グルメ
料理がつらい、冷食に罪悪感…「こうあるべき」から自分をほどくには
白央篤司さん『台所をひらく』で伝えたいこと
料理をつくるのがつらい、献立が思い浮かばない、食卓に冷凍食品を出して罪悪感をおぼえる……。そんな日々の料理にまつわる悩みを、読者やSNSのフォロワーから聞いてきたフードライターの白央篤司さんは「もっとちゃんと料理を作らなきゃ、と思っている人が想像以上に多い」と指摘します。新著『台所をひらく』(大和書房)を出版した白央さんに、本に込めたメッセージを聞きました。(withnews編集部・水野梓)
暮らしと食や、日本の郷土料理・ローカルフードをテーマに記事を書いているフードライターの白央さん。
パートナーと猫2匹と暮らす自宅では、家事としての料理を担当し、「料理は好き」だといいます。
そんな白央さんでも「ごはんを作りたくない」と思うことがあるそうです。
「『作りたくない』とき、これという理由はないんですよ。疲れていても作れちゃうときもあるし、疲れていないのに作れないときもある。たいそうな理由は必要なくて、そういう日はそういう日なんです」
これまでSNSなどでも「きょうは作りたくない」と正直に発信してきましたが、フォロワーからは「フードライターさんでもそう思うことがあるんだ、とうれしくなります」といったリプライが届くそうです。
「『料理がおっくう』『献立が思い浮かばない』といった、毎日つくる料理のしんどさってありますよね。『料理は好きでも、家事としての料理は別』『好きだからって毎日やれるわけじゃない』的なことを伝える本ってあまりないんじゃないかな、どんどん言っていこうと思って『台所をひらく』を書きました」と話します。
8年前にパートナーと暮らし始めたとき、飲食店でのアルバイト経験から「料理が得意」と感じていた白央さんは、炊事当番に名乗りをあげ、お弁当づくりも担うことに。
自身の母が毎日、違うおかずを出していたことから、自分も「同じおかずを続けて出してはいけない」と思い込んでいたそうです。
毎日、献立を変えて料理を手作りし、苦手な揚げ物をしてパートナーの好物の唐揚げをお弁当に入れたり、冷めてもおいしいものを詰めたりしていました。すると3カ月後にはレパートリーが尽き、「なんて情けないんだろう」と自分を責め、ごはん作りが苦しくなったといいます。
「連れ合いに文句を言われたわけでもないのに、『違うおかずを出さなきゃ』『手作りは喜ぶはず』って思い込んでしまっていたんです」
しかし関西人のパートナーから、夕食に出した「すき煮」を「明日のお弁当に入れて」と頼まれたり、冷食の唐揚げをおいしいと言われたり、「毎日、違うおかずを出す家なんてあるんや」と驚かれたり……。
そんなやりとりを重ねて、だんだんと「自分とウマが合う料理しか作らない(揚げ物はしない)」「料理を作りたくない日は作らない」といった日々の料理との向き合い方の「マイセオリー」が育まれていったといいます。
さらに、メディアの連載企画やSNSで読者からの悩みに答えたり、以前に出した『自炊力』(光文社新書)への感想を読んだりした経験も大きかったと振り返ります。
「想像以上に『ちゃんと料理を作らなきゃ』って思っている人が多いんですよね。誰かの悩みに答えようとすると、『作っているだけでもすごいのに』『しなくていい自己否定をされてしまっている……』と感じるんですよ。そこで『もしかしたら自分も、料理について自分を意味なく否定しすぎている部分、あるな』と気づけて、こだわりがほどけていきました」
たとえば、冷凍食品やレトルト食品を使うとき。新著『台所をひらく』のなかでは「レトルトや冷凍食品で『済ます』と考えると罪悪感が発生して、心の疲労物質を生みやすい」ので、「レトルトや冷食を『楽しむ』日と考える」と勧めています。
「冷食やレトルトはストックできるのもありがたいですよね。数百円ぐらいでも本当においしいものがあるので、試してみてお気に入りを作っておくと楽しいですよ」
冷凍ピザに、冷凍オクラやシラスをトッピングするレシピも掲載。「日本人に足りないカルシウムと食物繊維をプラスできるので、冷凍庫に常備しておくのがおすすめです」と話します。
「最近は『手抜き料理』ではなくて『手間なし料理』って言い換えるようにしています」と白央さん。
「料理本や企画って『ズボラ料理でいこう』とか『手抜き料理で楽ちんに』と言いがちですけれど、それもまた圧になってしまうケースが多々あるんです。『私のやってることって手抜きなんだ』と思ってしまう人もいるわけですよ」
『台所をひらく』では、料理を「作る人」だけでなく、「食べる人」の心構えを提案しているのも特徴的です。白央さんは「一緒の食卓にいても、見ているものが全然違うこともあると伝えたかった」と話します。
料理を出したらすぐ食べ始められるように、箸や小皿を準備したり、食後は流しに運んで水でぬらしたり、お皿を洗って元の場所に片付けたり。
「もちろん『誰かと暮らすなら必ずこうするべき』という意見ではありません。でも、職場やサークルなど友人との関係では、自然と『相手はこうしてほしいかな?』と考えて自ら動いている人が多いですよね。なぜ家の食卓だとそれができなくなってしまう人が多いのか、ということをよく考えます」と話します。
ほかにも、料理の見栄えが悪いなと感じるときに母フジエさんの「売りものじゃあるまいし」という言葉に救われてきた体験をつづったエッセイや、献立に困ったときのお助けレシピなどが盛りだくさんの『台所をひらく』。
サブタイトルの「料理の『こうあるべき』から自分をほどくヒント集」は白央さんがつけたそうです。
「できることなら栄養たっぷりにおいしく作れたらいいけれど、料理にかける時間や労力の優先度が低い人の方が多いと思うんです。もっと料理との向き合い方がラクになったり、便利になったりする情報が必要だと思います」
日々の料理をつくる担当だけど、気が重い。もしくは、まだしんどさに気づけていない人もいる――。
「そんな人に手にとってもらって、『そうそう』『それつらいと思ってた』と感じてもらえたらうれしいです」
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