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連載

#6 Y2Kと平成

平成レトロと「エモい」の深い関係 「〝時代〟は振り返っていない」

「現在や未来に目を向けることは常に不安感とセット」

各年代ごとの携帯電話の展示もある=2017年11月、東京都千代田区の「携帯市場」
各年代ごとの携帯電話の展示もある=2017年11月、東京都千代田区の「携帯市場」
出典: 朝日新聞

目次

2000年代のファッションや1990年代のJ-POPの流行ーー。2022年、若い世代を中心に「平成レトロ」がブームになりました。昭和生まれで平成を駆け抜けてきた記者(35)としては、「平成は〝レトロ〟なのか」と独りごちたくなります。トレンドの真ん中にいる若者にとって、「平成」とは何なのか。博報堂若者研究所のメンバーと考えました。

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ファッションも、J-POPも…

今年、「平成ギャル」や「平成レトロ」など、平成がつく言葉を多く耳にしました。かつて街を闊歩していた「平成のギャル」のファッションアイテムが、「Y2Kファッション」(2000年代に流行ったファッションのリバイバル)として注目され、ルーズソックスやアームウォーマー、厚底靴などを身につける若者もいます。

音楽トレンドにもその流れは見え、TikTokでは1998年リリースの、PUFFY「愛のしるし」に合わせ、ダンスをしている若者を多く目にします。他にも、1990年代後半に人気を博したユニット・ブラックビスケッツが20年ぶりに音楽番組に登場しました。

若者は平成に魅力を感じているのか

「平成」の、なにが若者たちを魅了しているのでしょうか。

一緒に考えてくれたのは、定期的に大学生を中心とした若者とのワークショップを開催している博報堂若者研究所のメンバー、瀧﨑絵里香さんとボヴェ啓吾さんです。

瀧﨑さんは、「若者たちからしたら、明確に平成という『時代』で振り返っている感覚ではないのでは」と指摘します。

「平成と令和をまたぐ形で青春を送っている子たちにとって、少し前の『エモい』経験に『平成』という名前をつけることができ、共通言語にできているようにも思います」

つまり、大学生だったら高校生の自分、高校生だったら中学生の自分…のように、若者たちが本来懐かしみたいのは、自分自身の経験であり、時代ではないという指摘です。

なぜなら、「時代を懐かしむという感覚を持つのは、社会人10年目など、既存のステータスが長く継続している人です」と瀧﨑さんは指摘します。

「高校、大学などステータスが数年おきに変わる若者たちにとって『時代を懐かしむ』感覚は、実は縁遠い感覚のような気もします」

平成にトレンドだったものがリバイバルしていることで、当時を知る私たち「大人世代」は「へえ!平成がレトロって言われちゃうの?」と、「平成」というキーワードを真ん中にして関心を持ちますが、あくまでそれは大人の視点。

若者たちからしたら、「平成」に強い関心があるわけではなく、当時流行ったアイテムなど、一つ一つのこと・ものに対して関心を持っているだけという指摘に、深く頷きます。

今年、平成がリバイバルしているのは、必ずしも「平成」という時代の何かに魅力を感じての現象ではなく、根底にある「懐かしさを共有したい」という思いの現れなのかもしれません。

2015年1月、渋谷にオープンした「ガングロカフェ」の店員たち。米国から「これをやるため」に来日したスタッフも=2015年6月12日
2015年1月、渋谷にオープンした「ガングロカフェ」の店員たち。米国から「これをやるため」に来日したスタッフも=2015年6月12日 出典: 朝日新聞

「レトロ」がトレンドになる要因

実は、平成に限らず「レトロ」を好む傾向はこの10年ほどのトレンドでもあります。

2010年代から、「昭和レトロ」はじわじわと続いています。昭和っぽいフォントや雑貨、町並みが好まれ、「っぽい」器とともに提供される、かためのプリンやクリームソーダは純喫茶ブームを巻き起こしました。

