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木彫り作家が語る〝原点〟作品は見た人への「サプライズプレゼント」
小6で作った飛行機は「木工キット」と誤解されてしまいました
洋菓子ブランド・ヨックモックの「シガール」やティッシュペーパー、カステラなど、本物そっくりに木彫りで再現し、SNSに投稿している木彫りアーティストのキボリノコンノさん(34)。創作活動を始めたのは、2021年9月のことでした。しかし、さかのぼること20数年、木彫りを好きになった原点は小学生のころだったといいます。
2月中旬、キボリノコンノさん(@kibori_no_konno:以下コンノさん)は、新作「たこ焼き」をSNSに投稿しました。
生地はもちろん、ソースや青のり、カツオ節、爪楊枝(つまようじ)まで一から木で作っています。
芸の細かさに、「ソースのトロリ感がリアル」「凄過ぎて腰抜けそうです!!」「美味しそうだから多分食べれる」「爪楊枝も自作なのはコンノさんならでは!!」などとコメントが寄せられ、いいねは2万を超えました。
「ソースの透明感ととろみをどう表現するかがポイントでした。とろみを彫刻で表現するために、本物のたこ焼きにソースをかけて観察しました」と振り返ります。
普段、公務員として働いているコンノさんが木彫りを始めたのは、2021年9月。記念すべき最初の作品は、一粒のコーヒー豆でした。以前は卓球が趣味でしたが、新型コロナウイルスの影響でその機会がなくなり、自宅で楽しめることとして始めたそうです。
以来、食べ物を中心に数々の木彫り作品を作り、見る人を驚かせています。
コンノさんは「常に挑戦、発見をしたいという気持ちでいっぱいで、同じ作品はあまり作らないんです」と話します。
「1度作ってしまうと作れることを知っているので、自分でもおもしろくありません。できないものを作ってみたい、次は今回の作品を超えるものを作りたいと毎回思っています」
常に挑戦し続ける理由は、「見てくれる人を感動させたい、驚かせたい」という気持ちから。もともとサプライズや相手が喜んでくれそうなことを考えることが大好きで、作品も見てくれる人への「プレゼント」のような気持ちで作っていると話します。
カステラを作った際は、ただ実物に「そっくり」なだけではなく、色を塗る前の木彫りのカステラも並べ、木からカステラができあがる「おもしろさ」も伝えました。
注がれているコーヒーの作品は、動的な液体への挑戦。「自分でもできると思っていなかったのですが、どこまで再現できるか挑戦してみたいという気持ちで作りました」
「作れそうなものを作る」ではないため、イメージ通りにできたときは自分でも感動するそうです。
木彫り作品を発表し始めたのは最近ですが、幼いころからもの作りが大好きで、折り紙や木で何かを作っては両親に見せていました。「親に褒めてもらいたいという気持ちが強かった」とコンノさんは振り返ります。
作品を見せるたびにたくさん褒めてくれる両親。その都度コンノさんの創作意欲は高まっていきました。
木彫りの魅力を感じたのは、小学校6年生のときです。
夏休みの工作として、父が買ってくれた木材で飛行機を作りました。しかし、コックピット部分が手持ちの彫刻刀ではどうしてもうまく彫れず、行き詰まってしまいます。
ものづくりの仕事をしていてDIYが好きな父に相談すると、電動工具のルーターをプレゼントしてくれました。おかげで、細かい部分を彫ることができたそうです。
父は飛行機の翼の厚みについてもアドバイスをくれ、完成した作品を見たときは褒めてくれました。しかし、学校へ持っていくと、「木工キット」と誤解されてしまったそうです。
「父がくれたルーターがきっかけで、僕の木彫り作品があります。父は創作の先輩、僕の師匠です」
ルーターは中学・高校の工作の際にも使っていました。現在使っているルーターは別のものですが、当時のルーターは父の手元にあります。「父に『ほしい』と言われたので、逆にプレゼントしました(笑)」
コンノさんは今でも、作品を作ると両親に写真を送り、感想をもらっているそうです。
「僕としてはいつでも褒めてもらいたいという気持ちがあるので親に見せるのですが、父は師匠なので簡単に褒めてはくれないんですよ」と笑います。
父に「泡とせっけん」の作品を見せたときは、「シュワシュワ感が足りないね。(せっけんの)白いところが石膏(せっこう)に見えるよ」と指摘されました。「泡とせっけんの境目のところに泡のシュワシュワが足りない」と気づき、修正したといいます。
そんな父も、注がれているコーヒーの作品には驚いていたそうで、コンノさんは「『やっと成功した!』とうれしかった」と話します。
一方、いちファンとして活動を見守ってくれている母は、作品のいいところを見つけてコメントをくれたり、作ってほしい作品をリクエストしてくれるそうです。
両親だけでなく、3歳上の兄と4歳下の妹も強力なアドバイザー。写真関係の仕事をしている兄は作品に合った撮り方を教えてくれ、SNSに詳しい妹は発信の仕方について相談に乗ってくれるといいます。
一番近くで活動を見てきた妻に意見をもらうことも忘れません。「チームコンノでやっています(笑)」と教えてくれました。
コンノさんはこの春、公務員を辞めて本格的に木彫り作家として活動していくと決めました。
公務員になる前は家具デザイナーとしてものづくりにかかわっていたコンノさんですが、自分の手で何かを作りたいとモヤモヤしていたといいます。しかし、その「何か」はずっと見つけられずにいました。
木彫り作品を作るようになって芽生えた、「いつか木彫りを仕事にしたい」という思い。
SNSで作品を発表すると、「実物を見てみたい」「地元で展示会を開催してほしい」という声も多く届くようになり、実際に展示会を開く機会も増えました。
趣味で活動していたこれまでとは違い、フリーランスは甘くないという意識もあります。
「安定して収入を得られる確証のない木彫り作家になることは、私も妻も不安が大きく、とても大きな決断でした」とコンノさん。妻とは何度も話し合い、「本当に頑張れる?」と念押しされました。
「本当にやりたいことだし、どこまでも頑張れる」。仕事を辞めて作家活動をする知人に話を聞き、今後の具体的なイメージもつかめました。ようやく自分が作りたいものに出会えたコンノさんの変化を見た妻は、最終的に一番の理解者になりました。
両親や義理の両親も「1度きりの人生の中でこの選択ができるのは今だけかもしれないし、やってみたらいいんじゃない?」と背中を押してくれたそうです。
家族に支えられ、「本当にありがたい。感謝しかありません」と繰り返すコンノさん。木彫りの道を選んだことに迷いはありません。
応援してくれる人たちに、これからも「サプライズ」をプレゼントできるよう挑戦し続けたいというコンノさん。今後は全国で展示会を開いたり、本を出版したりしたいと話しています。
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