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セーラー服姿の93歳「Vtu婆」6万人が支持した挑戦、孫が語る愛

戦争、老い…唯一無二の体験に説得力

少女姿のアバターで半生について語る、93歳のVtuber。その活動背景に迫りました。
少女姿のアバターで半生について語る、93歳のVtuber。その活動背景に迫りました。 出典: YouTubeチャンネル「ぶいちゅー婆たんたん93歳_VtuberGrandma(@tantan_grandma_vtuber)」より

目次

3Dアバター「Vtuber」の動画コンテンツが、近年人気です。何と、90代になってから活動し始めた人物がいることをご存じでしょうか。戦争体験や老いの実感など、「年の功」が伝わる話題を、可愛らしい少女の姿で語るスタイル。ほっこりするような話しぶりや、ちょっぴり添えられる毒舌も含めて、幅広い層の支持を集めています。「大好きなおばあちゃんを、みんなに知ってもらいたい」。家族に対する惜しみない愛情を胸に秘め、日々の配信を支える孫に、企画の内幕について聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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「自由すぎる」おしゃべりが人気

「おはこんばんにちは、バーチャルおばあちゃんの『たんたん』です」

YouTubeの動画冒頭で、セーラー服を身にまとい、にこやかにほほえむ紫髪の少女。初々しい外観のアバターとは裏腹に、年輪を重ねた女性の声色で発せられるあいさつは、観る者に強い印象を残します。

声の主は、御年93歳のVtuber・たんたんさんです。孫の進行役「とも」さんと共に、デイサービスへの訪問体験や、昔食べたおいしいものの話、戦中・戦後の混乱期の生活など、様々なテーマについて縦横無尽に話し合っています。

その最大の魅力は、たんたんさんの「自由すぎる」おしゃべりと言えるでしょう。

健康のため大好きなアイスを我慢している。応援してほしい――。そんな趣旨の台本を音読した直後、「勝手に買って食べるから応援しなくていいよ!」と覆し、すかさずともさんに「ダメだよ!」と突っ込まれて高笑いする場面は象徴的です。

たんたんさんが92歳だった、2022年12月に開設したチャンネル「ぶいちゅー婆たんたん93歳_VtuberGrandma(@tantan_grandma_vtuber)」で公開済みの動画は、30秒程度の「YouTubeショート」を含め75本(2023年4月13日時点)に上ります。

2人のほほえましい会話が人々の心をつかみ、再生回数が100万回を超えたものも。「可愛くて癒やされる」との評判は広がり続け、チャンネルの誕生から約2カ月で6万人以上が登録しました。その後も着実にフォロワーを増やしています。

ゲーム実況中の〝乱入〟がウケた

「たんたんおばあちゃんは、本当に魅力的で可愛い人です。僕も大好きで、みんなに存在を知ってもらいたいと考えています」。動画の撮影から配信まで担当しているともさんは、取り組みにかける思いについて、そう話します。

元々映像制作に興味があり、健康情報などにまつわる自作コンテンツを、5年以上前からYouTube上で公開してきたともさん。未開拓の分野にも挑んでみようと考え、まだ競合が少ない「高齢Vtuber」領域での展開を思いつきました。

直接的なきっかけは、昨年5月に世に出したゲーム実況動画でした。プレイの様子を録画中、たんたんさんが自室に突如〝乱入〟してきたのです。マイペースに話しかけてくる様子が視聴者に好評で、需要が見込めると判断しました。

「僕のおばあちゃんって、会話していると常に面白いんです。発言そのものはもちろん、ちょっと毒舌で冷めているのかと思えば、優しさあふれる一言を口にするところも楽しい。ぜひ一緒に活動したいと思いました」

たんたんさんに新技術への抵抗がないことも、タッグを組めた理由です。過去に洋裁の教師として専門学校に勤め、70~80代にかけて自宅でビーズアクセサリー教室を開講。強い向上心と進取の精神が動画作りに向いていると考えたのです。

撮影に臨む、たんたんさん(左)とともさん。スマホ向けのVtuber配信用アプリ「リアリティ」をPCに接続し、録画を行っているという。
撮影に臨む、たんたんさん(左)とともさん。スマホ向けのVtuber配信用アプリ「リアリティ」をPCに接続し、録画を行っているという。 出典: ともさん提供

祖母に寄り添う孫の姿勢の尊さ

ともさんによると、取り上げる話題は事前に練り、長くても20分ほどで撮影を終えます。たんたんさんの体力を考慮し、無理のない形で続ける狙いがあるそうです。本人の言葉選びが巧みな点も手伝い、毎回見応えある仕上がりになるといいます。

