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NICUで聞いた「小さい服がない」18トリソミーの娘の経験を形に
2500g未満で生まれた赤ちゃん肌着事情は
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2500g未満で生まれた赤ちゃん肌着事情は
小さく生まれた赤ちゃんに、着せられる肌着がない――。親たちの「困りごと」をかたちにしたブランドの服がSNSで注目を集めています。2500g未満で生まれた赤ちゃんや、医療的ケアが必要な子どもの服もバラエティー豊富に提供しているアパレルブランド「アルトタスカル」。その背景には、ひとりのデザイナーの経験と思いがありました。
「アルトタスカル」は、アパレル企業のチルドレン通信(大阪府箕面市)が2021年からインターネット通販で展開する子ども服ブランドです。
前後裏表どちらから着てもいいTシャツやズボン「ぜんぶおもて」、めくれずおなかが出ない長めの肌着「おなかでぬ」、夜道で光に反射するジャケット「ひかるふく」などアイデア豊かな商品がそろいます。
このほか、2500g未満で生まれた低出生体重児向けの肌着「ちいさなふく」や、医療的ケアが必要な子どもへ向けた前開きの服「おしゃれバリアフリー」も販売し、SNSを中心に口コミが広がってきました。
「ちいさなふく」も「おしゃれバリアフリー」も、「ぜんぶおもて」などと比べてニーズは限られていますが、当事者にとっておしゃれを楽しめる貴重な子ども服です。これらの商品の開発には、「アルトタスカル」の担当デザイナー・林真奈さん(37)の経験が生かされています。
林さんの娘(6)は「18トリソミー」という染色体に関する病気で、鼻から胃に管を通して栄養を入れる「経管栄養」や呼吸器をつけるといった医療的ケアが必要です。重度の心身障害があり、現在は、週3、4日デイサービスに通っています。
娘は予定日を5日過ぎて生まれましたが、2042gの低出生体重児(2500g未満で生まれる赤ちゃん)でした。
妊娠中から赤ちゃんが小さめで羊水が多いという医師の指摘はありましたが、詳しい検査をすることなく「順調」な妊娠期間を過ごしていたといいます。
「体の弱い子と分かったのは産んだときです。経腟分娩でしたが出産の負担に耐えられず仮死状態で生まれ、産声も上げなかったので総合病院へ救急搬送されました」
転院先では1年後の生存率が低いことを告げられ、「夢ならいいのに、と思っていました。あまり当時の記憶がありません」と振り返ります。
その後、娘はNICU(新生児集中治療室)とGCU(回復治療室)で4カ月入院。体調が安定したため、家で家族と過ごせるようになりました。
日本で生まれる赤ちゃんの平均出生体重はおよそ3000g。売られている新生児の肌着サイズは、多くが50センチからです。
2000gほどで生まれた娘に必要なのは45センチの小さな肌着でしたが、探しても実店舗での販売はほとんどありませんでした。見つかっても、柄の選択肢はほとんどなかったといいます。
娘の入院中、NICUで出会ったのは、小さく生まれた赤ちゃんの親たちでした。林さんの出産はコロナ禍以前だったので、病院の休憩室や授乳室でたびたび顔を合わせ、仲良くなっていったといいます。
「娘より小さく生まれた子も多く、なかには600gで生まれた赤ちゃんもいました。『からだが小さすぎて服がない』といった日頃の悩みをよくしゃべっていました」
小さい肌着を見つけても、「1枚2000円近くして、何枚も買えない」という声もあったといいます。一般的な新生児用の肌着は1枚1000円前後で、5枚組で2500円といった商品もあります。「高くても買って着せているお母さんもいましたが、2、3枚が限度です」
それなら作ってみたらいいのでは、と考えた林さん。チルドレン通信の代表取締役・参鍋開人さんに「うちで作っている肌着を、小さいサイズも作ってはどうでしょうか」と提案したそうです。
参鍋さんは、「当時50センチの新生児肌着は作っていましたが、小さなサイズが必要な赤ちゃんについては全く知りませんでした。いまあるサイズからもう少し小さいサイズを作れば生地は同じでいける。困っている人がいるなら作りましょうと作ってみましたが、気がついたら売り切れていました」と振り返ります。
低出生体重児向けの肌着「ちいさなふく」(40~45センチ)が実現した後、林さんは娘の成長に伴って次の課題に気が付きました。
赤ちゃんは上下がつながっていて前開きの服が多いものの、幼児になると上下別々でかぶせたりはかせたりする服がほとんどになっていきます。
娘のように医療的ケアが必要だったり、うまく体を動かせなかったりする子どもにとって、前開きの服は着替えもおむつ替えといったケアもしやすいという利点があります。
「3、4歳で80、90センチの服がサイズアウトすると、寝たきりのままで着られる服がなかなかなくて困りました。医療的ケア児の親に聞いてみると、同じように困っているという声がありました」
「好きな服を買って着せているけど、前開きが便利だからお直しに出して前開きボタンをつけてもらっている」という声もあったそうです。
「前開きのかわいい服はインターネットで探しても、ベビー用品店に行ってもなかなか見つかりません。『ちいさなふく』と同じようにターゲット層が多いわけではありませんが、確実に困っている人がいます」と社内でプレゼンしたといいます。
そこから誕生したのが、「おしゃれバリアフリー」のシリーズです。前開きの肌着、Tシャツ、ズボンなど、日常で使えるデザイン性の高い商品がそろいます。
医療的ケア児向けの洋服にはキャラクターものがないという課題もありましたが、キャラクター会社と交渉して、2022年秋には「ハローキティ」や「ドラえもん」などの前開きトレーナー(80~130センチ)が登場しました。
SNSでは「凄(すご)い画期的な服」「もっと増やして欲しい」と多くの反響がありました。
林さんはわが子にかわいい服を着せられることについて、次のように話します。
「NICUで医療機器につながっている娘と面会している間、自分がしてあげられることが少ないと感じていました。抱っこもタイミングが限られていて、保育器に入っている娘を眺めるしかできません」
「そんななか、私は汚れた洗濯ものを洗えることがすごく幸せでした。この子のためにやってあげられることがあるんだと感じられました」
頑張っているわが子に、かわいい服を選んで、着せてあげたい――。そう思っていた林さん。同様に子どものために服を選んで着せてあげたいと思う親御さんも多いのでは、と感じていたといいます。
「かわいい服を着て過ごしている子どもをみると、親自身の気持ちも明るくなる。小さく生まれても、医療的ケアがあっても、好きな服を選んであげることができたらいいなと思います」
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