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難病で長期入院の子ども「思春期ルーム」が必要なわけ 少子化も影響

「自分の部屋がほしい」という気持ちは、思春期に多くの人が抱いたことがあるはずだが……。※画像はイメージ
「自分の部屋がほしい」という気持ちは、思春期に多くの人が抱いたことがあるはずだが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

「自分の部屋がほしい」という気持ちは、思春期に多くの人が抱いたことがあるでしょう。それは、病気により時に年単位で入院しなければならない子どもも同じです。思春期の患者に専用の居場所を設けるための医療機関のクラウドファンディングが、ネットで多くの支援を集め、注目されています。経緯を取材しました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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「仕方ない」と受容してしまう子ども

「入院すると、子どもたちは『こういうものだ』と受容してしまうんです」

そう話すのは群馬大学医学部附属病院小児科教授の滝沢琢己さんです。

医療機関に、幼児用のプレイルームが設置されている例は、多くあります。もちろん病室では、大部屋でもカーテンなどで一定のパーソナルスペースは確保されています。

でも、「思春期の子ども」が「自由な時間を過ごすことができる空間」というのは、ほとんどなかったと言います。

「入院中でも、中学生らしく過ごす時間がほしい」

これは、同院に入院していた中学生の声。そんな思いを抱えていても、「入院中だから仕方ない」と諦めてしまう子どもたちがたくさんいることを、滝沢さんたちは課題だと感じていたそうです。

小児がんなど慢性・難治の病気に高度な医療を提供する大学病院の小児科患者は、一般的な病院の小児科患者よりも年齢層が上がり、まさに思春期の子どもが入院することもよくあると言います。また、治療が難しい病気では、入院期間が年単位になることも珍しくはありません。

同院小児科では2022年に500人以上の入院患者を受け入れ、その半数以上が12歳~18歳ごろの子どもでした。長期入院する子どもたちは、カーテンを引かれたベッドの上で一日の多くの時間を過ごしている実情があります。

そんな子どもたちにも「自分は大切にされている」 と感じてほしい――同院小児科では、その思いを、意外な形で実現しようとしています。
 

県内外から「予想外」の支援が

そこで群馬大学医学部附属病院小児科が2023年2月2日にスタートしたのが、「思春期ルーム(仮称)」を設置するためのクラウドファンディングでした。

4人部屋の病室を改装し、思春期の患者のためのスペースに。思春期ルームにはテレビやPC、本やマンガなど、そして同世代で語らうためのソファーやテーブルが置かれます。国内の先行事例では、ゲーム機やプラネタリウムが置かれているところもあると言います。

完成は2024年3月までを目標にしています。そのための費用をクラウドファンディングで募ったところ、注目を集め、7日には寄付金額が第一目標の800万円を達成しました。

3月27日現在では第三目標の1200万円を達成、2000万円を超え、第四目標の2500万円に迫っています。寄付募集は3月31日の午後11時までです。

これにより、防音設備をグレードアップすることで、子どもたちが病院内であっても、思春期ルームの中では、大きな声で笑い合う、音楽を楽しむことなどができるようになるということでした。

同院小児科によれば、現在までの支援者は約700人以上となり、県内外からの寄付が集まっています。同院は群馬県の中核となる医療機関ですが、県内に止まらない支援の輪が広がったことは、滝沢さんも「予想外だった」と話します。

滝沢さんによれば、イギリスなど海外では小児病院(病棟)に思春期ルームが設置されることも一般的で、専門スタッフが常駐し、思春期の子どもに特化した心のケアや支援がなされているということです。

歴史も古く、1988年5月にオランダで開催された「病院のこどもヨーロッパ会議」で採択された「病院のこども憲章」の第7条には、以下のように記されています。

「子どもたちは、年齢や症状・体調に適した遊び、レクリエーション、教育への機会を十分有するものとする」「彼らのニーズを満たすように設計され、装飾され、スタッフが配属され、設備を整えられた環境を与えられるものとする」

一方、医療機関としては、予算は主に医療機器などに割り振られるため、こうした取り組みは進みにくかったそう。そこで、ネットで寄付を募るクラウドファンディングに踏み出したということでした。
 

少子化が小児医療に与える影響は

滝沢さんは「これほどまでに早く、多くの支援をいただいたことに、まずは驚きました」と心境を明かします。

「うれしかったのは、目標達成をしたこと自体もですが、群馬と縁もゆかりもない人も寄付をしてくれたこと。日本で、みんなで子どもを育てていくという機運を感じられたことです」

また、クラウドファンディングという方法自体が生み出す効果も実感したそうです。

「もし、大学の予算で実現できていたとしても、ここまでの話題にはならなかったでしょう。今回、多くの人に思春期ルームを知ってもらえたことで、今後、国内で同様の取り組みが広がってほしいと思います」

一方で、今回の思春期ルームのプロジェクトには、少子高齢化という社会課題も関わっています。これまで、常に満床に近い状態でフル稼働していた大部屋の病室が埋まらなくなり、病院内にスペースの余裕ができたことで、設置が可能になったからです。

滝沢さんはこのことを「小児医療の成熟」という言葉で表現し、「支援に感謝すると共に、新しい時代の小児医療に向けた一歩を踏み出せたことはうれしい」とします。

「子どもの絶対数が少なくなったことで、ようやく一人ひとりに提供する医療やケアの質を高めることができるようになったとも言えます。国の少子化対策が話題になりますが、今回のような取り組みも、大人が『子どもを大切にしよう』と思うきっかけになればと思います」

【支援はこちら】入院する子ども達が、自分らしく過ごせる場所を。思春期ルーム設置へ! - READYFOR

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