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THE SECOND王者・ギャロップの強力な3本柱

ギャロップの林健さん(左)と毛利大亮さん=2023年5月20日撮影
ギャロップの林健さん(左)と毛利大亮さん=2023年5月20日撮影

目次

今月20日、結成16年以上を対象とした漫才の賞レース『THE SECOND~漫才トーナメント~グランプリファイナル』(フジテレビ系)が放送され、関西を中心に活動するギャロップが見事初代王者に輝いた。M-1グランプリとの違い、上位3組の魅力など、初開催となった大会を振り返る。(ライター・鈴木旭)
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THE SECONDとM-1の違い

大ベテランから中堅まで133組がエントリーした今大会。2月中旬の選考会、3月末と4月末に行われた2回の予選(ノックアウトステージ「32→16」「16→8」)を経て、ファイナリスト8組が20日の決勝トーナメント「グランプリファイナル」で激突した。

ファイナリストは金属バット、マシンガンズ、スピードワゴン、三四郎、ギャロップ、テンダラー、超新塾、囲碁将棋(準々決勝の対戦カード順)。マシンガンズ、三四郎、ギャロップ、囲碁将棋の4組が準決勝へと駒を進め、決勝でマシンガンズを破り優勝を果たしたのがギャロップだった。

「M-1グランプリ」との違いは、大きく3つある。まずは、予選の段階からタイマン形式でのネタバトルで勝者が決定するトーナメント方式を採用したことだ。予選会場で通過者が絞られるM-1と異なり、対戦するたびに勝ち負けが決定する。

2つ目は、ネタ尺の長さだ。M-1は準々決勝から決勝までが4分、THE SECONDは予選から6分で統一されている。ネタ尺に余裕を持たせ、ベテランらしい時間の使い方を促すものだろう。

最後に挙げられるのが審査方法だ。M-1予選では主に放送作家が、決勝では松本人志をはじめとするお笑いのプロが審査を担当するのに対し、THE SECONDでは一貫して観客100人が「とても面白かった:3点」「面白かった:2点」「面白くなかった:1点」で採点し勝敗を決定する。

プロのフィルターが掛からない審査には、ある種の臨場感がある。しかし、それだけでは見どころに欠けると考えたのだろう。大会アンバサダーの松本人志が、ネタ終了後にコメントし、司会の東野幸治や出場者とやり取りするポジションを担った。

結果として、やはり松本の存在は大きく、平場でのトークも含め、さらに大会が盛り上がったことは間違いない。

ギャロップの強力な3本柱

初開催となる大会でひと際、目立った漫才師は、何と言っても初代王者の座を射止めたギャロップになるだろう。

背が低く、薄毛を自らネタにする中年のボケ・林健と、背が高く滑らかな活舌と声色が特徴のツッコミ・毛利大亮。2人の掛け合いは、まるで音色の違う精巧な楽器を思わせた。結成19年と言うと、中堅からベテランに差しかかる時期なのだろうが、その風格は間違いなくベテランの域に達していた。

披露したのは、1本目が“100個のカツラで違和感なく増毛しようとする”薄毛ネタ、2本目が“電車のストレスあるある”を飛躍させたネタ、3本目が高級フレンチにまつわるネタだ。どれもピンポイントなテーマながら、奥行きを感じさせるものだった。

彼らの漫才は、後半に向かって徐々に盛り上がっていく。理想的な形と言えるが、とくに3本目は「中盤から林が一方的に話し続け、ラスト手前まで毛利は一切ツッコまない」という思い切った構成だった。普段から劇場でもかけるネタと聞いたが、腕に自信があるからこそなせる業だろう。

「THE SECONDがM-1と決定的に何が違うのか」は、決勝戦を見るまで漠然としたところがあった。トーナメント方式、6分ネタ、観客による審査。こうした外堀だけでは、今一つはっきりとしなかったのだ。そこに「ネタの幅広さ」「巧みなコンビ芸」「圧巻の話術」という強力な3本柱を立てて見せてくれたのがギャロップだったように思う。

大会を振り返れば、ギャロップは予選でも、構成力の高さで笑わせたラフ次元、決勝トーナメントで松本から「漫才マシーン」と称賛されたテンダラー、“東京漫才界のカリスマ”と呼ばれる囲碁将棋という漫才の猛者を打ち破った実力者である。

