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広告賞受賞、マンガ商業出版 芸人が進出して感じた「代え難い強み」

お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん
お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん 出典: 朝日新聞社

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「何かを始めることって何歳からでも遅くない」――そう笑うのは、お笑いトリオ「グランジ」のメンバーである五明拓弥さんだ。芸人としての仕事の傍ら、ラジオCMをはじめとした広告制作に携わり、今年8月にはマンガ家として商業出版デビューした。

今や芸人が別ジャンルに進出して活動をすることは珍しくない。そんな中で五明さんは、「トリオの活動は3人が気が向いたときにやればいい」と言う。五明さんに「芸人以外の仕事」へのスタンスを聞くと、逆説的に、「芸人の強み」が浮き彫りになった。(ライター・我妻弘崇)
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トリオとしては目立っていない

お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん
お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん 出典: 朝日新聞社
お笑いトリオ「グランジ」は、2005年に、遠山大輔、五明拓弥、佐藤大によって結成された。トリオとしての芸歴は今年で17年。お笑いに明るくなければ、「知らない」と答える人も少なくないだろう。

「最近、テレビに出たのは、(椿鬼)奴さんのバーターで出演した『有吉の壁』(2021年12月放送)。その前は……記憶にないです」

そう五明さんは自嘲するが、このトリオ、一人ひとりはとても「個」が立っているから面白い。

遠山大輔は、月曜から金曜の人気ラジオ帯番組『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)の校長(メインパーソナリティ)を2010年から20年まで担当した、ラジオ界では知られた存在だ。矢沢永吉や長渕剛、椎名林檎といった大物アーティストとトークを展開してきた。

佐藤大は、前述の椿鬼奴を妻に持つ「ギャンブルと妻を愛するクズ芸人」として異才を放つ。そして五明さんは、広告界の芥川賞・直木賞とも言われるTCC新人賞を受賞しコピープランナー/CMプランナーとしても活躍している。

ところが、三人寄れば文殊の知恵――とはならず、彼らの場合、三人寄るとかえって解像度が低くなるから、珍しいトリオと言わざるを得ない。

「僕らがトリオとして目立ったのは、2013年に発売されたDVD『グランジ BEST NETA LIVE』を半年以内に1万枚以上、売らなければ、よしもとから解雇されると大々的に発表されたとき。自分で言うのもなんですけど、賞レースでも結果を残していないので、トリオとしては目立っていないと思う」(五明さん、以下同)

現状、メンバーが揃っての活動は少なく、個々の活動がメインになっている。しかし、そのことについては「それはそれでいいかなと」とあっさり話す。「3人が揃ってやりたいと思うときにやればいい」と、ドライな視点が印象的だ。

「同じ芸歴のトリオがいたとしたら、3人で過ごした時間は圧倒的に少ないと思います。トリオになって数年後に、遠山が帯の『SCHOOL OF LOCK!』のレギュラーに抜擢された。平日の夜に舞台があっても、僕と大だけになりますから」

答えづらいことを承知で、「同じトリオ。“置いていかれる”といった焦りはなかったのか?」と尋ねてみた。五明さんはこともなげに「遠山がレギュラーに決まったことを、僕らは知らされていなかったんですよ」と明かす。

「スケジュールを見て『え? 決まったんだ。そっか』という感じ。複雑というか、どうやって食っていこうかなっていう思いでしたね」

結果的に、トリオとしての仕事への向き合い方は変わることになる。

「芸人の“ネタ”って何だろう、どう練り上げていこうと考えると、誰かが引っ張るだけではダメだと思うんですよね。特に賞レースは、トリオだったら3人、コンビだったら2人が同じ方向を向いてないと、絶対に結果を残せない。そう考えると、僕らはそれぞれ違う方向を向いているなって思うこともあります」

芸人脳は他ジャンルでも応用できる

実際、コンビ、トリオとして売れるケースもあれば、一人だけパッとスポットライトを浴びるケースもある。一人だけ露出が増えることで、“コンビ間格差”なる言葉まで生まれた。