例えば「歳をとることが怖い」という視聴者の質問に、「とっちゃうんだからしょうがない」と明快に即答するには、たんたんさんの前向きさが表れています。印象的な一言を引き出す上で欠かせないのが、ともさんの傾聴の姿勢です。

動画には時折、たんたんさんが発言の内容を途中で翻したり、一つの問いを繰り返し口にしたりする場面が登場します。その都度優しく相づちを打ち、積極的に話題を広げるともさんの応対ぶりが、ファンの間で語りぐさになっているのです。

「普段と一緒で、自然にコミュニケーションを取っているだけなんです。同じことを何度か尋ねられても、毎回初めて聞くつもりで接しています。こちらが返答するたびに、おばあちゃんの反応も変わるため、すごく楽しいんですよ」

「もし『しつこい!』などと叱責したら、きっと萎縮してしまうでしょう。僕がゲーム中、部屋に入ってこなくなるだろうとも思います。老いゆくうちにできないことが増え、ただでさえ無力感を抱いているはず。絶対に否定はしません」

こうした態度を巡り、介護職とみられる視聴者からは「とても良い関わり方ですね」というコメントが書き込まれました。親のケアを控えていると思わしき、40代以上の人々も多くチャンネルを訪れており、関心の高さがうかがわれます。

視聴者からの質問に独特の感性で答える様子は、多くの人々の答えをつかんでいる。
視聴者からの質問に独特の感性で答える様子は、多くの人々の答えをつかんでいる。 出典:YouTubeチャンネル「ぶいちゅー婆たんたん93歳_VtuberGrandma(@tantan_grandma_vtuber)」より

戦争体験も安心して聞ける空気

これまで様々な話題について語らってきた2人。とりわけ、学生時代の戦争体験談を聞けたことは、ともさんにとって有意義だったといいます。

今年3月3日に公開した動画では、疎開中の日々を取り上げました。東京の自宅から、現在の神奈川県厚木市近辺にあった親の実家に、両親やきょうだいと引っ越したエピソードにまつわる内容です。

本編中、家の周囲に広がる畑越しに、東京への空襲を目撃したことが明かされます。灯火管制で真っ暗となった街に、米軍の爆撃機が焼夷弾を落とす――。その様子が「パチパチという音が聞こえた」といった思い出と共に述べられるのです。

戦争証言と聞くと身構えてしまいがちかもしれません。しかし少女のアバターが淡々とした口調で話す点や、祖母と孫の軽やかなやり取りが、場の雰囲気を和ませてくれます。家族の何気ない会話を耳にした際のような安心感さえ漂うのです。

「一緒に暮らし始めて長いのに、全く知らない過去でした。とても大きな価値があると思います。視聴者の方々からも『勉強になる』『つらい気持ちにならずに耳を傾けられた』といった感想が寄せられ、質問してみて良かったと感じました」

戦争関連の動画は複数本公開されていますが、いずれのコメント欄も平穏そのものです。かつて思春期を過ごした、一人の女性の記憶をたどる。そんな体裁を保っていることが、安定性につながっているのではないかと、ともさんは分析しました。

子供の頃に疎開先で目撃した、空襲の様子について語るたんたんさん。
子供の頃に疎開先で目撃した、空襲の様子について語るたんたんさん。 出典:YouTubeチャンネル「ぶいちゅー婆たんたん93歳_VtuberGrandma(@tantan_grandma_vtuber)」より

「続けることが一番大切だと思う」

Vtuberとしての活動は、たんたんさんの心身に好影響も及ぼしました。ともさんいわく、以前はぼうっとテレビを観ているときが多かったそうです。一方で最近、明らかに活力が増しているといい、動画配信が生活に張りをもたらしています。

更に今年に入ってから、民放テレビ局の取材を受けたことで、認知度も急上昇。世代や地域を超えて自分の価値観が伝わった事実に、生きがいを感じているように見受けられると、ともさんは述懐します。

「杖をつかないと歩けない場面があったり、買い物帰りにものすごく疲れてしまったりと、おばあちゃんの老いは確実に進んでいます。本人はそのことにショックを受け、『家族に迷惑をかけているのではないか』と思うときもあるようです」

「だからこそ、社会に求められている実感が得られることは、とても大切です。激しく動かずとも撮影できる点を含め、セカンドライフを楽しむ手法の一つとして、Vtuberの価値を伝えていきたい。そんな願いと使命感を持っています」

最後に、ともさん経由で届いた、たんたんさんのコメントをご紹介しましょう。

「Vtuberとして面白いのは、若い人のことを知られる点や、彼らの声が聞ける点。お年寄りの言葉を聞いてもらい、互いに理解し合えるのもそうです。でも『癒やされる』というのは本当にわからない。自分が可愛いわけないと思います」

「これからは、孫と話しながら、自分に必要とされていることをやりたい。続けることが一番大切だと思っています」

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