連載
#32 特別じゃない日
教師の仕事に募る不満、「なんでなったの?」聞かれ…意外なきっかけ
「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。ツイッターで発表して注目を集めた漫画「構成物」に込めた思いを聞きました。
シングルマザーの姉から保育園児の娘の世話をまかされた高校教師の青年。姉の都合に振り回されてうんざりしながら、姪っ子を家に連れて帰って晩ごはんを食べさせます。
将来の夢は「先生になりたい」という姪っ子に、青年は「教師なんて何もいいことがない。いくら注意しても何も響いちゃいない」と愚痴をこぼします。
ひらがなを練習する姪っ子に「先生になりたくなかったの?なのになったの?なんで?」と素朴な疑問をぶつけられ、ふと我に返って子どものころを思い出しました。
3人きょうだいの青年は、姉と弟の間のしっかり者。ある日、小学生の弟の算数の宿題をみてやりながら「物で10のまとまりを作って、余った数字を足すだけ。簡単だろ?」と鉛筆を使って説明しました。
すると、その場にいた姉が「教えるの、めっちゃ上手だよ。びっくりしちゃった。学校の先生とか向いてるのかもよ」。その何げない言葉が、心に深く刺さったのです。
姉にほめられたことがうれしくて、教師を目指したことを思い出した青年。
そこへ姉が娘を迎えにやってきます。娘は青年に教えられたとおりに練習したひらがなで、保育園の先生に手紙を書きながら眠りに落ちていました。
子どもの頃から絵を描くのが好きで、暇さえあれば黙々と描いて過ごしていました。
自分がなぜそんなに絵を描くことが好きになったかと思い返した時に思い浮かぶのは、何を描いても褒めてくれる母の存在でした。
単純な私は、それだけで自分の画力に確固たる自信を持ち、日々楽しく新作を生み出していました。
今の自分を構成するものはたくさんあると思いますが、こうして記憶に残っている「構成物」はとてもうれしく大切なものですよね。
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〈稲空穂=いな・そらほ〉 静岡県出身・在住の漫画家。会社員を経て2017年に「おとぎ話バトルロワイヤル」(KADOKAWA)でデビューし、「特別じゃない日」で日常をテーマにした作品に挑戦中。老夫婦や女子高校生、主婦、バイトの青年……それぞれの小さな幸せがつながっていく物語を描いていて、実業之日本社から第1集、第2集を発売。2023年3月には第3集「特別じゃない日 一緒に食べよう」が発売された。Twitterアカウントは@ina_nanana
withnewsでは原則隔週水曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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