「ペッパーくん」の10年前に登場

富士通が開発したヒト型ロボット「enon(エノン)」が1日、千葉県八千代市のイオン八千代緑が丘ショッピングセンターで25日間の「パート勤務」を始めた。(中略)高さ130センチで「いらっしゃいませ」とあいさつしたり、胴体部分の液晶モニターと音声でトイレや喫煙場所を案内したりする。商品を運んだり、ゴミを捨てたりできるかどうかも試す。富士通は1体約600万円で売り出している。
富士通フロンテック株式会社と株式会社富士通研究所が17年前の2005年に発表した、このヒト型サービスロボット「enon」。丸い頭、胴体に内蔵されたモニタは、いかにもロボット然とした見た目です。
サービスを目的としたヒト型ロボットには、他にソフトバンクの「Pepper(ペッパーくん)」がありますが、その誕生は2014年6月。それよりも約10年前の製品でした。
当時のリリースによると、「搬送用ロボット、清掃用ロボット、監視用ロボットなどの専用のロボットとは異なり、一台で案内・誘導、搬送、巡回・見回りなどの多様な活動ができる先進的なロボット」だったそうです。
自律走行や最大10kgまでの荷物の搬送、片腕で0.5kgまでつかんだり手渡したりすることができるハンドリング、胸部のタッチパネルつき液晶モニタ、顔部の目と口に配置したLEDによる表情の変化など、現在も時折、商業施設などで見かけるヒト型サービスロボットと遜色ない機能が搭載されていました。
日本ロボット学会誌24巻3号「サービスロボット『enon』の開発」(2006)によれば、少子高齢化による将来の労働力不足を補うため、さまざまなサービス業務を代行する目的で開発されたということ。
「enon」とは、an exciting nova on network(ネットワークの躍動的な新星)の頭文字をとったもの。今ではIoTという言葉も浸透しましたが、当時は「ネットワークと連携する」こと自体が、商品の大きな売りになっていたことがうかがえます。
一方、その値段は参考価格で1体約600万円とかなり高価だったようです。その後、enonの販売は人知れず終了となりました。似たコンセプトの三菱重工の家庭用ロボット「wakamaru(ワカマル)」も、同様に普及はしていません。
21年には、pepperがその前年から生産を一時的に中止していることがわかり、大きなニュースになりました。
このように、汎用的なサービスに対応するヒト型ロボットの普及は、この20年の経緯からみると、まだ遠いということがわかります。「接客」のような複雑な仕事は、今しばらく人間のもののようです。
ただし、この間に例えば「掃除ロボット」はすでに普及し、またコロナ禍においては外食産業やカラオケなどにおいて、「配膳ロボット」の導入がなされています。
「enon」が目指したところとは異なりますが、こうした「専用のロボット」により、人間の負担が減り、人間にしかできない仕事に集中できる、というのが、現時点での方向性になることでしょう。

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