連載
#106 コミチ漫画コラボ
「もし自分が分からなくなったら」…介護士の母と話した認知症のこと
「知らない」から「怖い」のかも
5月14日は母の日です。京都に住むイラストレーターのつくもともよよさん(30代)は、介護士だった母と「認知症」について話したときのエピソードを漫画にしました。その後、自身も同じ介護職に就き、当時の母の言葉を思い出していたといいます。
漫画のエピソードは、つくもとさんが高校生だった頃にさかのぼります。
専業主婦をしながら農業の手伝いをしていた母。娘3人の子育てが落ち着くと、介護ヘルパーとしてパートを始めたそうです。
ある日、「なんで介護のパートにしたん?」と聞くつくもとさんに、母は答えます。
「昔からお年寄りが好きやってん」
「小さい頃おじいちゃんの血管が浮き出た手がカッコいいなぁと思ったり、入れ歯してない時のひぃばぁちゃんが可愛いなぁって思ってたんよ」
楽しそうに話す母を見てつくもとさんの中で「介護の仕事のイメージも少し良いもの」になったそうです。
たびたび介護の話をしてくれる母に、つくもとさんは認知症について聞いてみました。
「認知症で忘れるのも悪くないんちゃう? 死んでいく怖さをやわらげてくれるらしいやん」
すると、母は「う~ん…」と考え、「どんな気持ちだろう…」と答えました。
住んでいる住所が分からなくなり、家族の名前が分からなくなり、時間をかけてだんだんと忘れることが増えていってしまう――。
つくもとさんは、母と認知症の話をするなかで「もし自分が分からなくなってしまったら」と恐怖を抱きました。しかし、その恐怖がどこからくるものなのか、当時は言葉に表すことができませんでした。
それから数年後、介護福祉士として働くようになったつくもとさんは、何人もの認知症のお年寄りと接するなかで母との会話を思い出します。そして、あの恐怖感の正体も分かってきました。
「あの時の私は、自分は今ここにいるのに、自分が無くなっていく感覚がとてつもなく怖かったんだと気付きました」
完全に治す方法や恐怖や悲しみを取り除く方法はないけれど、もし、忘れかけた名前を呼んで手をとってくれる人がいたら。つくもとさんは、マンガをそんなラストで描きました。
介護の仕事を身近に感じさせてくれた母は、「自分より一歩先に行っている先輩」のような存在です。大変なイメージもある介護職ですが、お年寄りと接することが好きな母には合っている仕事で、いつも「楽しいよ」と話していました。
母と話すことで介護の世界を少し知ることができた、つくもとさん。
自身も介護現場で働くようになって、知識と経験を蓄えたからこそ、認知症と向き合えました。
漫画で発信したのは、「認知症の人はどんな風に感じているのかが分かれば、思いやりを持って接することができるのでは」と考えたからです。
同世代の知人と話をしていると、将来への不安を感じることも多々あります。「今は親が若いから大丈夫だけど、今後は介護が必要になってくるかもしれないという人もいました。過去の自分のように認知症に怖いイメージを持っている人もいて、『自分がなったらどうしよう』『認知症の人へどう対応していいか分からない』という声も聞きます」
不安に思うのは、お年寄りや認知症について知らないことが大きいのかもしれません。「怖いんじゃないんだよ、認知症になったご本人も戸惑っているんだよと伝わるとうれしいです」
2022年末に介護福祉士を辞め、イラストレーターとして活動している、つくもとさん。引き続き、11年間介護職で培ってきた知識と経験も生かして発信していきたいと話しています。
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