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#10 親になる

育児〝ずっと寝不足〟解消できるか 「親子別室」「添い寝」各注意点

家に赤ちゃんがいると、親はどうしても睡眠不足になるが……。※画像はイメージ
家に赤ちゃんがいると、親はどうしても睡眠不足になるが……。※画像はイメージ 出典: Getty Images

目次

育児中にしんどい思いをすることの一つが「睡眠不足」。夜間のお世話や夜泣きでまとまって眠れないという悩みはSNSでも多く聞かれます。よく話題になる「欧米では親子別室」の実際のところや、ベビーモニターの使い方などについて、世界的な調査結果や、厚生労働省・米国小児科学会などによる医学的な見解を交えて紹介します。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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一日中ずっとうっすら眠い

生後3カ月を超え、うちの子が夜中に起きるのは2〜3回になってきました。我が家では話し合いの結果、私と妻、子どもの家族全員同室で就寝し、夜中のお世話は私(深夜まで)と妻(早朝から)が交代ですることにしていました。夫婦のベッドの横にベビーベッドを置く構成です。

夫婦どちらかを別室にして、日毎や数日毎に交代するシフト制も検討したのですが、私が在宅で遅くまで仕事をすることが多く妻は育休中、そして部屋の数や位置関係といった我が家の事情には、これが一番マッチしているという結論に。

基本的にはこれで回っていたのですが、家族全員同室の最大の問題は、子どもが泣いて夫婦のどちらかが授乳やおむつ替えをしている間、もう一方も熟睡はできないこと。結果、二人とも睡眠不足のダメージを被り、「一日中ずっとうっすら眠い」という状態になります。

そもそも、第一子である子どもの一挙手一投足がまだまだ気になってしまい、そうそう眠れません。寝息や衣ずれが聞こえなくなるとかえって心配になってベビーベッドを覗き込む、といったこともしばしばでした。

首も座り、しっかりしてきたとはいえ、見た目には未だに「か弱い命」。そして、頭にあるのは睡眠中に赤ちゃんが死亡する原因の一つ「乳幼児突然死症候群(SIDS)」のことです。

厚生労働省によれば、SIDSは「何の予兆や既往歴もないまま乳幼児が死に至る原因のわからない病気」。窒息などの事故とは異なるものです。同省は2019年には78人の乳幼児がSIDSで死亡し、乳児期の死亡原因としては第4位と発表しています。

これを予防するためのポイントとして、同省は「あおむけ寝」「母乳育児」「禁煙」により「SIDSの発症率が低くなるというデータがあります」と推奨しています。

特に、あおむけ寝については「医学上の理由でうつぶせ寝を勧められている場合以外は、赤ちゃんの顔が見えるあおむけに寝かせましょう」「(記者注:あおむけ寝は)睡眠中の窒息事故を防ぐ上でも有効です」としています。

早ければ寝返りをする子もいる月齢。こう推奨されれば、赤ちゃんの命を守るため、目を離したときに寝返りをしてうつぶせになっていないか、どうしても気になるのが親心です。

とはいえ、睡眠不足はしんどい。SNSには同じくらいのお子さんを持つユーザーの嘆きも多く投稿されています。こうした声に「みんなが通る道」と励まされつつ、あくびを噛み殺しながら、「この睡眠不足をどうにか解消できないものか」と、仕事の傍ら調べてみることにしました。
 

海外「親子別室」の実際

この話をするとき、よく言われるのが「海外では生後の早くから親と赤ちゃんが別室で寝ている」というものです。最近もこんなツイートが話題になりました。

<今日ベイビーを連れたママ友と話していたら「赤ちゃんとは当然寝室は別だよ。じゃないと私が夜眠れないじゃん」と言っていてアメリカってガチでそうなんだと割と本気でびっくりした。>

実際にどうなのか、少し古いものになりますが、2010年に世界17カ国の0〜36カ月の子どもを持つ家庭を対象に行われた調査では、「親と同じ部屋で赤ちゃんが寝ている」ケースが日本では約88%でした。日本ではほとんどの場合、親と赤ちゃんは同室という結果です。

一方、アメリカは約22%、イギリスは約26%。カナダやニュージーランドではさらに少なく、それぞれ約15%と18%という結果に。この辺は本当にお国柄というところでしょうか。一方、アジア諸国は軒並み8〜9割前後と同室が多くなっています。

なお、2017年のオランダの調査ではベッドシェア(日本で言う「添い寝」、後述するように推奨していない国もある)の各国の割合が明らかになっており、そこでも欧米では低く、アジアで高いという傾向は同じでした。

