「財団」とは何か――そんな素朴なギモンから、取材は始まった。フィクションの世界では「老紳士が円卓を囲み何やら悪だくみをしている」なんて怪しいイメージで描かれることもある。実際に国内の公益財団法人に質問をぶつけてみると、知らないことばかり。近い将来、「ふるさと納税」のような身近な存在になる可能性まで秘めているという――。(ライター・我妻弘崇)
「当財団は2020年5月に一般財団として設立し、その1年後に公益財団になりました」
そう説明するのは、東京・大手町にある公益財団法人PwC財団事務局長の日向昭人さん。同財団は、会計監査、ディールアドバイザリー、コンサルティング等を行う150カ国以上に展開する世界最大級の“プロフェッショナルサービスファーム”の一員であるPwC Japanグループが設立した「テクノロジーで未来を創る財団」だ。
そもそも「財団」とは何か? まずはじめに、「財団」という存在について、日向さんに整理してもらった。
「私たちは財に仕えている身になります」と語るように、寄付金によって集合したお金(=財)に法人格が与えられているのが財団だ。その名の通り、「財が集まった団体=財団」であり、社団法人やNPO法人と大きく異なるのは、あくまで「主体が財にある」という点である。
「集まったお金をどのように社会に役立てていくかが私たちの仕事になります。私たちの活動に賛同していただいた方から寄付をいただき、その寄付を公益目的事業に助成し、インパクト(人々に良い影響が出る)を出す。そして、それを寄付してくださったみなさんにご報告する。それが私たち、財団の役割です」(日向さん、以下同)
財団自体は、団体の公益性の有無や活動目的の内容は問わず、一定の財産があれば誰でも設立することができる。その上で、「一般財団法人」と「公益財団法人」の二種類があり、後者の方が設立のハードルが高い。
公益法人になるには、まず一般法人を設立し、その後、公益認定の申請を行い、行政庁(内閣府所管または都道府県所管)の認定を受けなければならない。先ほど、日向さんが「1年後に公益財団になりました」と話したのは、こういった手続きを踏む必要があるからだ。
公益財団の認定が厳しいことの理由の一つに、「公益性の高い事業を行う」代わりに「税の優遇措置が認められる」ことがある。
座学になって恐縮だが、順を追って説明していこう。一般財団法人は一般社団法人と同様、「営利を目的としない」ことが特徴として挙げられる。ただし、「営利を目的としない」というのは、あくまで「収益を出してもいいけれど、その余剰利益を分配できない」という意味になる。
つまり、株式会社(営利法人)のように、儲けを株主や構成員に分配することができないということだ。
こうした条件下であれば、一般財団法人も営利事業を行うことが可能だ。駐車場の運営などはこれに該当するわけだが、収益を得る場合、その活動によって得た利益は課税対象となる。
ところが、公益性への高い信頼度が認められ、「公益財団法人」にステップアップすると、事情が変わる。公益目的事業と認定されると、その活動に寄付した金額は、寄付者への税優遇(収益事業から除外)として、下記のようなメリットが認められるようになる。
「公益財団に寄付した金額は、税優遇対象となる可能性があります。その構造としては、寄付金は費用計上(損金算入の限度額あり)でき、法人税が軽減されます。例えば、法人税を20億円支払う法人であれば、寄付金の損金算入限度額枠が2億円と計算された場合、限度額(2億円)を寄付すると、約7000万円分の法人税(35%と仮定)が軽減されることになります」
こうした優遇措置があるため、公益財団は「高い公益性がある」と行政庁から認められなければいけないというわけだ。同じ財に仕える組織といっても、一般財団と公益財団では、この点が大きく異なる。
ちなみに、我々のような一個人が公益財団に寄付することもできる(!!)そうだ。
「確定申告のときに寄付分が所得から控除されます。寄付先の財団によってはより有利な税額控除を選択できる場合もあります。ただ、個人にしても法人にしても限度額があるので、税制優遇を受けることができる部分が無限というわけではありません。厳密には違うのですが、あえてみなさんにわかりやすく説明するのであれば、『ふるさと納税』のようなイメージを想像するとよいと思います。
寄付していただいた場合は、ふるさと納税でいうところの『寄付証明書』のようなものをお渡しします。PwC財団は設立して日が浅いので、まだ個人の方には対応できていないのですが、準備ができ次第対応していくつもりです」
