話題
流産や死産を経験した部下・同僚へ 何と声をかけ、どう接しますか?
「乗り越える」や「寄り添う」は使わない支援団体の思い
妊娠の15%前後が流産になるとされ、2021年には1万6000人を超える女性が死産を経験しています。しかし、あまり語られることはありません。もし、職場の同僚や部下が流産や死産を経験したら、どのように接するとよいのでしょうか。
「人によって経験の内容や状況も違い、また言葉の捉え方も様々なので、どう声をかけてくださいという答えはありません。本人にどうしてほしいか聞いていただくことがいいと思います」
働きながら流産や死産、新生児死亡といった「ペリネイタル・ロス」を経験した女性を支援する団体「iKizuku(イキヅク)」の代表・藤川なおさん(39)はそう話します。
「働く」ことにフォーカスしたのは、「働く女性が増える中で、流産や死産経験者の『職場復帰』という視点が抜け落ちていることに気付き、社会の問題として知ってほしい」と考えたからです。
自身も2017年、初めての妊娠で死産を経験しました。当時、職場では以前と同じように接してほしいと伝えていたといいます。
「プライベートのことには必要以上には触れず、仕事中は仕事の自分でいたかったんです」
ただ、これはあくまでも藤川さんのケース。体調が優れずに無理をしていたり、「全く触れられないのは赤ちゃんの存在がなかったことにされているようでつらい」と感じる人もいたりするため、「まずは本人に確認してほしい」と話します。
一方で、経験者へも「自分がどうしたいか、職場に伝えてほしいです」と呼びかける藤川さん。
「ご自身の状態は周りの人には分かりません。自分でもどうしていいか分からないことがあるかもしれませんが、その気持ちも伝えてください。お互いの認識をすり合わせることが大切です。また体調面で配慮が必要な場合は、職場の安全衛生管理の観点からも適切に共有してほしいです」
知らないからこそ、思いがすれ違ってしまうこともあります。流産や死産を経験した人を励ますつもりで言った言葉でも、傷つけてしまうことがあるかもしれません。
藤川さんによると、「生まれる前でよかったね」「まだ若いから大丈夫」「また妊娠できるよ」のような赤ちゃんが亡くなったことを軽視する発言に、傷つく人が多いといいます。
エコー検査や不妊治療が一般的になった今、「受精卵や胎児から『わが子』と認識する時代」になってきていると感じています。
「ご両親にとっては、胎児であっても大切なわが子であり、大切な家族が亡くなったことに変わりありません。『励まし』のつもりでおっしゃっていることは分かりますが、それが本当に励ましになるのか。そもそも、今つらく悲しい思いをしている人は励まされたいのでしょうか」
そのほか、死別を経験した人へ「アドバイス」や「グリーフ(悲嘆・喪失に伴う様々な心身の反応)からの回復を急かすこと」「安易な共感」「自分や他人の経験との悲しみ比べ」などは逆効果になる場合があるそうです。
大切なのは、相手の悲しみを受け止めること。何を言われたらうれしいか、傷つくかは一概には言えませんが、「相手が求めているかを考えて、『何と言っていいか分からない』ときは素直にそう伝えることも大切です」と藤川さんは話します。
「働く天使ママコミュニティ」として活動するiKizuku。「天使ママ(パパ)」とは、ペリネイタル・ロスを経験した母親(父親)を表す言葉です。SNSではハッシュタグをつけて経験者同士がつながるキーワードにもなっています。
ただ、亡くなった赤ちゃんを「天使」と呼ぶことに違和感がある人もいるといい、iKizukuでは「今後、より社会に知ってもらうためにも『天使ママ』に代わるニュートラルな呼称があってもいいのでは」とも考えているそうです。
繊細なテーマだからこそ自分たちがかける言葉にも気を配り、団体として使わないように配慮することもあります。
例えば、「乗り越える」という言葉です。
「大切な人を亡くされた方へ向けて『悲しみを乗り越える』などと使われがちですが、『乗り越えるべきもの』とは、悪いものや不幸なものであり、乗り越えて忘れる・なかったことにするものではないかと思います」
「大切な子どもの死は、忌むべきものではなく、なかったことにするものではありません。そして、その悲しみも消えるものではなく、共に生きていくものだと私は考えています」
死別を経験した人のなかには「乗り越える」と使う人もいますが、「『乗り越える』のは、子どもの死やその悲しみそのものではなく、それに伴う困難や苦しみ、生きづらさのことなのではと考えます。『乗り越える』は、本人が使うもので、第三者が使うものではないのかもしれません」と思いを巡らせます。
同様に「寄り添う」という言葉についても使わないようにしているといいます。
「『寄り添う』という言葉は多く使われます。ぜひ寄り添ってほしいのですが、『寄り添ってもらえた』かどうかを感じるのは本人であり、周りが簡単に『寄り添える』と言えるものでないと思います」
「また『寄り添う』だけでは曖昧(あいまい)で、じゃあ何をするの?という疑問を与えます。寄り添った上で具体的に何をサポートするかが必要ではないでしょうか」
iKizukuのサイトでは、「職場・企業の皆さまへ」と題し、職員や社員がペリネイタル・ロスを経験したときの対応について情報をまとめています。
どこまで気を配らないといけないのか。
繊細な言葉選びや接し方を求められると、そう考える人もいるかもしれません。相手を傷つけないように意識すればするほど、何も言えず振る舞い方が分からなくなることもあります。
「ペリネイタル・ロスを経験した人へ、周りはどう接したらいいのでしょうか」と尋ねると、藤川さんは「よく聞かれますが……」と少し困った表情を見せました。
記事でも触れている通り、赤ちゃんを亡くした状況や周りの環境などは人それぞれで、こうすべきという答えはありません。
藤川さんは「そう言われると、『結局どうすればいいのか』となりますよね」と話します。こちらの思いもくみ取って紹介してくれた対応が、「本人に聞く」ということでした。
死別などつらい経験について、本人に聞きづらいと思うのは自然なことです。そもそもこれまでは、家族や親しい友人以外からそういったプライベートな話を聞く機会がなかったのかもしれません。
しかし、働きながら妊娠出産する女性が増え、ペリネイタル・ロスを経験した社員への配慮や対応が企業に求められるようになってきました。
職場で相談しづらい、上司が産後休業の対象と知らず情報を得る機会がないといった課題もあります。
妊娠4カ月(12週)以降の流産・死産は産休の対象ですが、iKizukuの調査では15.8%が産休を取得していないという結果も出ました。
藤川さんは、経験者から伝えることも大切と繰り返し話していました。経験者から状況や思いを伝えられると、上司や同僚の理解が進み、関わり方にも変化が出てくるかもしれません。
ペリネイタル・ロスを経験すると、女性でも男性でも心身に負担がかかり、思わぬキャリアの「中断」につながる可能性もあります。生き方や働き方、価値観が変わることの一つとして広く知られ、必要な人に必要な支援が届いてほしいと願います。
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