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お金と仕事

なぜ企業が「財団」を設立? 1件1000万円、〝VC手前〟の役割

なぜ企業は「財団」を設立するのか?※画像はイメージ
なぜ企業は「財団」を設立するのか?※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

10年で10倍以上になるなど、近年、急増する「公益財団」。中でも、企業が公益財団を設立するケースが目につくようになった。なぜ、企業が公益財団を設立するのか。実際に国内の公益財団法人に質問をぶつけてみると、税の優遇を受けられる制度の存在や厳しいルール、そして意外と「汗をかく」仕事であることも見えてきた――。(ライター・我妻弘崇)
 
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キューピー、ベネッセなども設立

「えッ? 財団ってリモートでも仕事ができるんですか!?」
「御社じゃなくて、御財団? みなさんは、どう呼んでいらっしゃるんですか?」

いま私は、東京・大手町にある「公益財団法人PwC財団」の会議室の一室にいる。知っているようで意外と知らない「財団」についてのギモンを、実際に“中の人”にぶつけているのだ(ちなみに「御財団」でOKらしい)。

PwC財団は、会計監査、ディールアドバイザリー、コンサルティング等を行う150カ国以上に展開する世界最大級の“プロフェッショナルサービスファーム”の一員であるPwC Japanグループが設立した「テクノロジーで未来を創る財団」だ。

実は、私たちが気づいていないものを含め、企業が公益財団を設立しているケースは多い。財団の役割をざっくりと説明すれば、「寄付を預かり、そのお金をもとに公益のための事業を行う」ということになるだろう。

国内の例を挙げると、キユーピーの公益財団法人「キユーピーみらいたまご財団」や、ベネッセの公益財団法人「ベネッセこども基金」など、実は有名企業も軒を連ねているほどだ。

(「キユーピーみらいたまご財団」では、食育活動および子どもの貧困対策などに取り組む団体への寄付を中心とした助成活動を。「ベネッセこども基金」は、子どもが安心して学べる環境づくり、経済的困難や病気・障がいなど学びに課題を抱える子どもたちの支援などの取り組みを行っている)

公益財団になるためには、活動内容が23の公益目的事業にそぐうことが求められる。これにそぐえば、その活動に使用するお金は非課税(収益事業から除外)となり、税の優遇措置が認められるという。その詳細については、前の記事『意外と知らない「財団」どんな組織? 10年で10倍以上増加の背景』をお読みいただけると幸いだ。

各財団が、この枠組みの中でどんなテーマを掲げているのかを見比べるのは、「ふるさと納税」の返礼品を見ているかのような楽しさに似ているかもしれない。「へぇ~こんなことをしているのね」なんて、社会活動への理解が高まるのも楽しい。
 
出典:内閣府「公益法人を巡る近年の状況について」(令和元年)
出典:内閣府「公益法人を巡る近年の状況について」(令和元年)
特徴的なのは、そのほとんどが自分たちの長所を生かした助成活動を行っているという点だ。食に関する企業なら食関連の事業を、教育なら教育を主に扱う、という具合である。

一方で、今回取材したPwC財団のように「一つのテーマに絞らずに活動している」という財団もある。同財団事務局長の日向昭人さんによれば、“絞らない”のは珍しいケースだそうだ。

同財団は「テクノロジーで未来を創る財団」として、遠隔作業技術や義手義足、AR・VRなどの“人間拡張技術”を活用し、「地方の医療資源不足解消や身体的に障がいのある方の社会活動をサポートするというように、人間拡張技術を核に置きながら幅広い課題を掛け算で解決している」と日向さんは語る。
 

「1件1000万円」助成先どう選ぶ?

では、「どうやって助成先を選ぶのか?」。ポイントになるのは、透明性だと日向さんは話す。

「募集要項を定めた上で、応募していただきます。助成先を選ぶ際は、公平性、公正性が重要になります。寄付してもらった財産を使用するため、いかにインパクト(人々に良い影響が出る)を残せるかも問われます」(日向さん、以下同じ)
PwC財団 2022年度第2期人間拡張・農福連携助成事業募集のご案内(現在、募集は終了)
PwC財団 2022年度第2期人間拡張・農福連携助成事業募集のご案内(現在、募集は終了)
PwC財団では、毎回テーマを変え、その評価軸を明確にした上で募集する。時代に即して、多岐にわたるテーマの助成事業を実施する旨を内閣府にも事前に申請して認定を受けており、これまでに「農福連携」や「地方医療」、「環境」といった幅広いテーマの公募を行っている。

そして、「我こそは」と応募してきた企業や組織に対して、事前に定めた評価軸に基づいて採択先を決定するそうだ。一つのテーマに絞れば門戸は限られる。だが、毎回テーマを変えれば、手を挙げる企業や組織も増え、チャンスは広がる。

「公正な基準で選考する必要があるため、第三者的な選考委員会を設け、そこで導かれた結論をPwC財団の理事会で承認するという形になります」と語るように、税の優遇制度が認められる以上、内閣府からは徹底した透明性を求められる。

そのため、実態としての活動が公益性に乏しいと判断されたり、第三者への利益供与が発覚したような場合は、後から公益財団の認定が取り消されることもある。実際、国内ではこれまでに複数の認定取り消し事例があるほどだ。
(なお、公益財団には、内閣府所管と都道府県所管があるが、PwC財団のように全国規模で助成を行う場合は前者に、コミュニティ財団のように特定の地域のみで助成を行う場合は後者に、それぞれ公益申請をする必要がある)

