ネットの話題
透けて見えるハンコが「天才的発想」押印がいつもズレちゃう人たちへ
「こんなのほしかった!」
「ちょっと不思議ですごく便利」なハンコの動画が、ツイッターで話題になっています。押印がいつもちょっとずれてしまう筆者が、メーカーに開発背景を聞きました。
《ちょっと不思議ですごく便利》と紹介されたハンコは、横から見る限りでは、カラフルな普通のハンコです。名前が彫られた「印面」を見ると、うっすら透明になっているように見えます。
驚くのは、ハンコを背中側からのぞき込んだ様子。
天窓のように透明になっていて、真下にある印面の文字まで、はっきりと透けて見えるのです。
この動画に「目から鱗」「発想が天才的」「いつも微妙に斜めになるから、こんなのほしかった!」と反響が相次ぎ、7万件以上のいいねがつきました。
ちょっと不思議で すごく便利 pic.twitter.com/vf8Gbu9V8a
— 永江印祥堂【公式】 (@nagaeinsyoudou) January 22, 2023
動画を投稿した永江印祥堂は、これまでも独自の技術を駆使した唯一無二の印鑑作りで話題になってきました。
一方で、普段はメーカーから仕入れた印材に彫刻することも手がけており、今回の投稿は「他のメーカーが開発した面白い印材を紹介したい」と、魅力を伝えられる動画を作ったところ、バズったそうです。
ちなみに「ありそうでなかった!」と注目されましたが、この印材は「業界ではよく知られていた印材なんです」。
その名も、「見えるハンコ LooKy(ルッキィ)」。この印材を開発したメーカー、「ウィズアス」に話を聞きました。
印章の製造販売と、印章彫刻機の開発販売を手がける会社で、全国のハンコ業者に印材を卸してきました。
「見えるハンコ LooKy(ルッキィ)」が発売されたのは、2010年のことでした。
取材に応じてくれた取締役の奥本敦さんによると、もともと「どうしてもハンコがまっすぐ押せない」という声を受けて、「だったら、上から見えたら良いんじゃないか」と開発したと言います。
奥本さんは「すごく単純な構造なんですが……」と謙遜しますが、ただ透明の印材に彫刻しても、光の屈折の関係で、印面まで透けては見えないそうです。
そのため、「見えるハンコ LooKy(ルッキィ)」は濁りのない透明度の高いアクリル樹脂を使用。光の屈折がおきないように計算し、印材をカットすることで、印面まで透けて見ることができるようにしました。
「もう捺印、失敗しない」というキャッチコピーで展開したところ、これまでにないハンコとしてテレビなどでも取り上げられました。
ちなみに、各地の「印鑑条例」で変形しやすい素材は実印として認められない関係上、アクリル樹脂も実印向けではなく、認め印や銀行印向けとして使われているそうです。
動画の反響を見ると、「朱肉をつけても、ちゃんと透けて見えるのか?」という疑問がありましたが、朱肉をつけるほど、逆にくっきりと文字が見えるようになり、透明の部分が朱肉で汚れることはないそうです。
また、ハンコには溝を彫って上下を確認する「アタリ」をつけたり、目印にシールを貼ることもあります。「わざわざ透けさせなくても事足りるのでは?」という指摘もありました。
ちなみに、諸説あるハンコの〝言い伝え〟では、自分で上下を見極めて慎重に押すためにあえて目印を付けてはいけないことや、印鑑は「もう1人の自分」として扱うため「アタリ」を彫って傷つけないようにする、ということで、目印を付けない場合もあるそうです。
奥本さんは、こう考えます。「(上下を判別するのには)どれも良いアイデアですが、ハンコを押す時って、アタリやシールが目線の向こう側に行ってしまいますよね。指で触って確認してるつもりでも、何度も押しているとずれていってしまうこともあります。上から見ることができればその心配が減ります」
筆者もハンコを押すと、必ず少し右に傾いてしまうので大きくうなづきつつ、聞いておりました。
電子印鑑が使われるようになり、「脱ハンコ」の時代とも言われていますが、画期的なハンコの動画は「こんなのほしかった!」と熱烈な反響が寄せられました。
奥本さんは「嬉しく思っていました。予想外のところでバズったと聞いて、有り難い限りです」と声を弾ませます。
そして続けました。「デジタル化で便利になるのは、私も一市民として歓迎しています。でも、実はハンコも便利なことがあります。サインでも事足りると言っても、何カ所もサインするよりハンコの方が簡単。ハンコの良さをうまく生かして頂ければと嬉しいです」
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