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渋谷のガラス張りトイレ〝丸見え〟騒動 おしゃれ公衆トイレの注意点

「代々木深町小公園」のトイレ。鍵があいていて透明な状態。
「代々木深町小公園」のトイレ。鍵があいていて透明な状態。 出典: PIXTA

目次

「透明トイレ」として知られる渋谷区の公衆トイレで、使用時に個室に張られたガラスが不透明になる仕組みが機能せず、内部が“丸見え”になっていたことがわかり、ネットを中心に騒動になりました。近年、広がる「おしゃれ公衆トイレ」では、過去に事件も発生しています。使用時の注意点について、立正大学教授(犯罪学)の小宮信夫さんに話を聞きました。(朝日新聞デジタル機動報道部・朽木誠一郎)
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“丸見え”に渋谷区の説明は

「はるのおがわコミュニティパーク」のトイレ。鍵がかけられて、外からトイレ室内がみえない状態。
「はるのおがわコミュニティパーク」のトイレ。鍵がかけられて、外からトイレ室内がみえない状態。 出典: PIXTA
東京都渋谷区は16日、東京都渋谷区立代々木深町小公園とはるのおがわコミュニティパークの公衆トイレについて、不具合が起きたと発表しました。

両トイレは個室の壁がガラス張りになったデザインで、使用時にはガラスが不透明になる「透明トイレ」として知られます。不具合とは、利用中も内部が見通せる状態になっていたというもの。13日に人気動画配信者が指摘したことで、ネットでも注目を集めていました。

同区によれば、これらのトイレのガラス壁は、通常は通電させることで透明な状態を保ち、鍵を閉めると通電が解除されて不透明になる仕組みでした。しかし、ガラス壁内の透明・不透明化を作り出す粒子が気温の低下により固まり、不透明化に時間がかかったため、今回の騒動につながったということです。

実は昨年冬も同様の事象が発生。対策として、粒子が固まらないように、利用者がいないときに自動で通電と解除を繰り返す機器を設置したといいます。騒動発覚以降、「数分おきに一瞬だけ透明・不透明が繰り返される」ことも話題になりましたが、これはその機器によるものと説明。

今回は「利用者からの不安の声を受け、2022年12月14日14時頃より常時、不透明な状態として運用をしています」とし、お詫びの上、「通常の公共トイレとしてのご利用に問題がないことは確認しております」「今後同様のことが発生しないよう、検証を進め、再発防止に努めてまいります」とコメントしました。
 

デザインの考え方に「ズレ」

大井町駅前公衆便所
大井町駅前公衆便所 出典: PIXTA
今回、騒動になったトイレのような「おしゃれ公衆トイレ」は近年、広がりを見せていました。多くは公衆トイレが持つ「汚い」「暗い」などのイメージを払拭することをコンセプトにしています。取り組みに評価がある一方で、こうした公衆トイレで事件が発生した例もあります。

その現場、品川区の「大井町駅前公衆便所」は2020年に改装されたもの。塔状の男女共用トイレ6棟が並び、高いものでは12mにものぼる様子は、現代アートのようでもあります。ここで、21年に女性が面識のない男にトイレ内に連れ込まれる強制わいせつ事件が起きました。

立正大学教授(犯罪学)の小宮信夫さんは、この事件について「デザインを優先して犯罪を誘発した典型例」と指摘します。

「トイレが歩道上にあるので、通行人を装って尾行しても気づかれません。また、入口が線路側にあるので、連れ込まれる瞬間を目撃されにくい。男女が分離していない共用トイレなので、異性に尾行されても違和感を覚えにくく、周囲の人も不自然に思わないことが考えられます」

また、「防犯カメラがあっても、リアルタイムでモニタリングしているものでないと、犯罪者は性犯罪の届出率が低いことを知っており、大きな抑止力にはならない」と小宮さん。

「海外の公衆トイレでは『防犯環境設計』として、犯罪者がどう物色し、どう接触し、どう逃走するかをシミュレーションして、犯罪がやりにくい状況自体がデザインされている。ロンドン芸術大学には防犯デザイン研究所まであります。日本のおしゃれな公衆トイレは見た目のデザインばかりが優先され、そこがズレていると感じます」
 

見た目に惑わされず自衛を

小宮さんはこうした「防犯環境設計」がなされていない日本の公衆トイレについて、「世界で例を見ない危険なもの」と注意喚起します。

わかりやすいのが、われわれがイメージしやすい「一般的な公衆トイレ」。例えば「入口が一つ、男子トイレと女子トイレが左右にあり、中央に多目的トイレがあるスタイル」を公園などで見たことがあるはずです。

しかし、このようなトイレは、犯罪者に都合のいい作りで犯罪を防げない、と小宮さんは説明します。

「トイレの犯罪では、女性の後ろからついていき、多目的トイレに連れ込むパターンが多いです。そんな事件が起こらないよう、世界では男女のトイレの入口はできるだけ離して設計されています。そうすれば、女性の後ろから男性がついてきたとき、つけられた女性はおかしいと思いますよね。周りの人もおかしいと気づくはずです。犯行に及ぼうとすることがわかってしまうため、トイレで犯罪を起こすこと自体を、デザインにより防いでいるのです。

逆に日本のように入口が一つだと、後ろから男性がついてきても、女性も周りの人も何も違和感を感じない。トイレのデザイン自体が犯罪者を引き寄せているのです」

また、イギリスなどでは法律により「犯人が罰せられるのはもちろん、そのトイレを管理している自治体や企業が責任を問われることもある。犯行の機会を生まない義務が課されているからです」と小宮さん。日本は犯人を罰するだけでなく、社会として犯罪を減らすための取り組みが少ない、と訴えます。

その原因として、小宮さんは日本に「自分だけは大丈夫(犯罪に巻き込まれない)という根拠のない思い込み」や「みんな同じだから悪い人はいないという性善説」、“安全神話”があるとみます。そのため、犯罪への危機意識が高い海外と比べて、かえってその対策がなおざりになっているおそれがあるのです。

そのため、現状では「自衛しかない」と小宮さん。「公衆トイレを利用するときには、どれだけおしゃれでもその見た目に惑わされず、入口への動線が一本ではないか、周囲からの視線が確保されているかといった点を確認するようにしてください。リスク・マネジメントの基本は『最悪に備えよ』です」と話しました。

◆小宮信夫さん
立正大学教授(犯罪学)/社会学博士。日本人として初めてケンブリッジ大学大学院犯罪学研究科を修了。国連アジア極東犯罪防止研修所、法務省法務総合研究所などを経て現職。「地域安全マップ」の考案者。警察庁の安全・安心まちづくり調査研究会座長、東京都の非行防止・被害防止教育委員会座長などを歴任。代表的著作は、『写真でわかる世界の防犯 ——遺跡・デザイン・まちづくり』(小学館、全国学校図書館協議会選定図書)。NHK「クローズアップ現代」、日本テレビ「世界一受けたい授業」などテレビへの出演、新聞の取材(これまでの記事は1700件以上)、全国各地での講演も多数。公式ホームページとYouTube チャンネルは「小宮信夫の犯罪学の部屋」。

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