PwC財団では、審査を通過した企業や団体に、「1件につき最大1000万円を助成している」という。

さて、勘の良い方ならこう思ったのではないだろうか。「これってなんだか、ベンチャーキャピタルと似ていない?」と。もちろん、公益財団であるPwC財団に利益は生まれないが、先行投資という観点では、似ている気がしないでもない。そのことを問うと、「似ているようですが、ベンチャーキャピタルは資本を入れる、つまり、出資者としての権利を有するが、財団は助成なので、資本を入れるわけではありません。その点は大きく異なります」と日向さんは教える。

「例えば医療系の事業に助成する場合、1000万円というお金は決して大きな研究費用ではありません。そのため、どういうお金の使い方が、もっとも意味があることなのだろうかと考えました。

私たちとしては、基礎研究を少し超えた結果を生み、ベンチャーキャピタルに気がついてもらえるような成果を生み出す――そのための実証実験のサポートができればと考えています」

言わば、公益財団の助成は、三段跳びでいうところの「ホップ」のような位置づけだ。あるいは、跳び箱を飛び越えるためのロイター板のような存在。飛べたという自信は、必ず次の飛躍に生きる。

また、「ともに助成金の使われ方を議論することも心がけています」と日向さんは続ける。

「助成先の方からよく聞かれるのが、お金もありがたいが、それ以上に『一緒に壁打ち相手になってくれる人がほしい』という声でした。財団はお金を助成するだけの存在のように思われているかもしれませんが、私たちはそうではありません。きちんと責任をもって、最後までともに走る財団でいようと」

グループ内の寄付は可、厳しいルールも

しかし、なぜわざわざ企業がこのように「汗をかく」ことをしようとするのか。

「PwC Japanグループは、傘下にPwCあらた有限責任監査法人、PwCコンサルティング合同会社、PwCアドバイザリー合同会社、PwC税理士法人などのグループ企業がありますが、これらの企業がPwC財団に寄付することもできます。ただし、その寄付金をPwC財団がきちんと公益目的事業に使っているという証明ができなければいけません」

企業活動によって得た利益を、公益財団に寄付することで社会の支援に回す――。循環型社会を実現するメリットがあることも公益財団数が増えている一因になっているという点は忘れてはいけないだろう。

「企業活動の一部を財団の活動にあて、小さいところに回して大きくする。そういう循環を生み出すことも公益財団の役割です」

一方で、この仕組みには厳しい決まりごとも多いのだそうだ。

「PwC財団は、PwC Japanグループが設立した財団です。同じく、各財団はそれぞれの企業や個人が設立したものになります。ところが、マッチポンプにならないようにと、A企業とその企業が設立したA財団が相互に宣伝してはいけないといった決まりがあるんです」

えッ!? 企業名が付いてしまっているのだから「まるわかりじゃないですか?」と質問すると、「企業の名前をつける分には大丈夫なのですが、たとえば自社ホームページに、自分たちの財団のリンク先を貼ったりすることはできないんです」と日向さんは説明する。

別の存在であるという証明をしないといけないがために、財団法人には出向という形をとったり、名刺も財団専用のものを使用したり、内閣府から指導お達しがあるらしい。こ、細かい……。

世間に広く知られる有名企業だとしても、大手を振って「私たちは公益財団もやってます」と言えないわけだから、公益財団の仕事があまり知られていないのも納得である。

「PR不足ついては、私たちも耳が痛いところだと感じています(苦笑)。そのため、私たちの財団はこういう活動をしています――といった情報が、今後は各財団からアナウンスされる機会が増えていくと思います。

寄付への関心が高まっているので、公益財団の活動を介して、企業のメッセージを伝えていくことも大事だと思います」
 

社会課題を解決する「現代の長屋」に

実際にPwC財団が、子どもや外出困難者、障がい者を招いて開催したオンライン体験会(21年12月)では、バナナの収穫作業成功率100%、いちごの収穫作業成功率96%という成果を残している。
遠隔でロボットを操作し、いちごを収獲する。(PwC財団提供)
遠隔でロボットを操作し、いちごを収獲する。(PwC財団提供)
PwC財団から助成を受け、上記プロジェクトに取り組んだのがH2L株式会社だ。現在、視聴覚に加え、重さや抵抗感といった感覚まで他者やロボットと共有する技術「ボディシェアリング」で、世界から注目を集める玉城絵美さんが代表を務める企業。今や、同社の認知度は急上昇中だ。

先のH2Lのプロジェクトでも、PwC財団は助成が終わる最後まで伴走者として走り続けたという。財団の仕事は、想像以上に頭を使い、汗をかくものだった。

「ロボットによる収穫実験を行う場合は、協力していただける農園さまを探し、交渉します。また、地方の医療資源不足問題に取り組むときは、その病院の問題点を取材し、こちらからどんな提案ができるかを考えます。

助成先が成果を上げられず立ち止まったときには、何が問題なのか助成先団体の壁打ち相手となっていっしょに話し合います。制作のような仕事に近いかもしれません。実績が伴わなければならないので、実はとてもシビアな仕事なんですね」

ここ日本でも寄付意識が高まりつつあるからこそ、今後、公益財団の存在がフィーチャーされていくことが予想される。

「みなさんから『PwC 財団ならこういうことにも取り組んでくれるんじゃないか』と思っていただけるような財団を目指していきたいです。

また、自分たちはこういう技術を持っているんだけれど、世の中にどう落とし込んでいいかわからない――そういう方々をサポートして、複合的に効果を生み出せる財団になれたら。PwC 財団は、公益認定された内容であれば、公募テーマをある程度自由に設定でき、ともに取り組む財団ですから、助成先団体とインパクトを出す財団になりたいですね」

これからの財団は、“技術を持った人”と“テーマを持った人”と“解決できる人”をマッチングさせる集合知のような存在になりうるかもしれない。ともに助け合い、社会の問題を解決するための社会的な長屋。私たちも、その一員になるかもしれないのだから、公益財団について学んでいく必要がありそうだ。
 

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