連載
#5 Y2Kと平成
平成のトレンド、雑誌からひもとく 95年から入り続けるワード
平成にヒットしたものがリバイバルしています。1990年代後半にお茶の間を楽しませてくれた音楽ユニットが復活したり、SNSで話題になったり。若者の間では、Y2Kファッション(Y2K=2000年代)としてルーズソックスや厚底の靴が流行っています。そんな平成の時代感を雑誌の索引からひもとく試みをしたのが、蔵書数80万冊を誇る雑誌図書館「大宅壮一文庫」(東京・世田谷区)です。
大宅壮一文庫が来館者に配布している「雑誌記事索引ランキング(事件名編・人物名編)」は、平成の30年の間に発行されかつ大宅壮一文庫の蔵書となっている雑誌の索引(見出しなどを参考にジャンル分けするもの)に、どのような語句が含まれていたのかをランキング形式で紹介するもの。
元々は、天皇陛下(現上皇さま)の生前退位の意向が示された2016年の翌年、図書館をテーマとする「図書館総合展」での展示物として発表するために作ったものでしたが、来館者に向けた配布用としていまも印刷・製本を続けています。
「いまだに置いておくと持ち帰って行く人がいます」と話すのは、このランキングをまとめた事業課長の元谷紀子さん。
元谷さんによると、大宅壮一文庫では、来館者が目当ての記事を探し当てやすいよう、索引作りにこだわっています。来館者は、独自の検索システムに調べたい語句を入力しますが、その語句に関連する記事が的確に見つけられるように索引が作られています。
文庫の索引は、大項目(33件)から中項目(695件)、小項目(7000件)にかけてより細分化して調べられるようになっています。例えば、小項目「朝日新聞」の前の中項目は「新聞一般」、大項目は「マスコミ」となります。
平成の索引ランキングは、小項目の語句でランキングを作りました。
例えば、平成元年(1989年)の事件名編でのランキング1位はリクルート事件、2位は消費税。この年は、前年に発覚したリクルート事件を受けて、当時の竹下登首相が退陣に追い込まれた年であり、消費税が導入された年でもありました。
平成30年(2018年)は、安倍内閣が1位、2位は老人一般。高齢者の健康や介護、終活を含む「老人一般」の分類が上位にあることに、時代や雑誌作りの狙いが透けてみえると指摘するのは、事務局長の富田明生さん。「雑誌を購読してもらうためのターゲットが高齢者になっていることの現れ」といいます。平成26年(2014年)以降は毎年、ランキングに入ってきていて、高齢者の健康や介護、終活などについての話題が取り上げられています。
富田さんは、時代感の一つとして、「windows95が登場して以降、コンピューターやインターネットの話題が増えました」と話します。確かに、ランキングでも平成7年(1995年)は3位にコンピューターが登場。翌1996年は3位にコンピューター、4位にインターネット。1997年は、インターネットが1位、2位がコンピューターとなっています。この2つがランキングに入る傾向は2002年まで続き、インターネットは平成の最後までランキングに残り続けています。
女性が好む話題としての「化粧品」がランキングに入り始めたことも一つの特徴といいます。
女性をターゲットとする雑誌が増えてきたことによるものですが、これには文庫の雑誌収集方針の変更も関わってきます。
開館以来「総合誌を基本」として所蔵してきた文庫ですが、1998年以降は専門誌も対象になりました。以降、ファッション誌も含まれるようになったことも、「化粧品」がランキングに入ってきた理由でもあります。
富田さんは「雑誌は『読者が読みたいもの』を重視して作られます。そのため、一般の人の興味を反映してテーマが組まれ、書く人も読み手と近い感覚で書いている。だからこそ時代を反映できます」と話します。
一方、平成も令和も変わらないのが、「スキャンダルへの興味」。
ランキングの人物編をみると、当時話題になったスポーツ選手や芸能人、政治家の名前が上位に上がります。文庫で約30年にわたって索引作りに携わっている事業課の小林恭子さんも、「『たたかれる』人は索引数も伸びる」と実感しています。
「人の裏を見たいというのは人間の性(さが)ですよね。『きれいごとだけで終わるわけない』ということを知れる話題に、関心が向くように感じます」と富田さん。
最近の雑誌作りの特徴は「色んな手で引きつけようとしている」(富田さん)ということだといいます。
付録付きや、一つの号に対して複数の表紙を作るなど、ページをめくる前から魅力を感じさせる工夫がされています。
事業課の小林恭子さんが「90年代に増えた気がする」という「袋とじ」の手法は、今も健在。女性誌では占いや生活情報を袋とじにしているものもあるそう。
ちなみに付録は、これも重要な雑誌の歴史でもあり別館に保管しているそう。
文庫で雑誌の索引を作っているスタッフは複数いて、小林さんが受け持っているのは30冊ほど。「どうすれば記事を検索しやすいか」を考えながら仕事をしていると話します。
「正直、担当雑誌の中にも主義主張の違うものもあります。でも、担当の雑誌を悪く言われるとつらい」と親心を吐露します。
「一生懸命作られているものなので、できるだけ生かしてあげたい。50年後でも何年後でもいいので日の目をみてほしい」
館内を案内してもらい、古い雑誌を手に取ると、その時代感が紙質や、広告などからも伝わってきます。
小林さんは「雑誌は写真が豊富で、写真が伝えてくる情報量が豊富です。背景の車や、通行人の服でも時代を感じられるのではないでしょうか」。また、インタビュー記事の文体もかしこばらないものも多く、くだけた話し言葉にも時代を感じることができます」と、その魅力を語ります。
大宅壮一文庫の雑誌で最も古いものは、1875年のもの。現在は235種類の雑誌を取り扱っていて、蔵書は80万冊にのぼります。
雑誌とともに時代を歩んできた文庫でこそ、感じられる「時代感」がありました。
【連載】Y2Kと平成
いま流行している「Y2Kファッション」。街中でルーズソックスを履いている高校生を見かけることも珍しくありません。広い層に2000年代の出来事や空気感への興味・関心が高まったこの機会に、当時の世情を振り返り「現代社会」を考えます。
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