IT・科学
スライサーで指をケガ…応急処置は? 国民生活センターも注意喚起
食材をつかむ「安全ホルダー」があっても…

野菜などの食材が簡単にスライスできる調理器具「スライサー」。とても便利ですが、指先にケガをする事故が多発しているといいます。実は記者も、今年はじめに指を切ったばかりで、なかなか血が止まらずに焦りました。救急医に適切な応急処置と、国民生活センターに事故の予防法と注意点を聞きました。
事故多発、国民生活センターも注意喚起
新年早々、大根をスライスしていたら、手がすべって思いっきり左手の小指までスライスしてしまった記者。これまで何度も使っていたスライサーでの初めてのケガでした。
すぐに洗ってペーパータオルやガーゼで抑えて止血したものの、じんじんとした痛みが広がります。
ようやく血がにじむくらいになったのは1時間ほど経ってから。
幸い家にあったハイドロコロイドばんそうこう(傷口から出る体液を閉じ込め、自己治癒能力を生かす「湿潤療法」に使うもの)を貼って、ひと息つけました。
その直後の1月18日、国民生活センターが「スライサーで指先にけがをする事故が多発!」と注意喚起したことを知りました。

2017年度以降の5年半あまりに、医療機関ネットワークにはスライサーでの事故事例が87件寄せられているそうです。
記者のように医療機関を受診しない場合も含めると、多くの人がケガをしているのではないかと想像できます。
清潔な布を当てて傷をおさえて止血
水道水で数分、傷口を水にさらして流して下さい。
傷口の洗浄には、長さ1センチあたり100ミリリットルの洗浄水が必要です。そのため、数分間、水道の流水で洗えば十分です。
――その後は止血ですよね。記者はティッシュの次にペーパータオルでおさえていたんですがどんどん赤く染まっていき……。薬箱をひっくり返したらガーゼが見つかったのでそれを当てて、手でおさえていました。
ガーゼがあれば、ガーゼがいいですね。なければ清潔な布を当てて、15分間ぐらいもう片方の手でしっかりおさえます。
気になってしまうと思いますが、この間、傷の様子を見ないようにすることが大切です。
なかなか止まらない場合は、2~3回、同様に繰り返すことが必要なときもあります。
――指先のケガだったので、指の根元をギュッと止血しようかなとも考えました。検索していると、ある医療機関のサイトには「指元を止血しないで」と書いてありました。なぜでしょうか?
指の根元を止血してしまうと、ほかの正常な指の組織に血の流れがいかなくなります。
それによって正常な指の組織に障害が起きることがあるので、避けましょう。
――傷口部分のみを止血することが大切なんですね。実はその際に、友人から「削ってしまった皮膚を乗せておさえた方がいいよ」と助言されたのですが、本当でしょうか?
皮膚や皮下組織(肉片)が完全に取れてしまっている場合、その部分が元通りにくっつくことを「生着」といいます。
しかし、その可能性はかなり低いと考えられます。
元通りにくっつくことを目指す場合も、病院で縫合しないと難しいでしょう。
乾燥させず湿潤療法で治す
ハイドロコロイドは「創傷被覆材」のひとつで、病院でも湿潤療法の際に使います。創部に貼りましょう。
しかし傷の部分は「感染」に弱いので、こまめに洗浄することが重要です。
理想は1日ごとに貼り替えます。傷が清潔であれば、1~2日に一度、貼り替えるのでも対応できると思います。

傷を消毒しないようにしましょう。消毒すると治癒過程で組織を傷つけてしまう可能性があるからです。
湿潤療法では、洗浄には水道水や生理食塩水を使い、乾燥したばんそうこうではなく、湿潤環境をつくれるハイドロコロイドという創傷被覆材を使います。
貼り替えるためにはがすときは、水にぬらすとはがしやすくなり、痛みが少ないです。

傷にガーゼなどをあてて乾燥させて治療していく方法だと、洗浄する都度、ガーゼを取って当てる行為によって、治りかけたものがとれてしまう可能性があります。
その場合は、洗浄後にガーゼでふいて、傷の上に軟膏(なんこう)を塗って覆う、ということが多いです。
病院受診の判断は? 感染にも注意
皮膚の裂け目が大きい場合や、深い場合です。
傷の深さ・幅が4~5ミリほど、長さが3~4センチほどになると、傷を縫う(縫合する)可能性があります。
また、傷ができたあと、指などの「ある部分が動かない」「とても痛くて動かせない」という場合には、腱の損傷なども考えられるので、受診をご検討ください。
また、出血が多すぎて立ちくらみがする、心臓の鼓動にあわせて勢いよく血が出る「拍動性の出血」がある、といった場合も受診を検討してください。
――ハイドロコロイドばんそうこうで湿潤療法をしていて、受診した方がいいタイミングがあったら教えてください。
傷のまわりの赤みが広がる、腫れてくる、白や黄色の液体が出てくる、痛みが広がる……などは感染のサインです。早期受診をご検討ください。
指先のケガは、微小な血管が切れてしまって、止血しにくいこともあります。その場合は、根気よく何度か、上から布を当てておさえる圧迫止血をする必要があります。
病院では、電気メスで血管を焼くこともできますが、圧迫止血に比べると痛みがとても強いので、私は圧迫止血をおすすめします。
まず、ケガには気をつけてくださいね。
小さくなったら安全ホルダーや包丁で
もちろん大事なのは、スライサーでケガをする前に、それを予防することです。
国民生活センターが「ハンドマネキン」を使って検証してみたところ、野菜が小さくなったときや、食材から手を滑らせたときに事故のリスクが高まっていたそうです。
センターは「調理する前に取扱説明書をよく読み、野菜が小さくなったり、野菜を保持しづらい場合には、(食材をつかむ)安全ホルダーを使用したり、包丁で調理する」ことを呼びかけています。
この「安全ホルダー」ですが、適切に使うことでケガのリスクが下がるものの、持ち方を誤ってしまってケガをした事例もあるそうです。

食材を調理している以外にも、注意が必要なシーンがあります。
2019年には、1歳8カ月の男の子が、引き出しにしまってあったスライサーをさわって右手の中指を切ってしまったという事例が。
2017年には30代の女性がスライサーの洗浄中に指を切ってしまった例もあったそうです。

国民生活センターでは、子どもの手が届かないところに保管することや、手入れをするときにもケガに気をつけるよう呼びかけています。