瀧﨑さんは、「レトロと一口にいっても、二つの種類があります」と話します。

一つ目は、自分自身の体験として、かすかに記憶のあるものについてのレトロ。若者にとっての平成レトロはまさにこれです。

もう一つは、自分自身は生きていなかった時代でも、やや遠いノスタルジーを刺激するレトロです。例えば中高年以下にとっての昭和レトロはそれにあたり、若者が修学旅行先の京都で着物や時代劇の衣装を着ることも、後者に当たるでしょう。

「レトロ」というトレンドが生まれる要因について、ボヴェさんは「言い切るのは難しいので、あくまで感覚ですが」とした上で、「いまの若い子の方が、古いものに価値を見い出している気がします」と話します。瀧﨑さんも「様々な選択肢があるいまだからこそ、逆に不自由さみたいなものや、共通言語の少ないものに価値を持っている子はいると思う」といいます。

「レトロ」には2種類あるという。写真はイメージです=Getty Images
「レトロ」には2種類あるという。写真はイメージです=Getty Images

エモい、レトロ…「未来への不安」との裏表

さらに瀧﨑さんは「レトロは『エモい』に包含されると思う」と分析します。「エモい」もここ10年ほどで一気に使われるようになった言葉です。若者研究所では以前、大学生と「エモい」が使われる背景について議論をしたといいます。

「そのときに話したのは、『現代は過去に目線がいきがちなのでは』ということでした」(ボヴェさん)

なるほど、エモいとレトロには関係がありそうです。

「何が起きるかわからない流動的な時代で、かつ、日本社会が成長している実感があまりない。そんな現代を生きる若者にとって、現在や未来に目を向けることは常に不安感とセットになっています」

「一方で、確定し、共有されているものである過去には安心感があります。懐かしいというエモーションを軸にして過去や誰かとつながることが大きな価値を持っているのには、そのような時代背景があるのではないかという話になりました」

未来に目が向きにくい時代に過去を基軸に誰かとつながり、「エモい」という言葉で感情を共有する。確かにいまの時代感を象徴しているようにも思えます。

さらに瀧﨑さんは、「SNSで画像を簡単に共有できるいまは、ビジュアル重視の文化ともいえます。画像に限らず、エモさを共有し、懐かしむこととSNSは相性がいいのでは」と話します。

例えば、高校時代の制服写真を見つけたとして、それをすぐに共有すれば、友だち同士で懐かしめるし、「こんな校則あったよね」とつぶやけば、それに対する反応も返ってくる。
SNSが、懐かしむためのコミュニケーションをしやすくしているという指摘です。

店頭に並ぶたまごっち=1997年、大阪
店頭に並ぶたまごっち=1997年、大阪 出典: 朝日新聞

「エモい」で終わってしまうのは不安

「エモい」レトロを好む若者たち――。そう聞くと、「昔にしがみつく」といった、少しマイナスなイメージを抱きがちです。

一方で、若者のトレンド調査をする方々と話していると、「スマホを使いこなす世代にはアレンジ力・編集力がある」といった感想をよく耳にします。そう聞くと、若者たちは、過去によかったものをいとおしみつつ、それを現代風にアレンジする力があるという見方もできます。温故知新。そんな言葉も浮かびます。

ただ、レトロなものに対して「エモい」という感情で止まってしまうことには若干の不安を覚えます。「エモいからシェア」、「エモいからまねする」――。それだけにとどまらず、「エモい」という感情を分解し、自分の中に残したいものが見つかると、視線が前に向くような気もしました。

若者の「レトロ」を好む傾向は、この先どうなっていくのか。引き続き注目したいと思います。

【連載】Y2Kと平成

いま流行している「Y2Kファッション」。街中でルーズソックスを履いている高校生を見かけることも珍しくありません。広い層に2000年代の出来事や空気感への興味・関心が高まったこの機会に、当時の世情を振り返り「現代社会」を考えます。

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