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連載

#11 親になる

寝かしつけのコツ「親の体から離すとき注意」「眠ってから5~8分」

寝かしつけの成否は親の生活を左右するが……。※写真はイメージ
寝かしつけの成否は親の生活を左右するが……。※写真はイメージ 出典: Getty Images

目次

育児中の「寝かしつけ」「泣き止ませ」の成否は、親が自分の時間を確保できるかどうかを左右します。しかし、そこにはいわゆる“背中スイッチ”と呼ばれる苦労も。どうすれば赤ちゃんはスヤスヤと眠ってくれるのか、国際研究グループが発見した医学的な“コツ”と、我が家で実践した結果を紹介します。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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眠いなら寝ればいいのに

生後半年が近づく我が子は今日も元気です。元気すぎて苦労するのが寝かしつけ。眠そうに目の周りをゴシゴシしたり、「うーうー」とうなったりしながらも、「まだ寝ない」とばかりに驚きの粘りを見せることもしばしば。

大人としては「眠いなら寝ればいいのに……」と思ってしまいますが、赤ちゃんは睡眠をコントロールする機能が未発達で、「眠りたいのに寝られない」といった気持ちになり、それを不快に感じていわゆる夜泣きをすると考えられています。

愛媛大学医学部附属病院・睡眠医療センターがまとめた『未就学児の睡眠指針』(2018)によれば、新生児期の赤ちゃんは昼夜を問わず、短いサイクルの睡眠・覚醒を繰り返す「多相性睡眠」をしています。

これが生後3カ月ごろは3~4時間の連続した睡眠、半年ごろは6~8時間の連続した睡眠へと、次第に昼夜のリズムがある、つまり大人のような睡眠に移行していきます。つまり、今はまさに大人になるまでの過渡期。親にとってはガマンの時です。

となれば、我が子のためにも、そして夫婦それぞれに溜まった仕事や家事を片付けるためにも、なるべく速やかに“落とす(=寝かしつける)”ことが、喫緊の課題になります。

技術の問題も大きそうですが、抱っこによる寝かしつけは妻の方が高い成功率を誇っています。同じラップタイプの抱っこ紐を使っていますが、私の場合は胸板の硬い感触がイヤなのか、暴れてかえって起きてしまいます。

一方、揺らせるハイローチェアで揺らしながら寝かしつけるのは私の方が得意です。ただし、難点もあります。

寝たあとでベビーベッドに移すまでに、この寝かしつけは「ハイローチェアから抱き上げる」「ベビーベッドに寝かす」という失敗しやすいポイントがあります。そのまま「ベビーベッドに寝かす」抱っこより、一手、多いのです。

寝返りも、何かに掴まることもできるようになってきた子ども。短時間の昼寝であればハイローチェアのベルトを着用し、危険がないように見守ることもできますが、夜間となるとやはりベビーベッドに移さなければなりません。

結果、妻より私の方が寝かしつけの成功率は下がり、子どもにも「パパが寝かしつけの日はあまり上手く行かない」ことが伝わってしまったようで、悪循環に陥ってしまいました。

どうしたものかと頭を抱えていたころに、この「寝かしつけ」を科学するある研究の存在を知りました。その研究によれば、寝かしつけには科学的な“コツ”があるというのです。
 

寝かしつけの科学的なコツ

その研究とは、国立研究開発法人理化学研究所(理研)らの国際研究グループによるもの。

研究チームリーダーの黒田公美さんらは、2013年に、親が赤ちゃんを抱っこ(動物の場合は口にくわえるなど)して運ぶとおとなしくなる「輸送反応」を発見していました。輸送反応とは、理研によれば“哺乳類の赤ちゃんに生得的に備わっている、運ばれるときにおとなしくなる反応”です。

赤ちゃんが運ばれるときには、“泣きの量が減り、鎮静化し、副交感神経優位状態(筆者注:リラックスした状態)となる”ことがこれまでの研究でわかっています。

そして22年9月、同グループはその研究をさらに進め、前述の“コツ”を発表したということです。

それは、赤ちゃんが泣いているときには「抱っこしてできるだけ一定のペースで5分間ほど歩く」。その後、赤ちゃんが寝ついたら「そのままベッドに置くのではなく、抱っこしたまま座って5~8分ほど待ってからベッドに置く」。こうすることで、赤ちゃんが起きずにさらに深く眠れる可能性が高いのだそう。

