連載
#12 #令和の専業主婦
「8年間バイトもしていない?」 専業主婦が指摘された〝空白〟
フルに戻る「そんな簡単じゃない」
パートナーの海外転勤を機に手放した正社員の職。現在49歳の女性は、専業主婦や、非正規雇用で働いた期間を経て、14年かけて再び正社員としての肩書を手にしました。その間、「好きで仕事をセーブしているんでしょ」と言われたことも。しかし、「そんな簡単なことじゃない」と言います。
大卒後に正社員として働き、30代になったころに夫の海外転勤が決まった。
結婚直後だったこともあり、夫と暮らすために仕事を辞め、専業主婦になった。
海外生活はアジアや北米で、およそ8年。その間に2人の子どもを出産した。
再就職活動は帰国後に始めたが、辛辣だった。
海外で暮らす前の正社員経験は10年近く。帰国直後のTOEICは800点ほどだった。
また、慣れない海外生活に苦労しながら子どもを育て、現地の学校運営補助にボランティアで携わるなど、貴重な経験もした。今でも現地の生活は後悔していない。
ただ履歴書の職歴は8年前の離職を最後に空白だった。
「8年間アルバイトもしていないんですか?」
ある大手派遣会社で派遣登録しようと申し込んだが、自分よりも若い女性の担当者にそう言われ、「紹介できる仕事はありません」と断られた。
「キャリアはあっさりゼロになりました」
子どもは保育園に入れず、地域の一時預かりサービスを使いながら、調査会社で結果をデータ入力するアルバイトから始めた。かつての正社員で働いた仕事の経験はあまり生かせなかった。
正社員の求人も探した。しかし、土日祝日が休みで、子どものお迎えに間に合うように定時で帰れることを条件にしていると、見つからなかった。
数カ月後、契約社員の別の仕事に転じたが、その1年後に再び夫の仕事の都合で辞めざるを得なかった。
引っ越し後、生活が落ち着いてから、再び事務作業のアルバイトについた。
夫の仕事は以前から忙しく、子どもが起きている時間に帰ることはほとんどなかったため、平日の家事や育児は自身で担わなければならなかった。家事代行サービスは自らの時給を上回るため、手が出しにくかった。
「自分の『アクセル』は、できる時に踏むしかない。当時は、私が調整弁でいようと考えていました」
新しい環境に移ることを前向きに考えたり、家族が離ればなれで暮らすことに抵抗があったりした一方、「自分軸ではない仕事選びで、リセット感は強かった」
自分がいずれ職を変えることを織り込んで、非正規雇用で働く日々が続いた。
夫の転勤に合わせて職を変えるという大変さに加え、子育てで時間の自由がきかないという不自由さも重なった。
子どもが成長しても、幼少期と比べて自由に仕事ができたわけではなかった。
小学生のころは日々、国語の音読や計算ドリルの丸付けなどの宿題のサポート、ノートや鉛筆の補充といった、「こまごまとしているけれどアナログなこと」が大変だった。
中学生になると、部活の朝練に送り出すために午前5時に起きて弁当を作ったり、夜は塾のお迎えに行ったりした。
しかし、周囲からは実情とは違う言葉をかけられた。
子どもが小学生だったころ、知人との何げない会話の流れで、「好きで仕事をセーブしているんでしょ」「子どもが大きくなったのだからフルタイムに戻したら」と言われた。
「そんな簡単なことじゃない」と思う。
その後も正社員の求人には繰り返し応募したが、すべて書類で落ちて、面接にはたどりつかなかった。
多くは即戦力が求められ、未経験者は敬遠された。正社員登用試験が年齢の条件で閉ざされたこともあった。
応募できそうな仕事があっても、やはり立ちはだかったのは長時間労働の壁だ。
「ある仕事は、求人内容を見る限り、週10時間の残業が前提でした」
独身だったころは終電近くまで働くことも珍しくなかったが、子育てをしながらいきなり「残業ありき」の環境に戻ることは現実的ではなかった。
時短勤務など、産休や育休を経ても仕事を続けるための環境は整いつつあると感じる。しかし一度離職した後にその環境を手に入れるのは、まだまだ難しい。
正社員として再び働くための入り口は「狭く、険しかった」。
その後、残業がないといった希望した条件に合う正規雇用の仕事が運良く見つかった。
30代でいったん仕事を辞めてから、14年が経っていた。
さらに数年後、働きやすい環境を求めて、正規雇用の仕事で転職もできた。
今の職場は、女性の比率が高く、子育てしながら管理職として活躍する人たちも多い。
残業はなく、休暇も取りやすい。仕事の「中抜け」もしやすく、オンライン会議に子どもが映り込んでもみんなで歓迎する。
男性の従業員も家事や育児をすることが当たり前の雰囲気で、それぞれが「お互い様」と思ってサポートしあっている。それでも仕事の成果はきっちり出すような組織だ。
しかし、自身が経験してきた過去の職場は、「24時間戦える人」を中心に設計されていた。
家事や育児を誰かに丸投げできる環境でない限り、「女性活躍」や「女性登用」と聞いても、ケアワークを抱える人たちが「私には無理」と思うのは身にしみて理解できる。
いったん離職してブランクがあり、仕事へ復帰しようと考える人にとっては、なおさら厳しい。
「たとえ一度離れたとしても、ライフステージに合わせてまた正社員に戻れるような環境が社会で増えればいいのに」と思うが、まだまだ道半ばに感じている。
子育てに限らず家族のケアのために定時帰りを意識したこともなく、自分も家族も健康で、仕事のブランクも無い。
「そんな『きれいな履歴書』の人ばかりが集まって、組織の意思決定をしていく環境は長時間労働の温床にもなって、生きづらいと思いませんか」
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