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M-1ラストイヤーでピン芸人転身 コールセンターバイトで得た胆力

芸歴15年目にしてピン芸人1年生となったばし太さん(元・柴田アイスピック)=筆者撮影
芸歴15年目にしてピン芸人1年生となったばし太さん(元・柴田アイスピック)=筆者撮影

目次

多くの漫才コンビが解散して世間をにぎわせた2022年、「M-1グランプリ」のラストイヤー出場が目されていた「笑撃戦隊」も、そのひとつでした。芸歴15年目にしてピン芸人に転じたばし太さん(元・柴田アイスピック)のSNSでの解散投稿は、お笑い好きに大きな衝撃を与えました。しかし「焦りは1割」と語るばし太さんには、アルバイトで培った「能力」がありました。(ライター・安倍季実子)

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ばし太:大学卒業後、ワタナベコメディスクール(6期生/2007年)に入学。在学中に野村辰二さんと「笑撃戦隊」を結成し、その年のM-1グランプリで1回戦を突破。M-1では三度、準決勝へと進出し、THE MANZAI認定漫才師でもある。2022年9月末日にコンビ解散を発表し、ピン芸人として再スタートを切った。

芸歴15年目、ピン芸人1年生の葛藤

「解散発表した後、色んな方から『もったいない!』と言っていただきました。そして『驚いた!』と。正直、僕もみなさんと同じ気持ちです(苦笑)」

そう話すのは、今年の10月にピン芸人に転向したばかりのばし太さん。養成所時代に組んだ「笑撃戦隊」でM-1に挑み続け、2010年、2015年、2017年に準決勝へ進出。2013年、2014年の「THE MANZAI」では、認定漫才師にも選ばれました。

実力派コンビとして着実に評判を高めていき、注目のラストイヤーとなった今年のまさかのM-1不出場&コンビ解散。

多くのお笑いファンを驚かせたTwitterの解散報告
多くのお笑いファンを驚かせたTwitterの解散報告 出典:ばし太さんのツイート

ピン芸人に転向後も、コンビ時代の印象が強いためか、出ているライブの数は月に数本にとどまっているそう。話を聞いた11月時点では、「年末年始のお笑い特番のオーディションに力を入れている」と語りました。

「解散発表は9月末でしたが、実際には、今年の春からピンネタもしていたんで、『急にピンになった』っていう焦りはありません」

とはいえ芸歴的に「R-1グランプリ」には出られず、ネタ番組のオーディションの数もそんなに多くないといいます。

「世間が求めているのはフレッシュな若手の原石。15年のキャリアを積んでいることがどう見られるのかという不安や、若干の焦りはあるかもしれないです。

でも、世間に知られていなければ、芸歴が長くても原石といえると思うんです。だから、『ピン芸人1年目』っていうのには、未知の可能性があると思っています」

ピン芸人のばし太さん=ワタナベエンターテインメント提供
ピン芸人のばし太さん=ワタナベエンターテインメント提供

誰もが想像していなかった「芸歴15年目でピン芸人1年生」という急展開ですが、ばし太さんには迷いはありません。

「これまでのキャリアは一旦横に置いて、ほかの1年目の芸人たちと同じように何でもやらせていただくだけです」

そう思えるようになったひとつの要因に、5年続けているアルバイトがありました。

身についた「クセの強い人への耐性」

現在、ばし太さんはコールセンターでアルバイトをしています。

「住宅の深夜のトラブル相談窓口で、バイト歴は5年目になります。本当は、高速道路の緊急コールセンターのバイトに応募したんですが、パソコンのタイピングテストで落ちてしまって……。その時に、このバイトを紹介されて、二つ返事で引き受けました」

週3~4回のシフト制で、月の平均的なアルバイト代は17~18万円くらいだといいます。

「勤務時間は夜10時~朝9時(休憩時間含む)までなので、基本的にはバイトと自宅の往復です。睡眠時間以外でネタを作ったり、ライブに出たり、好きなことをしています」

深夜ということもあり、電話件数はあまり多くないそうですが、住宅トラブルの総合窓口なので、水漏れ、騒音、火災など内容はさまざまです。中には、少し変わった電話もあるといいます。

「2~3人で仕事してるんで、電話が重なった場合はスタッフ総出で対応することもあります」=筆者撮影
「2~3人で仕事してるんで、電話が重なった場合はスタッフ総出で対応することもあります」=筆者撮影

「深夜だからなのかは分かりませんが、ちょっと変わった方からの電話もあります。例えば、パニックになって激怒されてる方、その日の出来事や自分の体調を報告してくれるご老人など。普通に生活していたら、まず出会うことはないでしょうね(苦笑)」

今では仕事に慣れ、相手が怒っていても冷静に対応できるようになりました。ネタ作りのヒントを探す余裕も出てきたといいます。

「でも、はじめたばかりの頃は焦ることもありました。というのも、僕、こう見えて繊細なタイプで、基本的に、嫌がってる人に土足で乗り込んでいけない性格なんです。

それまでは飲食店のキッチンとか、あまり人と接しないバイトばかりしてましたし、先輩に紹介された営業電話をかけるコールセンターバイトは半年しか持ちませんでした。今のバイトを選んだのも、深夜に働けて、シフト制で、人と直接は接しないし、こちらから電話をかけなくていいからです(苦笑)」

「自分ができることを精一杯」

バイトを続けるうちに、ちょっとしたトラブルやクセのある人への耐性がついてきましたが、「安否確認の時はいまだに緊張します」と声を落とします。

安否確認とは、家族からの「部屋の明かりはついているのに、インターホンを押しても、ドアをノックしても反応がない」、まわりの住人からの「異臭がする」といった相談です。

「安否確認の電話が来たら、まずは住人の方に電話します。それに出てくれれば、『身内の方から連絡が来てるんで、お電話してあげてください』と伝えて終わりです」

「電話に出られない場合は身内の方に折り返して、警察に通報するようお願いします。こちらでは、鍵を壊す業者さんを手配して、部屋の前で落ち合ってもらいます。一刻を争う可能性がある場合は、身内の方の判断でレスキュー隊にも連絡してもらって、鍵を壊しても大丈夫なよう伝えます」

コールセンターの担当者たちが行うのはここまで。その後の経緯は、業者からの報告書で知るといいます。

「電話を切った後も内心ではドキドキですよね。報告書で安全が確認された場合は安心しますが、そうじゃない場合は……何とも言えません」

「ニュースで見る以上に、孤独死される方は多いんだって痛感します」=筆者撮影
「ニュースで見る以上に、孤独死される方は多いんだって痛感します」=筆者撮影

深夜勤務、シフト制、人と直接は接しない、こちらから電話をかけない。

条件面重視で選んだバイトですが、クセの強い人たちとの出会いや安否確認の連絡など、予想外の出来事と向き合ってきたばし太さん。身につけた耐性は芸人活動にも影響しています。

「芸人って変な人が多くて、対応の仕方に困る人もいるんですよね(苦笑)。でも、コールセンターのバイトをはじめてからは、そういう人に出会っても『この人を〝おいしく〟するには、どうしたらいいだろう?』ってすぐに切り替えれるようになったと思います」

「予想外のことって実際に起きるもんだし、それにいちいち慌てるんじゃなくて、次にどうしたらいいのかをちゃんと考えて行動しようって自然と思うようにもなりました」

バイトで学んだことを生かしながら、ピン芸人としての未来を見据えるばし太さん。

「ピン芸人は未知な世界ですし、大変さややりがいを知るのもこれからですが、焦りは1割。9割は、自分が今できることを精一杯やろうと思っています」

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