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#12 親になる

赤ちゃん股関節「脱臼してるかも」 痛みもなく元気に動くのになぜ?

突然「脱臼の可能性」と言われたが……。※画像はイメージ
突然「脱臼の可能性」と言われたが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

生後半年が過ぎ、すっかり油断していた検診で、股関節が「脱臼してるかも」と言われ、慌てた我が家。「元気に足を動かしているのになぜ?」と調べてみると、赤ちゃんの股関節の脱臼は、大人とは少し事情が異なるようで――。医療機関や専門学会を取材しました。(朝日新聞デジタル企画報道部・朽木誠一郎)
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「痛そう」「歩けない」イメージだが…

生後6カ月、我が子ははっきりとではないものの、意思のようなものを示せるようになってきました。

在宅勤務と育児が重なったこの半年、妻に助けられながらお世話をしてきた成果は、パパである私を見つけると、それだけで喜んでくれるようになったこと。仰向け寝の体勢から「ぎゃう! ぎゃう!」と大きな声をあげ、足で宙を蹴るように思いっきり前に突き出します。

うれしい半分、うるさい半分で、子どもの健康をまったく疑っていなかったのですが……6・7カ月健診で医師から衝撃の言葉が。

「股関節の開きが悪いので、まれにですが、脱臼している可能性もあります。念のため、整形外科にかかってください」

相変わらず「ぎゃう! ぎゃう!」と足をバタバタしている子どもの横で、「脱臼?」とポカンとしてしまいました。

実は、赤ちゃんの股関節の脱臼は、大人とは事情が異なります。「痛そう」「歩けない」というイメージがありますが、赤ちゃんにとっては痛くなく、脱臼したまま歩けることもあるのです。

かかりつけのお医者さんによれば、一口に脱臼と言っても「片方だけ脱臼している」「完全な脱臼ではないが外れかかっている(亜脱臼)」「本来は大腿骨の頭の部分を覆う屋根の部分(臼蓋)がしっかり覆っていない(臼蓋形成不全)」など、さまざまだということでした。その精査のために、専門医の診察を勧められたのです。

さて、結論から言うと、整形外科の診察の結果、我が子は股関節の脱臼ではありませんでした。理由は、専門医を受診したその日はたまたまごきげんだったから。

逆に、健診のときには人見知り・場所見知りを遺憾なく発揮し、泣きじゃくりながら力一杯、両足を突っ張り、柔軟性を試す検査(足をM字に開いてぐいぐい押すなど)に抵抗。その結果、ある意味では元気すぎるあまり、「股関節の開きが悪い」と診断されてしまったのです。

結果的には心配なかったものの、痛くなく、脱臼したまま歩けることもあるというのは気になります。赤ちゃんの股関節脱臼について、調べてみることにしました。
 

「脱臼多発国」だった日本

赤ちゃんの股関節脱臼について、あいち小児保健医療総合センターに話を聞きました。同センターは先天性股関節脱臼について、わかりやすい情報発信をしています。

【参考】先天性股関節脱臼について - あいち小児保健医療総合センター

同センターによれば、1970年代以前、日本は100人に1人が脱臼している「脱臼多発国」だったそう。

主に小児整形外科医による出生後の脱臼予防活動の徹底、加えて後述するように脱臼の原因になる布おむつの使用率の低下により、減少した完全脱臼の発生率は現在0.1〜0.3%(1000人に1〜3人)ですが、「徐々に発生率がまた増えてきている印象」であるともします。

「外傷性の脱臼と異なり、先天性股関節脱臼は脱臼していても赤ちゃんに痛みはありません」「脱臼していると歩き始めは一般的には遅いですが、脱臼のために歩けないことはありません(記者注:この時期でも痛みはほとんどないが、特徴的な歩き方になる)」

先天性股関節脱臼は「女児(男児の約5~7倍)」「骨盤位(逆子)出生」「冬季の出生」に多いとされているそうで、右より左に多く、また最近の傾向として家族歴のある(血縁のある家族に股関節の悪い人がいる)赤ちゃんに多いとのこと。

赤ちゃんの股関節の脱臼は生まれつきの原因に、生まれた後の原因が加わって発生すると考えられています。前述したものの中では、生まれつきの原因には骨盤位が、生まれた後の原因には布おむつがあり、それぞれ股関節や膝関節が無理に伸ばされることで、脱臼しやすくなるとみられます。

そして、この脱臼はまさに我が家で疑われたように、乳児期(生後3カ月から6カ月)に「股関節の開きが硬い(開排制限)」「左右の下肢の長さが違う」「大腿、臀部の皮膚のしわが左右非対称である」などの特徴により、見つかることがあるのだそうです。

同センターは、2〜4カ月の健診で発見されることが「もっとも多いよう」とします。乳児期に発見された場合、脱臼の程度を超音波検査やX線検査で確認し、装具を装着して治療します。

また、1歳を過ぎて発見された場合や、装具で治らなかった場合は、専門家が時間をかけて徐々に引っ張る(同センターでは6週間かけてゆっくり引っ張る)などをして物理的に整復するか、手術により整復する治療があるとのことでした。
 

横抱きのスリングに注意

脱臼を予防する方法はあるのでしょうか。日本小児整形外科学会を取材しました。同学会は資料「赤ちゃんが股関節脱臼にならないように注意しましょう」で、この股関節脱臼について啓発しています。

【参考】赤ちゃんが股関節脱臼にならないように注意しましょう

同学会によれば、現在、発生がまれになっている先天性股関節脱臼(発育性股関節形成不全)は、抱き方やおむつの当て方でリスクを減らし、悪化を予防できるそうです。資料では「歩き始めるまで、次の点に注意しましょう」としています。

・仰向け寝のときは、M字型開脚を基本に自由に足を動かせるようにする
・抱っこは、正面抱き(=正面から抱いて両膝と股関節が曲がったM字開脚で抱く人の胸にしがみつく形)でする
・向き癖(いつも顔が同じ方ばかり向いていることで、反対の脚がしばしば立て膝姿勢になり、脱臼を誘発する)には、対策として反対の足が立て膝にならず、外側に開脚するような環境を準備する

おむつなどについては「両脚を外から締めつけて脚が伸ばされるような、きついおむつや洋服は避けましょう」とします。

また、両膝と股関節がM字型に曲がって使える「正面抱き用の抱っこひも」の使用は問題ないものの、近年、広がる横抱きのスリングは「開脚の姿勢が取れず、両脚が伸ばされる危険もあるため、注意が必要です」と指摘。

同学会は「1カ月と3〜4カ月の健診でチェックを受け、異常を疑われた場合は整形外科を受診することになりますが、気になる点があるときはいつでも整形外科を受診ください」と結んでいます。

心配はしたものの、健診のときの「足をM字に開いてぐいぐい押す」という検査の背景には、「脱臼多発国」だった日本という歴史があることを知る機会にもなりました。

とはいえ、お医者さんに「股関節の開きが悪い」と誤解されるほどの抵抗をみせるというのは、別の意味で今後にやや不安が残りますが……。ひとまずは元気に育っている証拠だと思うことにします。
 

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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