どうせお金を収めるのなら、その何%かは「世の中の役に立つようなことに回したい」。そんなささやかな願いと公益財団の相性は、すこぶる良いのである。
一方で、言ってみれば“特別扱い”をされているがゆえに、実態としての活動が公益性に乏しいと判断されたり、第三者への利益供与が発覚したような場合は、後から公益財団の認定が取り消されることもある。国内ではこれまでに複数の認定取り消し事例があった。
寄付を検討するときは、その公益財団が公益に資する活動をしているか、厳しい目を向ける必要もあることをお忘れなく。
では次に、公益財団の社会的な役割について触れていこう。
令和元年に内閣府が発表した「公益法人を巡る近年の状況について」によれば、公益財団の数は5392に上る。しかし、平成22年(2010年)までは、472財団しかなかったという。この10年で、財団の数は10倍以上増加したことになる。日向さんは、「東日本大震災が発生した平成23年(2011年)を機に急増しました」と話す。
「東日本大震災によって甚大な被害が生じました。あくまで私たちの推測ですが、みんなで助け合おうという機運が高まったことが大きいと考えられます」
また、2008年12月から公益法人改革による新制度がスタートしていたことも地ならしになったとみられる。
公益財団になるためには、その活動内容が23の公益目的事業にそぐうことが求められる。「学術、科学技術の振興」「文化、芸術の振興」「障害者、生活困窮者、事故・災害・犯罪の被害者の支援」「高齢者福祉の増進」など目的は多岐にわたり、これらを満たした上で、高い公益性があると行政庁に認められなければならない。
「震災によって被害が生じた企業や工場、公共施設などをサポートしたいと考えたとき、公益財団はその受け皿になりうる存在です。そのため、社会の役に立ちたいという思いから、私たちのように公益財団を設立する企業が増えたのだと思います。
現在、地域に根差したコミュニティ財団も増えているのですが、コミュニティ財団を経由して地域を盛り上げるという動きもあります」
ただし、前述した税の優遇措置が企業でも認められるということは、説明しておかなければならない。体力のある企業ほど、結果的に出ていくお金が一緒なら、使途がわかりづらい税金より、使途が明確になっている事業に使えるほうを選ぶという考え方もあるだろう。
実際、キユーピーやベネッセのように、企業名を冠した公益財団を設ける企業も多く、PwCもその一つだ。
ここ日本の寄付意識は決して高いとは言えない。 2021年に慈善団体を支援する英国の財団「Charities Aid Foundation」(CAF)が発表した調査によれば、日本は「寄付」において114カ国中107位と下位に沈み、先進国の中では最下位 。だが、その風潮に変化の兆しが見え始めている。
「直接お金を渡すのは上から目線のように感じてしまうため、なかなか日本では寄付文化が根づかないという背景があったと思われます。しかし、昨今は『ふるさと納税』など税の優遇措置に変化が見られたことで、寄付への意識が変わってきていると感じます」
事実、若者の寄付意識も高まっている。20代男女に対して実施した、三菱UFJリサーチ&コンサルティングのアンケート調査結果によれば、クラウドファンディングでの支援を行った経験比率は、20代と30代が多かったという。
「ふるさとチョイス」を運営するトラストバンクによるコロナ禍の『10万円特別定額給付金に関する調査』でも、20代の寄付意識がもっとも高く、4割近くが寄付に使いたいと回答したほどだ。
「『ふるさと納税』をはじめ税金の使い方の知識が蓄積されてきているため、今後は公益財団を介した寄付なども増えてくると考えます。PwC財団もそうですが、『私たちはこういう公益目的事業に取り組んでいます』と発信する機会が増えることで、みなさんにとって公益財団が身近な存在になっていくと思います」
例えば「奨学金」も 23の公益目的事業に含まれる。公益財団の助成によって「助かった」という人も少なくない。
「公益財団の役割を知っていただくことが重要だと思っています。私たちは公益性に基づき、公益目的事業をバックアップする身です。 こういった記事が公開されたとしても、公益財団がどのような存在かを知っていただく――そういったメリットこそあれ、何かの売り上げが上がるといったことはありません」
近い将来、公益財団の存在は、私たちの生活とより密接にかかわってくるに違いない。公益性が担保されているからこそ、この記事も読者のみなさんにとって、「これからの知識」として頭の片隅にとどめていただけたら幸いだ。