大会の色がつくことを考えても、ギャロップが初代王者となったことの意味は大きいのではないだろうか。
 

マシンガンズの開き直りの強さ

惜しくも準優勝となったが、もっとも観客を味方につけたのがマシンガンズだ。ボケ不在の“ダブルツッコミ”と呼ばれるスタイルは、『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ系)など2000年代のネタ番組を大いに盛り上げた。

しかし、賞レースで脚光を浴びることはなく、ブレークできないまま時が過ぎていった。滝沢秀一は生計を立てるため2012年からごみ収集会社に就職。「芸人は副業」と公言し、ごみ研究家として本を出版したり講演を行ったりもしている。相方の西堀亮も、副業である土木作業員の日常を伝えるYouTube動画で話題になったり、発明学会のコンテストに作品を応募し優良賞を受賞したりするなど、芸人以外での活躍が目立った。

そんな彼らが、結成25年で初めて大きな賞レースの決勝に進出したのだ。それだけでも筆者としてはグッとくるものがあった。

1本目は地方営業をディスるネタ、2本目は主にネットの書き込みにツッコむ自虐ネタ、3本目は街で声を掛けられた際のエピソードにまつわるネタを披露。本人たちが「ネタがない」と言っていた通り、3本目はほとんどの時間をフリーの掛け合いで埋めた。

予選の時点から、彼らは開き直りの強さがあった。最初の1分~2分、必ず彼らはネット上で見た視聴者の声など直近の話題から入る。そこで“自分たちはここまできたら十分”というスタンスを見せ、自虐ネタに入っていくのだ。

とくに客のリアクションを見て「ちょっと笑いが少なくなってきましたね」などと次々と笑いに変えていったシーンは、1980年代の『THE MANZAI』(フジテレビ系)を彷彿とさせた。ネタの強さで戦うM-1では、到底考えられない光景だ。

その意味で、マシンガンズには新鮮な面白さがあった。残念ながら優勝は逃したが、大会の自由度の高さを証明した2人なのは間違いない。
 

惜しくも敗れた囲碁将棋

もう1組、囲碁将棋も非常に惜しかった。準決勝でギャロップと284点で並び、大会ルールにより3点を入れた人数が少なかったことで敗退。もしこれが逆の結果だったら……と夢想してしまう自分がいる。それほど彼らの漫才は、特殊かつ絶妙なのだ。

まず決まった漫才の型がない。基本的に文田大介がボケ、根建太一がツッコミなのだが、1つのネタでどちらもボケたりツッコんだりする。

当人が意識的かは別として、文田は意外と鋭いボケ、根建はちょっと天然なツッコミというキャラ設定の中で掛け合うため、学生時代に「部室の隅っこで男子学生がチグハグなことを真剣に言い争っている」ような妙なおかしさが生まれるのだ。

テンポの良い標準語の掛け合いでここまでユニークなのは、彼らをおいてほかにいないのではないだろうか。1本目はものまねのタイトル合戦で笑わせるネタ、2本目は副業にまつわるネタを披露。どちらも彼ららしく、勢い良く6分間を走り切った。

また来年、再び決勝トーナメントに戻ってくることを心から期待している。
 

THE SECONDを恒例の大会に

そのほか、テンダラー、スピードワゴンはベテランの余裕を感じさせる漫才だっただけに、1回戦で敗退したのは残念だった。金属バット、三四郎も、それぞれの持ち味を存分に発揮していたし、超新塾は5人ならではのチームワークで大会を盛り上げた。

トーナメント方式は、対戦カードの運も重要な要素だ。とはいえ、だからこそ強敵ばかりと戦ったギャロップの凄みも際立つことになった。

大会の終了間際、アンバサダーを務めた松本人志が「誰も損しなかった大会だったんじゃないかなと思います」と口にしていたのが印象的だ。その言葉通り、ファイナリストの面々が軒並み笑顔でギャロップを祝福していた。

優勝者は1組かもしれないが、「面白いベテラン漫才師がこれだけいる」ということが世間に知られただけでも大きな意味があったように思う。またスタジオセットやカメラワークからも、“漫才師メインの大会”という番組スタッフの熱い思いが見て取れた。

初開催としては大成功だったのではないだろうか。来年以降、THE SECONDが中堅やベテランのモチベーションを高める恒例の大会になっていくことを切に願う。
 

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