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ネットの話題

ラッコの新技が天才的! 「かわいい」だけじゃない飼育員の〝狙い〟

鳥羽水族館のラッコ・キラ。何かを見ています
鳥羽水族館のラッコ・キラ。何かを見ています 出典: 鳥羽水族館のツイッターより

目次

SNSでラッコの動画がたびたび話題になる鳥羽水族館(三重県鳥羽市)。現在日本の水族館で飼育されているラッコ3頭のうち、2頭を展示しています。

先日、メスのラッコ・キラ(14歳)の新技「キャッチ&ポイっ」を撮った動画がツイッターで話題になりました。新技獲得のためにどんな修業があったのでしょうか? 飼育スタッフに取材をすると、意外な事実が分かりました。

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器用な「キャッチ&ポイっ」

飼育スタッフが投げたおもちゃを上手にキャッチしてバケツにポイッ、キャッチできなかったものもポイッ、フェイントにも耐え、最後はハイタッチーー。

10月中旬、鳥羽水族館のツイッターにメスのラッコ・キラ(14歳)の新技「キャッチ&ポイっ」の動画が投稿されました。

飼育スタッフとの息の合った掛け合いに、「天才ですね」「信頼関係バッチリ」「見てるだけでも癒される」といったコメントが集まり、いいねは14万を超えています。

これだけの新技、習得にさぞ時間がかかったことでしょう。教える方も粘り強く特訓をしたに違いない。取材前の筆者は、勝手にそう思っていました。

「狙ってやったわけではないんです」

しかし、飼育スタッフの石原良浩さんに話を伺うと、「この完成形を狙ってやったわけではないんです」と意外な答えが返ってきました。

「それぞれの個体の体の動きを確認するために、いろいろなことを試しています」

鳥羽水族館で飼育するラッコは、キラとメイ(メス、18歳)の2頭です。1日3回ある「お食事タイム」では、貝や魚などのエサを食べる姿のほか、体を動かす様子を見られます。

キラの「キャッチ&ポイっ」もその一つ。ただ、これは「ショー」ではありません。

「立ったりジャンプをしたりいろんな動きをさせている中で、たまたま陸に上がったときにやってみたらできた」そうです。

石原さんが「キャッチ&ポイっ」で注目するのは、キラの動体視力や脚の動きです。

「投げたものを目で追えているか、受け取るときに左右の前脚が均等に出ているか、後ろ脚で二足立ちをする様子など、いろいろ確認ができます」

鳥羽水族館のラッコ・メイと飼育スタッフの石原良浩さん
鳥羽水族館のラッコ・メイと飼育スタッフの石原良浩さん 出典: 鳥羽水族館提供

自然界に比べ、変化のない水槽の中で暮らすラッコたち。どこかに不調があっても訴えてはくれないため、日々飼育スタッフが気を配ります。

「いろんな動きをさせてやらないと、関節の可動域が狭くなるなど様々なことが起こります。バリエーションをつけた動きをさせた方がチェックもできるし、体的にもいいのではないのかと考えています」

ちなみにもう1頭のメイは、高く跳ぶ「イカミミジャンプ」が得意だそうです。

興味を持ってもらった先に

鳥羽水族館では、積極的に2頭の様子をSNSで発信しています。

石原さんは、「ラッコは非常に頭がよく、柔軟な動きができる動物です。泳いでいる姿のほか、頭や体の柔軟性を見てもらい興味を持っていただくことが大切なのではないかと思います」と話します。

興味を持ってもらいたいと思う背景には、日本の水族館で見られるラッコが減っているという現状があります。

以前は各地の水族館で120頭以上のラッコが飼育されていましたが、現在日本の水族館で生存しているラッコは、鳥羽水族館とマリンワールド海の中道(福岡市)の2館で、計3頭です。

かつて日本は野生のラッコを輸入していましたが、アメリカの海洋哺乳類保護法により捕獲が禁止され、輸入が途絶えました。

日本の水族館ではラッコを繁殖して維持してきましたが、世代を重ねるうちに繁殖能力が下がってきたそうです。

現在、マリンワールド海の中道の1頭はオスで、鳥羽水族館のキラとともに繁殖可能な年齢です。しかし同じ両親から生まれたきょうだいで、交配はできないため、一緒に飼育していません。

「今すごく注目を集めていますが、急に3頭になったわけではありません。20年以上かけて少しずつ減ってきています。その間の注目度は低かったのだと思います」と石原さんは振り返ります。

興味を持ってもらった先には、行動が伴ってくると考えています。

「ここ10年来、北海道に野生のラッコが戻ってきていますので、保護していくためにはどうしたらいいのか、専門家だけではなく一般の方々も思いをはせてもらうと、環境破壊などへの影響も少なくなるのではないでしょうか」

「キャッチ&ポイっ」をするキラ
「キャッチ&ポイっ」をするキラ 出典:鳥羽水族館のツイッター

北海道で増える野生のラッコ

近年、北海道浜中町の霧多布(きりたっぷ)岬周辺では、野生のラッコが繁殖し、陸上から観察することができます。

調査のため北海道へ行くことのある石原さんは、「観察するときのマナーを守ったり、ゴミを持ち帰るなど現地をきれいに維持したり、野生のラッコを見に行く方の意識が高くなっている」と感じているそうです。

その野生のラッコがいずれ水族館で飼育されることになるのかというと、そう簡単な話ではありません。

ラッコは、カリフォルニアラッコ、アラスカラッコ、チシマラッコの3亜種がいますが、日本の水族館で飼育されているのはアラスカラッコです。

北海道の野生のラッコはチシマラッコのため、一緒に飼育はできないといいます。

「イカミミジャンプ」をするメイ
「イカミミジャンプ」をするメイ 出典: 鳥羽水族館提供

野生のラッコとの共生は

一時絶滅したと言われたラッコが再び増え始めたのはうれしい話ですが、ほかの動物に襲われたり、病気になったり、子どもが親とはぐれたりして、保護が必要なケースも考えられます。

しかし、日本でも野生のラッコを捕獲してはいけないという法律があり、治療が必要な場合でも簡単には保護できません。

野生のラッコのためにどんな対応ができるか、また、繁殖して数が増えた場合、漁業者とどう共生していけるかなど、北海道大学や京都大学と石原さんたち水族館が共同で調査しているそうです。

石原さんは「日本の水族館からラッコがいなくならないように、水族館側としても模索をしている状況です」と話します。

ラッコのかわいい姿を発信する裏にある、水族館のラッコをめぐる難しい現状。

しかし、「まずは、活動的ですごく元気にしているラッコたちを見て楽しんでいただきたいです」と石原さんは話します。

「私たちは日々試行錯誤し、体の状態を見ています。それを楽しい、かわいいと思ってくれるとうれしいです。その上で興味を持ったら調べていただいたり、ほかのラッコを見に行ったり、その先の一歩はみなさんがしたいと思ったときに行動していただければと思います」

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