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「教育の先取り」求める親 でも個性を育てたい…玩具メーカーに聞く
いつの時代も赤ちゃんの好奇心は変わりません
ティッシュを繰り返し引っ張り出す、スマホを触りたがる、テレビのリモコンを持ち去る、親のメガネを外す……。いつの時代も、身近なものへの赤ちゃんの好奇心は変わりません。一方で、親が子どもの成長で重視することに変化はあるのでしょうか? 長年赤ちゃんの遊びを観察し、多くの親からヒアリングをしておもちゃを作ってきたメーカーに話を聞きました。
話を聞いたのは、1982年創業の玩具メーカー・ピープル(東京都中央区)の代表・桐渕真人さんと、執行役・森本裕子さんです。「いたずら1歳やりたい放題」(以下、やりたい放題)など、おもに0〜3歳の子ども向けおもちゃを企画販売しています。
長年、モニター登録する親へのヒアリングや子どもたちが遊ぶ様子を観察し、おもちゃの開発に取り入れてきました。
「子どもの好奇心は昔から今まで、何も変わっていません。特に0〜2歳くらいまでのお子さんは生まれ持った本能のまま生きています。一方で、変わっていくのは親の価値観です」と桐渕さんは話します。
やりたい放題は、発売当初から「子どもには思う存分やりたいことをやらせたい」という思いが根底にありました。メーカーとしては「知育玩具」と表現していませんが、「知育」と捉えられることもあります。
「知育」の捉え方には幅があるとしつつも、桐渕さんは「生まれ持った好奇心をそのまま発揮してもらうことを『知育』と考えていました。しかし近年、ひらがなや英語を覚えるといったインプットも『知育』と捉えられていると思います」と指摘します。
執行役の森本さんは「『知育』を『教育のひとつ前』として捉えている方が多い印象がある」と話します。
「やりたい放題に限らず、商品に期待することや要望を子育て中の方に聞くと、『教育の先取り』を求める声が必ず出てきます」
知育の捉え方が広がっている背景には、0歳から始められる幼児教室や通信教材の普及があるのではと分析します。
「弊社では『教育の先取り』をおすすめしているわけではありません」と森本さんは言います。
「子どもの関心は、成長していくなかで毎日変わります。関心や好奇心に合わせて楽しい遊びをすることが、私たちの『知育』の価値観です。捉え方が変化しているなかで『知育』という言葉を使い続けることに葛藤はありますが、商品開発のポリシーを変えることはありません」
「勉強させなきゃ」「早く習い事をさせなきゃ」といった親の早期教育への関心は高い一方、桐渕さんは近年「個性」というキーワードも目立ってきていると指摘します。
「親御さんから『個性』という言葉をよく聞くようになりました。『この子が何に関心を持つのかを探さないといけない』という使命感に駆られているようで、子どもの欲求を大事にしてきていると感じます」
「個性」を意識する親の増加を感じたのは、コロナ禍になってからのこと。「これまで『当たり前に行くところ』だった学校が休校になるなど、何が起こるか分からない世の中では、学力よりも個性を伸ばしたいと考える方が増えたのかもしれません」
「以前は多くの親が『勉強を頑張って、いい企業に入る』という考え方でしたが、価値観が多様化していると思います」
就職活動や学校教育でも「個性」という言葉をよく見聞きするようになったと話す桐渕さん。しかし、「まだ『どうすれば個性を伸ばすことができるのか?』と模索している段階で、教育の世界もご家族の方も試行錯誤し、それぞれに葛藤がある」と感じているそうです。
執行役の森本さんもコロナ禍で感じた親の変化があります。
「人と接触できず、支援センターが閉まったり予約制になったりしたため、初めて子育てをする方は、自分の子どもと同世代の子どもの様子を見ることが物理的に難しい環境でした。保育園でも先生やほかの親とほとんど話せません」
以前は月齢の近い赤ちゃんの行動を見たり、周囲の話を聞いたりして、子どもの成長をイメージできましたが、コロナ禍で親の情報源のほとんどはスマホから。どんな情報にたどり着けるかは、親の検索次第です。
森本さんは、「あるお母さんが『子どもが3カ月になって、ものすごく手をなめるようになった』と心配していた」ことが印象に残っています。
「長年商品開発をしてきた立場からすると、それは当たり前の発達過程。しかし、初めての育児ではそういったことも不安に思うものです。コロナ禍でほかのお子さんと比較もできず、相談もできなかったのだと思います」
一方で、コロナ禍で他者と接する以上に自分の子どもと向き合う時間が長くなったことも、「『この子らしさ』『個性』を考えることへつながったのかもしれません」と話します。
おもちゃ「やりたい放題」を作ってきたピープル社は、時代や親の価値観が変わっても、子どもの好奇心を一番に考えてきました。
2022年には新たに、「子どもの好奇心がはじける瞬間をつくりたい!」というパーパス(企業の存在価値)を掲げています。
「子どもたちの好奇心が止められてしまう瞬間が、実は世の中にはたくさんある」と桐渕さんはいいます。
「ティッシュを引っ張り出すことも、目の前でやられるとつい止めてしまう親は多いと思います。でも、その好奇心を一つずつ肯定していくことで、子どもたちは満たされるんです」
「子どもたちが、ありのままの好奇心を丸出しで生きていける。そんな世の中になるといいなと思っています」
※この記事はwithnewsとYahoo!ニュースによる共同連携企画です。
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