ただし、アメリカでも実は、SIDSのリスク減のために、米国小児科学会は親子の「ベッドシェアでないルームシェア」を推奨しています。親子別室は医学的に推奨されているわけではなさそうです。

<(筆者訳)乳児は、理想的には生後1年間、少なくとも生後6カ月間は、両親の部屋で、両親のベッドの近くに置かれた、乳児用に設計された別のところで、寝ることが推奨されます。>

【参考】SIDS and Other Sleep-Related Infant Deaths: Updated 2016 Recommendations for a Safe Infant Sleeping Environment - American Academy of Pediatrics

ここで添い寝も推奨されていないのは、大人用の寝具は赤ちゃんにとって柔らかすぎて、SIDSや事故のリスクになるから。日本でも前述の複数の調査によれば、一定の割合でベッドシェアをしているので、寝具の硬さや親の体による物理的な圧迫などに十分注意する必要があるでしょう。

いずれにせよ、もともと文化や住宅事情が違うことに加え、基本的にはやはり「何かあったときにすぐに駆けつけられる」ことが大事であるというのは、あらためて言えそうです。

ベビーモニターの「使い方」

親子別室の文化がある欧米で普及しているのが「ベビーモニター」です。日本では親子同室が基本のため、あまり浸透していなかったものが、近年のコロナ禍で「家事や仕事をしながら子どものケアができる」と、売れ行きを伸ばしているとされます。

メーカーや機能により大きく違いますが、だいたい1万円前後から、高級なものは数万円代でしょうか。ギフトとしても人気です。

我が家もベビーモニターを設置しています。うちの子は20時ごろには寝るので、そうするとひとまず寝室に運んで、夫婦それぞれのやることをしたり、夫婦の時間を過ごしつつ、iPadをつけっぱなしにして寝室の様子をチェックしています。

「泣いたり、顔が覆われたりしている」とAIで判定されたときにアラートが出るタイプの機種なので、親が起きている間はアラートが鳴ると寝室に見にいく、という運用。親子別室の欧米では夜間も同様に、何かあれば親が起きて赤ちゃんのところに向かうようですが、家族全員同室の我が家ではこれはあまり意味がありません。

ちなみに、ベビーモニターには赤ちゃんの「呼吸」をモニターする機能をうたうものがあり、そうしたベビーモニターは基本的に医療機器登録をされています。医療機器と聞くと「何かすごそう」と感じますが、ここにも注意点があります。

親にとっては気になるところなので、こうしたベビーモニターは宣伝にもSIDSを“関連”させていますが、例えば前述の米国小児科学会も「在宅無呼吸モニターがSIDS発生率を低下させるというエビデンスはないため、予防には推奨されない」としているのです。

宣伝ページをよく読むと、SIDSを紹介していながら、下の方には“乳幼児突然死症候群(SIDS) の予防のための機器ではありません”という記述がある、なんてことも。ベビーモニターでSIDSや窒息事故を防げればもっと安心して眠れるかもしれませんが、そこまで期待できるものではないのです。

と言うことは、やはり、子どもが大きくなるまでは“ずっと睡眠不足”が続くのでしょうか。やや絶望的な気分にもなりましたが、最近ではベビーモニターの使い方の小さな工夫ができるようになりました。

例えば、夜中にベビーベッドから泣き声が聞こえたとき。これまでは「ちょっと泣いたけどまたすぐに寝た」というケースでも、いちいち起き上がってベビーベッドのそばに立っていたのですが、枕元のスマホでベビーモニターのアプリを起動、さっと状況を確認できるようになりました。

また、赤ちゃんが寝ている間に自分でおしゃぶりをどこかにやってしまって、うっすら起きたときにおしゃぶりがないことに気づいて泣くようなケースでは、ベビーモニターで過去にさかのぼっておしゃぶりの所在を確認。夜中に夫婦総出でベビーベッドの下からおしゃぶりを引っ張り出す、といったことがなくなりました。

それでも親の睡眠が浅くなったり起きたりはしているのですが、完全に起きているわけではないので、ラクにはなります。ケースバイケースなので、何が便利かは各家庭によるものだと思いますが、ベビーモニターのようなガジェットは地味に助かるシーンも多くあります。

あらためて確認できたのは、特に生後しばらくは、親がゆっくり眠り続けられることはなさそう、というのが現状であること。

一方で、揺り戻しはあるものの、我が子も日に日に、長く眠るようになってくれています。ガジェットの進化の恩恵にあずかりつつ、追い込まれてしまわないように、小さな工夫を続けていきたいものです。
 

【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。

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