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とうとう完成「古墳クッキー」毎週末費やし手がけた漫画家の〝狂気〟
「またやってる」にもめげぬマニアの鑑
日本史の教科書にも写真が載っている、古墳の一種・前方後円墳。もりもりと樹木が生えた、鍵穴を逆さにしたような形の領域を、お濠(ほり)で囲った古代の陵墓です。特徴的な見た目で人気を集め、関連グッズも多数作られてきました。この古墳を〝完全再現〟した自作クッキーが、ツイッター上で話題を呼んでいます。5年ほどの試行錯誤の末、「理想形」に到達したと話す作者の漫画家に、思いの丈を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
「聞いてください。とうとう理想の古墳クッキーが完成したんです」。2023年1月28日、そのような書き出しで始まるツイートが投稿されました。
添付画像には、てのひらサイズのクッキーが写っています。中央にあるのが、鍵穴型に焼き固められた、抹茶色の生地。方墳(平面が四角い墳墓)と円墳(平面が丸い墳墓)が組み合わさった、古墳の俯瞰(ふかん)図を思わせる形です。
その周辺を取り囲むように、透明のキャンディーが、たたえられた水のごとく敷き詰められています。さらに外側には、古墳〝本体〟と同じ色と材質の生地で壁が構成されており、お濠を再現していることが分かるのです。
クッキーが大量に並ぶ写真は、さながら古墳の街といった様相です。「刺さる人には刺さりそう」「可愛いを超えて、いとおしいビジュアル」。ツイートには好意的なコメントが連なり、5万超の「いいね」もつきました。
聞いてください。とうとう理想の古墳クッキーが完成したんです。クリアなお堀付きの前方後円墳。…でも。なんで今までできなかったかというと「水色のキャンディ」が無かったからなんです。でも…ある事はまぁ、あるんですよ。水色のキャンディ。意を決してやったらやっぱりキレイにできた。嬉しい。 pic.twitter.com/1ZJPG6yws6
— 水谷さるころ/「子どもにキレちゃう夫をなんとかしたい!」発売中 (@m_salucoro) January 28, 2023
クッキーを生み出したのは、漫画家・イラストレーターの水谷さるころさん(47・@m_salucoro)です。夫・息子との家庭生活が題材のエッセー作品『子供にキレちゃう夫をなんとかしたい!』(幻冬舎)など、多数の著書があります。
約15年前、箸墓(はしはか)古墳(奈良県桜井市)を訪れたのが契機となり、古墳の形状に魅せられたという水谷さん。特に新型コロナウイルス流行以降、屋外かつ三密状態になりにくい観光地である点も手伝い、各地の古墳を巡ってきました。
関連グッズの収集にも余念がありません。きっかけは10年ほど前、古墳を模したクッションを見かけたことでした。何とも言えない可愛らしさに、胸のときめきを覚えて以来、古墳モチーフの菓子や土産を「買いあさって」います。
手元のコレクションには、古墳の形をしたクッキーの抜き型がいくつか含まれていたそうです。「これでクッキーを焼けば、自分で古墳スイーツが作れる!」。ある日、はたと気がつき、約5年前に試作に取りかかりました。
「元々クッキー作りが趣味だったわけではなく、古墳のクッキーが欲しくて始めたという経緯です。しばらくは市販の抜き型を使っていたのですが、徐々に自分の理想を追い求めるようになり、型をオーダーメイドしたこともあります」
試作段階では、墳墓表面を覆う木々の深緑色を再現するため、本体に抹茶味の粉で色つけしたクッキーを採用。課題となったのが、周濠(しゅうごう=お濠)部分の制作でした。
製法のヒントを得たのは、キャンディーを溶かし、生地の中央に配置して作る「ステンドグラスクッキー」です。ただ周濠内の水は苔生(こけむ)したような濃緑に見える場合が多く、これという色のキャンディーになかなか出会えません。
そこで青い食紅に砂糖を混ぜ、2回ほど作ってみることに。しかし水分量や加熱時間の調節が難しく、食紅が蒸発してしまったり、砂糖を隙間にうまく流し込めなかったりと、多くの難点がありました。
最終的に選んだのが、近所の100円ショップを回って見つけた、水色のキャンディーです。入手したのがミント味だったため、抹茶クッキーとの相性が必ずしもベストとは言えないものの、唯一無二の外観を実現することができました。
「周濠部分は、クッキーの生地を細い帯状に切り、古墳に沿わせて作っています。当初はギューギューとこねて成形していたのですが、焼いた後に固くなってしまったためです」
「クッキーをある程度焼いた後、ハンマーで細かく砕いたキャンディーを周濠部分に入れ、改めて焼き直しています。個々のキャンディーによって溶け方が違うため、何回か試して、程よい加熱時間を探りました」
水谷さんによると、ここ最近はクッキーを毎週末焼いていました。夫や息子から「またやってる……」「もはや狂気を感じる」と言われながらも、納得いくまで、ただひたすらに生地と向き合い続けたとのことです。
クッキーを口にした人々は、どんな反応を示したのでしょうか。水谷さんいわく、友人家族に振る舞った際、大人から好評を得られました。ただ同席した子供たちにとってはいまひとつの味だったらしく、途中で手が止まってしまったといいます。
「うちの家族もミント味が苦手なので、不評でした。特に私の息子は、いつも古墳クッキーと一緒に焼いている、キャラクター型クッキーの方がお気に入りです。逆に、ミント好きな人ならおいしく食べられる、という感じですね」
とはいえ、今回のツイートには「商品化されたら絶対買う」といった、熱意あるコメントもたくさんつきました。作り手冥利に尽きる感想ですが、水谷さんは「残念ながら販売はハードルが高い」。むしろプロに手がけて欲しい、と語ります。
ちなみにツイート上の写真では、円墳部分が上方を向くように、クッキーが持ち上げられています。この点をめぐって「前方後円墳なのだから、方墳部分を上(前)側にするのが正解なのではないか」との声も寄せられました。
水谷さんによると、古墳の円墳部分には、遺体が埋葬されていることが多いそうです。また方墳部分が拝所(聖域を拝む場所)となっている場合もあるため、今回は前者を上座・後者を下座とみて、写真を撮影したといいます。
今後、クッキーをより良い形に仕上げたいと意気込む水谷さん。ツイッター上で薦められた、飴(あめ)細工などに適した甘味料を早速購入するなど、更なる研究の準備を進めています。〝古墳道〟を極めるのに、終わりはないようです。
「古墳クッキーは、どの方向から見ても楽しめます。自分で作ってみたいという方もいらっしゃったので、家庭でじゃんじゃん、理想の古墳を築造して欲しいです。そして、おいしく召し上がって頂きたいですね」
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