健康保険証を後回しにしたら…
子どもの名前を字で書くのは初めて。特に出生届については、夫婦で決めた漢字に間違いがないか、とても緊張しました。窓口の担当者さんも、人名漢字辞典を開きながら、一文字一文字、確認してくれます。
役所の違う部署に移動して、次は子ども医療費助成制度の申請。自分に子どもができるまでは、「赤ちゃんって医療費がかからないんだよな」程度の認識だったのですが、後に非常に助かる制度であることを痛感することになります。
自治体単位で行われる子どもの医療費助成は、現在、全国に広がり、多くの自治体で乳幼児の受診は無料(2割の自己負担金を自治体が肩代わり)。所得制限や対象年齢など細かなシステムは自治体によります。
例えば東京都中央区では、中央区民で国内の健康保険に加入している子どもについては、0歳から15歳までの保険診療費の自己負担分は基本的に無料。所得制限はありません。
【参考】子ども医療費助成 - 中央区
神奈川県横浜市では、医療費が一律無料なのは0歳児のみ。1歳から保護者の所得額によって助成の内容が変わり、小学校4年生以上は、所得制限額に達しない世帯も通院1回につき上限500円の一部負担金が生じます。
総じて、赤ちゃんの医療費助成を受けるためには、前述したマル乳医療証が必要です。そして、中央区にもあったように、健康保険加入者であることも、その条件の一つ。
つまり、自治体への手続きと並行して、保護者が会社員であれば、勤務先の健康保険組合で子どもの健康保険証を発行してもらわないといけません。
こちらも早めに対応しなければと思いつつ、入院中の妻子の見舞いと、退院後に取得する予定だった出産前後休暇に入る前の仕事の追い込みで手一杯に。
後回しにしていたところに起きたのが、退院するなり、子どもの吐き戻しに血が混じり、生後2週で近くのクリニックにかかるという出来事でした。
幸い、経過観察で事なきを得たものの、早速の受診でまだ子ども本人の健康保険証がありませんでした。医療証の申請時、出生直後の場合は、加入予定の健康保険証(親の健康保険証)でも手続きができたため、落とし穴になっていたのでした。
子ども本人の健康保険証がないため、医療証も使用できず、一時的に全額自己負担に。1回の診察で1万円弱の出費になりました。ただし、自治体により後から返金してもらえます。
【参考】子ども医療費助成の現金給付について - 中央区
また、これは少し後のことですが、里帰り期間中に子どもの定期接種のワクチン接種を受けたところ、自治体の公費負担の対象外に(これも自治体により手続きすれば返金してもらえます)。
【参考】里帰り先などで接種した予防接種費用の助成について - 中央区
我が家も返金を前提にしていたものの、ワクチン接種となると、数万円の出費になりました。こうして、子育てをサポートする制度の重要性を、あらためて実感したのでした。
さて、1カ月を過ぎるくらいの時期になると、出産関連の費用が出そろいます。ここで、世間を騒がせる「出産一時金」のニュースが、他人事でなく我が家に関わってきました。
出産費用をチェックすると
厚生労働省によると、任意のサービスを除いた出産費用(正常分娩のみ)の平均は2021年度で47万3000円。費用が抑えられている公的病院に限っても、45万5000円と、一時金を上回る結果でした。
これは、自然分娩の出産費用は公的医療保険の枠外であるため。出産はその意味において「病気ではない」ので、医療機関が自由に価格設定できる「自由診療」となっています。
ここで、帝王切開などの「異常分娩」は公的健康保険の対象。途中まで自然分娩の予定で経過したものの、いよいよというところで緊急帝王切開になった我が家のケースは、公的医療保険の対象。3割の自己負担額となります。
では、我が家の出産費用はというと……。結局、合計で約60万円でした(※)。これは、3割負担になるのが(緊急)帝王切開に関わる項目だけで、それ以外の、例えば検査や新生児の管理などについては、公的保険の対象外になるためです。
※母体・児により必要な処置が異なるので、金額も個人差がある。
ただし、緊急帝王切開分については高額療養費制度(※)の対象になるので、ここから一定額が差し引かれます。さらに、民間の医療保険に加入していれば、契約内容にあわせてそこからの保険金も。
※医療機関や薬局の窓口での支払額が、ひと月(月の初めから終わりまで)で上限額を超えた場合に、その超えた金額を支給する制度。上限額は、年齢や所得によって異なる。
【参考】高額療養費制度を利用される皆さまへ - 厚生労働省
結果的に、出産育児一時金と高額療養費制度の支給、民間の医療保険の保険金を差し引いてみたところ、トントンかややプラス程度で決着しました。
とはいえ、妻は予期せぬ緊急帝王切開で体に大きな負担がかかり、第二子以降をもし授かれたとして、その出産計画にも影響があります。
少なくとも、感じたことは、ドタバタし不安も多い出産の前後で、こうしたお金の計算はあまりしたくないな、ということでした。また、出産費用を計算すると、また別の出費も大きかったことがわかりました。
お金は常に出たり入ったり
我が家の場合、10カ月の妊娠期間の中で不調に見舞われ受診や検査をすることも多く、結局約10万円ほど自己負担で支払いました。出産費用がトントンになったとて、という印象は残ります。
ここからはもちろんオプションになりますが、ベビー用品をどこまで揃えるかという問題も。必要性が高いものの中では、例えばベビーカーの値段もピンキリ、抱っこ紐だってそれなりに高価です。
一方で、例えば東京都では、「出産応援事業・赤ちゃんファースト」に取り組んでいます。出産後3カ月以内を目安に10万円相当分の育児用品・子育て支援サービス等を提供するこの事業。3カ月とやや先であることを除けば、当事者としてはかなり助かるもの。
いずれ必要になるベビーグッズというのはだいたい見えているものなので、「あれは赤ちゃんファーストでもらうから、今のうちに親戚からのお祝いでこれを買っておこう」という判断もできるようになります。
私、妻それぞれの職場で、出産祝い金のような制度があるかどうかもチェック。あるものは粛々と申請していきます。ここまで振り返ってきたように、とにかくお金の出入りが多いもの。出納管理も大変です。
これまでこうした申請などの書類作業が苦手だったのですが、妊娠・出産のような一大事において、そうも言っていられません。公的な制度や民間の保険、働き先の福利厚生などをチェックしておかないと、大変なことになっていたかもしれないとヒヤリとしました。
【連載】親になる
人はいつ、どうやって“親になる”のでしょうか。育児をする中で起きる日々の出来事を、取材やデータを交えて、医療記者がつづります。