【参照】赤ちゃんの泣きやみと寝かしつけの科学-寝た子を起こさずベッドに下ろすには?- - 理化学研究所

この研究は生後7カ月以下の赤ちゃん21人とその母親の協力を得て行われました。以下はあくまでもこのように、人数や性別などが限られた条件の研究においてわかったことで、すべての子どもに当てはまるわけではありません。ただし、ヒントにはなりそうです。

当事者目線でのポイントは、まず泣き止ませについては、「座り抱っこでは泣き止まなかった」こと、「座ったままやベッドに置かれるなど動いていないと泣き出してしまった」こと。

「抱っこして歩く」「ベビーカーに乗せて前後に動かす」などのときは泣き止んだため、泣き止みには輸送が効果的であることを裏づけるものとされています。

そして、寝かしつけについては、「抱っこして歩く(5分間)」により、約半数の赤ちゃんが昼間でも寝かしつけられたこと。一方、初めから起きていた赤ちゃんには効果があまりなく、泣いたりぐずったりしている赤ちゃんほど効果が大きかったということ。

輸送反応は、研究チームによれば、野生動物が外敵から子どもを守るための反応だとされます。人間にもその名残りがあるとすれば、それは寝かしつけや泣き止ませの大変さは別として、面白いことでもあります。

目安があることで救われる

一方で、「背中スイッチ」という言葉があるように、「ベッドに寝かす」フローはやはり難関であるようです。この研究でも、一度は眠った赤ちゃんをベッドに置くと、約3分の1の赤ちゃんが起きてしまったとのこと。なかなか無慈悲な割合です。

同時に、この「背中スイッチ」については、やや誤解もあることがわかりました。というのも、赤ちゃんはベッドに置かれたときも覚醒が進むのですが、それよりも早く、抱っこされている体が親から離れだしたときから覚醒が始まるのです。研究チームは「背中スイッチ」というよりも「お腹スイッチ」だと指摘しています。

ここで、抱っこよりもベッドの方が赤ちゃんが深く眠ることは確かなようです。また、眠っている赤ちゃんは、親が抱っこの向きを変えたり、添える手を動かしたりしたことを鋭敏に感じ取っていることもわかりました。たしかに時々、どんなに高度なセンサーよりもすばやく親の動きを捉え(て起き)ることがありますよね。

一方で、赤ちゃんが眠り始めてから5~8分間ほど待つと、より深い睡眠の段階に入り、赤ちゃんが起きにくかったのは、親にとってはいいニュースと言えるでしょう。そのため、寝ついてもすぐには動かさないことも一つのテクニックになります。

実は、「寝かしつけ」の方法を科学的に検証した研究は少なく、薬以外で赤ちゃんを泣きやませやすく、寝つかせやすくさせる方法は、ほとんどわかっていませんでした。これはその第一歩となる研究だと言えます。

医療者でもある妻にこの研究のことを話してみました。妻はこの研究や輸送反応のことはその時点で知りませんでしたが、「一定のペースで歩く」「待ってからベッドに置く」は、経験的にやっている、ということでした。

一方の私は、あれこれ聞きかじった方法を試すばかりで、子どもの様子をよく観察し、大らかに構えることができていなかったと反省することに。

では、実際にこの“コツ”を試してみると……。私の場合は、スムーズに成功する場合が2割くらいアップしたかな、というのが実感です。当たり前のことですが、個人差も、同じ子どもでもその日の条件が異なり、そうそう劇的には変わりませんでした。寝ないときは寝ないし、泣き止まないときは泣き止みません。

ただし、です。上手く寝かしつけや泣き止ませができないと、どうしてもイライラしてしまう私にとっては、このように「5分間」歩く、「5~8分間」待つ、といった具体的な目安があることでとても助けられました。

どこまでも正解のない育児。こうした目安がないと途方に暮れてしまうこともあるのではないでしょうか。研究が積み重なり、もっと確かなことがわかる頃には、おそらく私はもう育児を卒業しているかもしれません。でも、こうした研究がなされていることに、あらためて感謝したのでした。
 

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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