最近でも「漢字の覚え方」のYouTube動画がバズり、オジンオズボーンの篠宮暁が注目された。篠宮は漢字ドリルを出版し、メディアに登場することが増えた。一方の相方・高松新一は「篠宮がピンネタに時間を取られていること」などを理由に年内でコンビを解散すること、芸人を引退することを発表した。

グランジも、トリオとして過ごす時間が短かったこともあり、今でも3人揃った仕事をすると、「仕事に対する考え方がそれぞれ違うときがある」と五明さん。

「当時は僕らはライブしか仕事がない状況でしたから、なおさらフラストレーションもありました。でも、今思うと、遠山がラジオをやってくれたおかげで、僕のラジオCMの仕事につながったりもしている。トータルで考えると、プラマイゼロじゃないけどOKだなと(笑)」

五明さんが広告制作に携わったきっかけは、あるラジオCMだった。

「ACCという広告賞があるんですけど、そのラジオCM部門の審査員を遠山がやっていたんですよ。その縁で、遠山にラジオCMを作ってみないかというお誘いがあって、遠山が『だったら五明もネタを書いているので、彼を誘ってもいいですか』と声をかけてくれた。ホント、偶然なんです」

些細なきっかけだった。だが、初めて挑んだラジオCMは、2016年度TCC新人賞に輝いた。その後も、第45回フジサンケイグループ広告大賞・メディア部門ラジオ最優秀賞、第11回ニッポン放送CMグランプリなどを手中に収めていく。現在、ラジオCM界における、五明さんのプレゼンスは高い。

2018年には、売れっ子コピーライター・CMプランナーとの対話集『全米は、泣かない。』(あさ出版)を上梓するまでになる。

「表現の仕方は違うけど、考えるという意味では、(広告制作は)コントと何も変わらない」と五明さん。そして、「トリオの仕事がないときでしたから、表現をアウトプットできる機会に巡り合えたことや、それを評価してもらえることは純粋にうれしかった」と感謝する。

「18歳でNSCに入って、今の僕の脳味噌は、すべて芸人になってから作られました。モノを作る楽しさ、それを披露する楽しさを知ったのも、この世界に入ってから。なので、芸人脳は他ジャンルでも応用できるのでは、と思っています」

生きていれば、誰かのまぶしい姿を袖から眺める機会は一度や二度ではないはずだ。芸人は特に「売れる」「売れない」が見えやすい世界。フラストレーションをそのまま溜め込むか、溜まっているものを吐き出し、どんな形であれ表現してみるか、その差は大きいことがうかがえる。

「コント」と「マンガ」の作り方

お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん
お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん 出典: 朝日新聞社
一方で、五明さんには「一人で何かを生み出せることをしないといけない」という思いがあった。それはCM制作とも、また異なると話す。

「ラジオCMはそれはそれでめちゃくちゃ楽しいんですよ。でも、CMって流れる期間が決まっているので、半年、1年で消えてしまう。そこにちょっと寂しさがあって、一人でずっと残るものを作れないかなって。あと、ゼロからイチを作れて、すべて自分で完結できるもの。それがマンガを描くということでした」

五明さんは、友人のマンガ家・山本さほさんの勧めもあり、同じく友人のアーティスト・imaiさんとともに体験した免許合宿を、『39歳の免許合宿~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~ 』と題して、Twitterで公開する。

五明さんはマンガについてはまったくの素人だった。コロナ禍で芸人としての仕事が激減し、描き始めた絵。じわじわとファンを拡大した同作は、その後、同人誌即売会「コミティア」での販売とオンライン販売を経て、ついにはワニブックスからメジャー版がリリースされるまでに成長した。

参考:『39歳の免許合宿 ~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~』

とはいえ、長年やってきた芸人の仕事とは違う、どう着地するかもわからないジャンルだ。五明さんはマンガを描こうというモチベーションを、どうして保ち続けることができたのだろう。そう尋ねると「描かなきゃいけないと思ったからです」という、シンプルな答えが返ってきた。

