提として、私も妻も、この壁の存在を感じています。この調査結果を受けて、我が家にとっての「2人目の壁」は何かを考えてみました。

実際、経済的な理由で壁を感じることは否めません。しかし、実は私は、今回の調査結果に違和感を覚えていました。というのも、高校や大学といった将来の出費より、目の前の出費がわりと大きいからです。

ミルク代と離乳食の材料費は月1万5000円程度、おむつ代は月に1万円超。発育・発達に応じてエプロンやマグ、ベビーヘルメットなどを買い足したり、一時保育の費用なども加えたりすると、大体毎月3~4万円ほどの出費になります。

会社からは家族手当てが出ているので、このうち一定の金額は賄えるのですが、ここにベビー服やおもちゃ、絵本なども加わってくると、家計に影響するのは事実です。

そして我が家は現在、保活の真っ最中ですが、この保育園はさらに、経済的な影響が大きくなりそうです。認可や認可外、どちらの保育園に入れるかにもよりますが、仮に第一子、0~2歳児の保育料の負担が5万円だったとして、月々に出ていく金額としてはかなり大きくなります。

現在、妻は育休中。保育料やその他の条件次第では、無事に保育園に入ることができて仕事復帰した場合と、保育園に入れず育休を延長した場合で、実は家計における収入は同じくらい、という現象が起こり得るとわかり、夫婦で驚きました。

我が家では、頼れる(自分たちの)親がかなり遠方在住、という事情もあります。例えば今以上に活発であろう2歳児を抱えながら、さらに0歳児を迎えることができるのか、と考えると悩ましいです。

第二子を授かったとして「夫婦の仕事(育休)をどうするか」「保育園の送り迎えや家事の分担は」「第一子と第二子はそれぞれ家のどこで寝るのか」、関連して「どこに住むのか」「より広い/部屋数の多い家を借りるのか買うのか」、話が戻って「それらをする経済的な余裕はあるか」と、悩みの解像度も上がります。

こうして見ると、自分たちにとっての「2人目の壁」の正体は、経済的な事情と家庭の固有の事情が絡まり合うものの、後者も結局は経済的な事情につながっていく、そのため総体として経済的な事情が大きい、と言えそうです。
 

「少子化対策」とひと括りにせず

今回の調査は、対象が⼥性20〜39歳、男性20〜49歳の既婚者(男性は妻が39歳以下かつ結婚14年以下の既婚者)で、その家族構成の内訳は「既婚で⼦どもなし」が815⼈、「既婚で⼦ども1⼈」が993⼈、「既婚で⼦ども2⼈以上」が1152⼈となっています。

壁を感じつつ、すでに第二子をもうけている家庭が最も多いことになります。もし上の子どもがすでに就学した状態だと、悩みの種類も変わってきそうです。我が家のように「既婚で⼦ども1⼈」の状態、特に子どもが0歳児だと、高校や大学のための資金というのは、優先度の高い課題ではないからです。

「2人目の壁」になり得る要因は他にもあります。例えば夜泣きで自分の睡眠時間がまとまって取れないとき、「この期間をもう一度、あるいはそれ以上、繰り返すのか」と、途方に暮れることも。また、第一子が緊急帝王切開で生まれたため、第二子以降は基本的に帝王切開が推奨され、妻の体の負担も心配です。

これらの要因が消えることはありません。天秤にかけて、なお「第二子を授かりたい」と思うためには、他の解消できる要因を解消するしかないとも考えられます。真っ先に思いつくのは、経済的な支援でしょう。実際に、政府が打ち出す少子化対策には、経済的なものが目立ちます。

一方で、この調査で「⽇本は⼦どもを『産みやすい』『育てやすい』国に近づいているか」を聞いたとき、「近づいている」と回答した⼈はどちらも2割台しかおらず、75.1%は産みやすい国に「近づいていない」、75.8%は育てやすい国に「近づいていない」と回答しています。

今回の調査に私が覚えた違和感は、政府が最近、次々と発表している、いろいろな「子育て支援策」へのSNSでの批判にもつながります。

せっかく支援しようとしてくれているのなら、当然、支援されたい。だって、大変だから。それなのに、政策の発表の度に、当事者からの反発を招いてしまう、不幸な構図です。

でも、当事者間でも、例えば子どもが就学しているなど年齢が高めの場合と、生まれたばかりの場合では、支援のニーズがかなり異なるのは、ここまでみてきた通りです。例えば我が家であれば、高校や大学の教育費の支援ではなく、0〜2歳児の保育園の自己負担がもっと支援されれば、第二子の機運は大きく高まります。

政府の方針がSNSなどで批判されがちなのは、もちろん個々の対策の是非はありつつ、「少子化対策」とひと括りにしてしまうから、という面もありそうです。

そうではなく、「今回はこんな家庭のこんな困りごとをターゲットにしています」と解像度を上げて打ち出し、一つひとつ悩みを網羅していくと、喜ぶ人も多くなるのではないでしょうか。当事者として、議論を見守りつつ、声を上げていきたいと思います。
 

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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