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「弁当は愛情の証し」って本当? 横浜市の給食議論で記者が思うこと

記者の子どもが遠足に持っていったお弁当。帰宅した子どもに言われたのは「一番おいしかったのは柿」でした……=2022年10月、筆者撮影
記者の子どもが遠足に持っていったお弁当。帰宅した子どもに言われたのは「一番おいしかったのは柿」でした……=2022年10月、筆者撮影

目次

あなたの自治体の中学校の昼食は、給食ですか?お弁当持参ですか? 横浜市では、給食は希望者が予約する「選択制」になっています。これを全員が給食を食べる「全員制」にしてはどうか――。そんな市の方針に議論がわき起こり、なかには「お弁当は親の愛情の証し」という声もあります。本当にそうなのでしょうか? 横浜市で育ち、いまは市内で子どもを育てる記者が、中学校給食について考えました。(朝日新聞横浜総局・小林直子)

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忙しい朝の弁当作り…できる?

記者には、保育園に通う5歳と2歳の子どもがいます。ふだんは保育園の給食を食べていますが、10月中旬、5歳の子どもの遠足があって、久しぶりにお弁当を作りました。

食物アレルギーがあり、慎重に進めた離乳食。そのせいか、アレルギーが改善したいまも食の好みがはっきりしています。納豆の「たれ」が変わると食べなかったり、カレーにいつもと違うルーを使うと手をつけなかったり……。

お弁当づくりも気を遣いました。前日までに食べたいものを聞き取って買い物を済ませ、炊飯器の予約をして当日朝を迎えます。

共働きの夫が卵焼きをつくるかたわら、私が豚肉のしょうが焼きをつくる。しかも、途中で起きてきた2歳の子ども(12キロ)を片手で抱っこしながら、調理したり、お弁当を詰めたりしなければなりませんでした。

「これ、保護者のみんな、毎朝できるの?」

そんな疑問がわきました。

「家庭弁当が基本」だった横浜市

横浜市では、かつて巨額の費用がかかるなどとして、中学校給食の導入に後ろ向きでした。

しかし、共働き世帯の増加にともなって、2016年度から、民間業者の調理・配達する予約型弁当「ハマ弁」を導入します。

とはいっても、このハマ弁にも「家庭の弁当には保護者の愛情がこもっている」と反発があったようで、紹介パンフレットには昼食は「家庭弁当が基本」と書かれていました。

「家庭弁当が基本」という位置づけではなくなり、2021年からは学校給食法に基づいた現在の給食が始まりますが、希望者が注文する選択制のまま。委託業者が調理して、1人分ずつ容器に詰めて各学校に配送するデリバリー方式を採用しています。

横浜市の中学校給食のパンフレットと献立表=筆者撮影
横浜市の中学校給食のパンフレットと献立表=筆者撮影 出典: 朝日新聞

「保護者が子どもの弁当も作らないなんて」

横浜市教育委員会が、全145校を対象に生徒と保護者に実施したアンケートでは、生徒が給食を利用した理由は「家庭弁当を作る負担を減らしたいから」が62%と最多でした。

就任1年を迎えた横浜市の山中竹春市長は今年8月、中期計画の素案を発表。そのなかで2025年度までにデリバリー方式の給食の供給力をアップして全員が食べられるようにし、2026年度以降には「全員制」とする方針を示しました。

中期計画は12月の横浜市議会で本格的に審議される予定で、給食に関しては市議の間でも様々な意見があります。なかには、

「子どもたちは本当は家庭弁当を望んでいるのに、親に気をつかっているのでは」
「保護者が自分の子どもの弁当も作らないなんて」

といった意見もありました。

文部科学省の直近の調査(2018年5月時点)では、公立中学校の完全給食の実施率は全国で86.6%です。

東京都99.3%、千葉県100%と9割を超えるところが多数を占めますが、横浜市を含む神奈川県は44.5%と47都道府県で最も低い実施率でした。

コンビニ袋を下げた同級生

取材を通して、筆者は、自身の中学時代の経験を思い出しました。

横浜市の中学に通っていて、当時は「ハマ弁」すらなく、母が作る弁当を毎日、当たり前のように持っていっていました。思春期だったので「またこのおかず?」と文句すら言っていました。

