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ネパールの学校に通う息子が「おむすび20個!」リクエストした理由
たった10年で変わった子どもの反応
ネパールで学校に通う10歳の息子が、課外活動に持参する〝軽食〟に「おむすび20個!」をリクエストをしてきたーー。母は驚き、理由を聞くと、そこには予想外の「変化」がありました。
ネパールの首都カトマンズで、旅行会社「ヒマラヤンアクティビティーズ」を営む春日山紀子さんは、今年2月のある日、長男(10歳)から思いがけないリクエストを受けました。
「おむすび20個!」
学校に〝軽食〟として持って行く、と言うのです。
春日山さんの長男は、ネパール人の生徒が大半という現地の学校に週6日、それと別に日本の教育を受けられるカトマンズ補習校に週1日通っています。
現地校の方からは、間もなく運動会があること、それに向けた放課後の練習で「おなかがすくだろうから」と、学校の給食とは別に「軽食を持たせてほしい」と連絡を受けていました。
でも、現地校で軽食と言えば、果物を持たせるぐらいが一般的。家でもっぱら日本の家庭料理を食べて育ってきた長男が、なぜわざわざ「おむすび20個」をリクエストするのか。
理由を聞くと、長男はこう答えました。「アニメの影響で、みんなホンモノの〝おむすび〟を食べたがっている」
いま、10歳の長男のクラスで話題になるのは、日本のアニメの「チェンソーマン」や「ブルーロック」、「鬼滅の刃」「東京リベンジャーズ」「進撃の巨人」などだそうです。
ネパールでも、コロナ禍でオンライン授業が取り入れられたことをきっかけに、子どもたちがパソコンやスマホの使い方を習得し、インターネットからの情報吸収能力が一気に飛躍したと春日山さんは感じています。
日本でアニメ化・映画化されたものはほぼリアルタイムでオンライン視聴していました。
「ねぇねぇ、この間の最新話、見た?」子どもたちの会話もチャット。
リアルタイムで見るアニメは日本語版ですが、子どもたちは英語の字幕を追っています。学校の授業は、国語や社会の一部を除いて、すべて英語で行われているので、困難ではないようです。
遠い日本が描かれたアニメで、子どもたちが特に気にしていたのは、作中に描かれた何げない〝日常の風景〟でした。
大好きなキャラクターたちがほおばる、あの三角の「おむすび」って、一体どんな味なんだろう……。
一昔前は食べてみたい日本食の代名詞と言えば「ドラえもん」に出てくる「ドラケーキ(どら焼き)」でしたが、見られるコンテンツが多様化したことで、今では「おむすび」や「ラーメン」など多様化しているようです。
「おむすび20個」のリクエストを受けた時、春日山さんの頭には、長女(14歳)がまだ小さかった頃の記憶が蘇っていました。10年ほど前、娘におむすびを持たせたら、ネパール人に「何それ?」と驚かれたこと。
「たった10年で、こんなに子どもの反応が変わるんだな」。嬉しくなった春日山さんは、要望に応えようと、はりきっておむすびを握りました。
ネパールの主食はお米。カレーのような汁物と混ぜて食べるパサパサしたものが主流ですが、日本の米に近いもちもちしたものも作られており、おむすびに利用しました。
三角形に握って、中身は「おかかじょうゆ」と「梅干し」、「塩にぎり」の3種類。
日本食材はネパールで買うと高価なため、日本に帰国した際に持ち帰り、節約しながら家で食べています。そんな〝貴重〟な食材でも、子どもたちがイメージする「おむすび」に近付けるように、のりもちぎって貼りつけました。
最初は10個を持たせましたが、友人たちに大好評。長男は1つだけ食べて、あとは全て友人たちに分けてきたそうです。その代わり、長男は友人から軽食をもらいました。
一番人気は、シンプルな「塩にぎり」。(貴重な「梅干し」じゃなくて良かった……)と、春日山さんは内心ほっとしながら、おむすびを作り続けました。
運動会の練習期間は3週間。おむすびは、食べられなかった子たちやスクールバスが同じという子までもらいに来る人気ぶりで、日々、リクエスト数が増え、最終的に20個に達しました。忙しくてバナナを持たせた日は、友人たちにがっかりされたといいます。
春日山さんは、大変さの反面、うれしさを感じました。増えていくおにぎりの数、空っぽになって戻ってくるお弁当箱……その裏に込められた子どもたちの日本への興味の大きさ。「日本にいると、世界の中で日本が落ち目になっているような気持ちになりますが、まだまだ好かれているんだなと嬉しくなりました」
週日校放課後課外活動のため学校より「軽食を持たせるように」との連絡。果物持参の子が多いみたいだけど我が子より「おむすび20個!」のリクエスト。ネパール人友だち分も、と。アニメの影響でみんなホンモノのおむすび食べたがってるからと→続く pic.twitter.com/pJBQvlrAPr
— 日々のネパール情報🇳🇵 (@infonepal) February 8, 2023
偶然、友人との旅行で訪れたネパールに魅了され、暮らし始めて20年超になる春日山さん。ネパールって、どんな国なんでしょうか。
「周囲の人々の寛容さに救われることが多いです」
子育てをしていると、特にその国民性を実感すると言います。
満員のバスに子連れで乗ったとき、子どもがぐずったことがありました。「静かにさせないと迷惑になっちゃう」と慌てる間もなく、座席に座っていた人が子どもをひょいとひざに乗せて、あやしてくれたと言います。
慣れていないと驚く場面ですが、あまりにも当然のようにそうしてくれたことで、互いに変な気遣いが生まれない雰囲気がありました。
反対に、自分がバスで座っているとき、当たり前のように子どもをひざに乗せられることもあるそうですが、互いに「遠慮」がない分、都合が悪いときは断れるのだと言います。
兄弟が多いからか、老若男女問わず子どもの扱いに慣れた人が多く、お店などでも当然のように若い店員さんらが子どもをあやしてくれます。
「最初は戸惑いましたが、今はその社会全体のおおらかさが〝普通〟になって、気負わず、楽しんでやれています。みんながあやしてくれる社会は、育てやすいです」
日本でも、約12万人のネパール人が暮らしており、在日外国人の中では6番目に多い国です。
一概には言えませんが、初対面だとシャイに見られがちというネパール人。でも春日山さんは「本当は、人懐っこい人が多い気がします」。
初対面でも年齢や年収を聞くなど、日本だと驚くような質問も、ネパールでは普通。最初は戸惑ったそうですが、「思いついたことを聞いているだけで、別に深い意味はないんだと気づいてからは、こちらも『言葉のやりとり』として楽しめるようになりました」。
「おむすび」を楽しみにしている子どもたちは、いま、アニメを通して日本語を覚えたり、日本語クラスに通ったりしているそうです。
「『やりとり』を楽しみながら、結構似ているところもある日本とネパールの価値観や文化を見つけていただければ、と思います」
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