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貴重なカシミヤ大事にしたい 回収再生し「循環」目指す百年企業
着なくなったカシミヤ衣類を廃棄するのではなく、少しでも有効活用したい。そのために、消費者から不要になったカシミヤのニットやマフラーを回収し、新しいカシミヤ製品に生まれ変わらせる取り組みを始めた企業があります。手間もコストもかかる「循環型」プロジェクトに取り組むのはなぜでしょうか。理由を聞きました。
プロジェクトに取り組むのは、ハンカチやマフラーを製造販売する「川辺」(本社・東京)。1923年創業で、来年100周年を迎えます。もともとハンカチの製造卸としてスタートし、1990年代後半から本格的にカシミヤのマフラーやストールの製造販売を始めました。カシミヤ製品は国内で企画し、中国の協力工場で製造。全国の百貨店の服飾雑貨売り場で販売されています。
カシミヤの糸はカシミヤヤギの産毛から作られ、1頭からわずかしかとれない貴重な原料です。
ですが、同社のスカーフデザイナー・月原佐知子さんは「協力工場からは『地球温暖化の影響で質の良いカシミヤが手に入りづらくなった』と聞いています」と話します。寒暖差が大きいと良質な長い繊維になるそうですが、以前ほど寒くならず、繊維が長くならないそうです。
プロジェクトの狙いは、「貴重なカシミヤを大事に使い、資源として循環させる」こと。カシミヤ100%の製品を回収してカシミヤ糸として再生させ、カシミヤ100%の製品に生まれ変わらせることを目指します。
「私たち企業だけで取り組むよりも、消費者のみなさんに回収に協力してもらった方が、再生カシミヤを使った製品を手にとってもらったときに『循環型』をより実感してもらえる」と、商品企画担当のスカーフマネジャー・伊藤智美さんはいいます。
回収したカシミヤ製品は、裁断→裁断した製品をほぐす反毛加工→紡績という工程をたどって、新しい製品になります。
まず、回収したニットやストールを裁断機にかけやすい大きさに手作業でカット。そのあと、裁断機にかけて細かくします。
次に、「反毛機」という機械にかけてほぐし、繊維の状態に戻します。これで再生カシミヤの原毛のできあがりです。
再生カシミヤの原毛は繊維の長さが短く、それだけでは糸にすることができません。そのため、繊維が長いカシミヤの新毛を混ぜてから紡いでより合わせ、糸にします。この糸を使って、製品を作ります。
川辺では昨シーズン、生産過程で生じた出荷できない規格外品を使ってカシミヤの再生に取り組みました。たくさんの製品が混じる再生カシミヤの原毛の色はグレーになるため、経糸(たていと)に再生カシミヤ、緯糸(よこいと)に黄色やピンクに染めた新毛を使い、発色を工夫したといいます。
こうしてできた再生カシミヤを使ったマフラーとストールは、「フェリーチェ・レガーロ」というブランド名で販売を始めています。廃棄を減らすことなどが評価され、2022年度のグッドデザイン賞を受賞しました。
今シーズン回収した製品は、来年の秋以降、再生させて製品化することを目指しています。
現在、西武池袋本店2階の「シーズン雑貨&ギフト」売り場内にある、同社が運営するコーナー「ナチュラルベーシック メゾン」に回収箱を置いています。2月ごろまでの予定で、回収はカシミヤ100%の製品のみ。他社の製品でも受け付けています。
売り場担当者によると、商品を見に来た人が回収箱に気づき、「思い入れがあるので捨てにくいけれど、再生されて新しい製品になるのなら」と、ストールやニットを持ってきてくれるケースが多いそうです。
今後、関東にある同社の直営店「プレイヤーズ」でも回収を検討するとのこと。また、取引のある全国の百貨店店舗に、回収箱を置いてもらえるよう依頼しているそうです。
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