「やってみるとわかる発見って、やってみないとわからない。当たり前の話なんですけど。例えば、何もない白いコマに、線を一本引いたら空間になる。それに気が付いたとき、『すげえな』って思ったんですよ(笑)。

芸人が舞台でコントをしているときって、僕らは基本的に正面しか見せることができないじゃないですか。でも、マンガは、360度どの視点からでもその舞台を描くことができる。自分で作ることができる面白さにハッとしたんです」

だからこそ、「ストーリーは自分(てめぇ)で創れ――なんですよ」と劇中に登場する、屈指の名言を持ち出して、笑いながら伝える。

「トリオの仕事が少ないとか、コロナ禍とか、制限がある中でも、できることってあるじゃないですか。それを行動に起こすか、起こさないか。起こしてみると、そこに青春があった(笑)。だから、何歳になっても青春はあると思います」

グランジが解散しない理由

お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん
お笑いトリオ「グランジ」のメンバー・五明拓弥さん 出典: 朝日新聞社
お笑いトリオ「グランジ」の中で、もっとも存在感が薄かっただろう男は、自分(てめぇ)で ストーリーを創り、マンガ家“ごめたん”という新しい扉をこじ開けた。

「遠山は音楽に詳しく大物ミュージシャンとも交流の深い“校長”というイメージがある。大は“奴さんの夫でギャンブル好きのクズ人間”というイメージを確立している。でも、僕にはない。芸歴20年になりますけど、ようやくマンガ家“ごめたん”というイメージが作れるのかなって。長かったなぁ(苦笑)」

新しく“違う何か”をやってみたことで、物事が好転することだってあるだろう。筆者は過去に、平成ノブシコブシ・徳井健太さんに「芸人の『芸人以外の仕事』」について話を聞いた。その際、彼が口にしていたのは、次のようなことだった。

<俺たちより上の世代までは、やっぱりボケてナンボっていう感覚が強かった。だから、芸人が本気で歌を歌う、本気で絵を描くなんてことは、サブい(=面白くない)こととして認識されていた。俺たちも、『サブい』って言われたくないから、面白いことをしなければという強迫観念みたいなものがあったように思いますよ>

だが、YouTube然り、芸人がさまざまな分野に進出することは、「サブい」ことではなくなった。

ある種の呪縛から解放されたことで、徳井さんは「やりたいことをやってもいいんだから、結果的に副業的なことをする芸人は増えるでしょうね。面白そうとか、興味があるからやってみるくらいのほうがいいのかもしれない」と考察していた。

五明さんもまた、他ジャンルでの活躍の原初にあるのは、「面白そう」という好奇心だと語る。

「『面白そう』だと思うことはやったほうがいいだろうし、僕も実践しています。『始めたことをすぐに止めるのは悪』みたいな風潮がありますが、僕は思っていたのと違ったらすぐに止めて違う『面白そう』を探します。

大人になり経験を積むと『面白そう』の先にあるゴールを考えてしまいがちですが、まずは『面白そう』と思えること自体が実は貴重なことだと思うんです」

また、芸人の道をひたすらに歩み続けることで、かえって「『おもろいボケ』を突き詰めるあまり、自分の武器を出すことができずに辞めていった人ってたくさんいると思います」とも付言する。五明さんは、寄り道をしたことで、「芸人の強み」をあらためて感じるという。

「例えば会社員の方がマンガを描くことはできますし、成功している人もたくさんいる。でも、ネタはできない。ネタは芸人しかできないんですよね。YouTuberもネタはできない。できたとしてもきっと面白くない。逆に、ネタができるというのは、広告にもマンガにも生きます。やればやるほど芸人の強みを感じます」

「芸人以外の仕事」をすることで、逆説的に芸人の強みが見える――だからグランジは解散せずに、「気が向いたときに3人でやればいい」というスタンスを取っている。

広告やマンガのような「新たな柱」が生まれることで、よりトリオとして強固になる可能性が生まれる。3人それぞれにキャラクターが成立したこれからのグランジは、「かなり強い」という未来が予測できそうだ。
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