ある日、同級生がコンビニの袋を下げて登校してきました。翌日もその翌日も――。

聞けば、登校中に昼食を買いにコンビニに寄っているとのこと。私の通学路にはコンビニがなく、なんだか大人みたいでその同級生がかっこよく見えました。「私もたまにはコンビニのパンとかを食べたいな」とも感じました。

しかし、ほどなく同級生は家庭の事情で、保護者が弁当を作れなくなっていたのだと分かったのです。

家庭環境が分かってしまう昼食時間

ほかにも、先生と一緒に仕出し弁当を注文している子もいました。ほとんどの子が家から弁当を持参していて、コンビニや仕出し弁当はごく少数でした。

つまり、昼食の時間に、弁当の内容で家庭の状況がつまびらかに分かってしまう状態だったのです。

報道向け試食会で提供された横浜市の中学校給食。この日のメニューは、「ハニージンジャーポーク」「ひじきたっぷりきのこチーズオムレツ」など=2022年1月21日、松沢奈々子撮影
報道向け試食会で提供された横浜市の中学校給食。この日のメニューは、「ハニージンジャーポーク」「ひじきたっぷりきのこチーズオムレツ」など=2022年1月21日、松沢奈々子撮影 出典: 朝日新聞

そんな状況から、私は「中学でも小学校みたいに給食がいいな」と感じるようになりました。自分だったら、昼食から家庭の状況を関係のない人にまで知られるのは嫌だなと考えたのです。

家庭の事情はさまざまです。知人には「ひとり親家庭で育ち、中学時代はおばあちゃんが毎朝弁当を作ってくれた」という人もいました。

家庭環境が知られてしまうことを気にせずに、友達と同じものを食べられることは、子どもたちの心の成長と安定にプラスになるのではないでしょうか。

栄養的に「完敗」の弁当

いま横浜市の選択制の給食の利用率は30%前後です。給食が「少数派」だけに、弁当を持参している生徒の中にも無理をしている家庭があるのではないかと心配になります。

私自身、お弁当をつくると「子どもに何かしてあげられた」と充実感をおぼえますが、これを毎日やるのは本当にエネルギーが必要だと思います。まして、キャラ弁や栄養価まで考えたお弁当を作っている人は尊敬しかありません。

取材を通して中学校の給食を試食しましたが、成長期の子どものため、栄養士が栄養バランスや塩分量まで練ったメニューで、我が家の弁当は栄養的に「完敗」でした。

市教委の調査によると、全員が給食を食べられるようにするには、委託業者が作った給食を配送する現在の「デリバリー方式」が最も実現性が高いとしています。小学校給食のように自校で調理した給食を求める声もあり、実施の方式についてはさらに議論を尽くすべきでしょう。

また、仮にデリバリー方式で「全員制」にしたとしても、アレルギーのある子や、食べる量の多い子が食べ物を持参することを容認するなど、柔軟性はあっていいと思います。生徒が「おいしい」と感じられる給食にするため、あたたかいものを食べられるような配膳方法の改善も必要だと感じました。

報道向け試食会で提供された横浜市の中学校給食。この日のメニューは、「ベイスターズ星青寮カレー」「鶏肉と野菜のソテー」などだった=2022年9月、土居恭子撮影
報道向け試食会で提供された横浜市の中学校給食。この日のメニューは、「ベイスターズ星青寮カレー」「鶏肉と野菜のソテー」などだった=2022年9月、土居恭子撮影

「みんなで食べる」安心感も

この横浜市の給食問題で、記者は三つの論点があると感じました。ひとつは、昼食に「家庭弁当」があるかどうかで、親の愛情をはかることはそぐわないのではないか、という点です。

また、昼食で家庭状況がつまびらかになってしまうことも問題だと思います。

子どもへの愛情があっても、仕事が忙しかったり、不規則な勤務形態だったりして、作るのが難しい親もいます。そういった理由で給食を選ぶケースが「少数派」で、もし子どもたちが居心地の悪い思いをしていたとしたら……と心配になります。

最後に、給食には栄養バランスの配慮としてもメリットがあるという点です。

偏食のわが子も「保育園の給食なら食べられる」というケースがあり、わずかではありますが、食べられるおかずが増えました。「みんなと一緒」は、子どもにとって安心感が生まれたり、連帯感が生まれたりするきっかけでもあります。

弁当を作ることができない親の子どもも含めて、社会全体で支えていく。それが給食の本来の目的ではないでしょうか。横浜市の給食の「選択制」「全員制」を考える時、記者はそこを見失ってはいけないと思っています。

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