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#145 ○○の世論

「所得倍増計画」掲げたあのとき…岸田首相〝令和版〟への期待感は?

決め手になる「物価高」の対応

昨年9月に「令和版 所得倍増」案を打ち出した際の岸田文雄首相。当時は自民党総裁選挙に出馬表明しており、前政調会長=2021年9月8日、国会内、上田幸一撮影
昨年9月に「令和版 所得倍増」案を打ち出した際の岸田文雄首相。当時は自民党総裁選挙に出馬表明しており、前政調会長=2021年9月8日、国会内、上田幸一撮影 出典: 朝日新聞

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「楽にならぬ生活 収入はふえてはいるが 物価に不安抱く」。世論調査の結果を報じる朝日新聞の紙面に、こんな見出しが並びました。いえ、最近のことではありません。1961年夏、ときの首相は池田勇人。自民党の派閥「宏池会」を旗揚げし、「所得倍増計画」を打ち出しました。宏池会出身としては、30年ぶりの首相となった岸田文雄首相も、いったんは「令和版所得倍増計画」を掲げましたが、その経済政策への見方は最近かなり厳しくなっています。(朝日新聞記者・磯田和昭)

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岸田首相、経済政策への期待感低下

岸田首相は昨年秋の自民党総裁選で、「中間層の拡大に向けて分配機能を強化し、所得を広げる。令和版の所得倍増をめざす」とぶち上げていました。

ですが、首相の経済政策への期待感は、朝日新聞の世論調査(電話)で、昨年10月の内閣発足直後の42%から、今年10月には25%にまで落ち込みました。

とりわけ、若い世代で期待感の落ち込みが目立ちます。「期待できる」という割合のこの間の変化を見ると、18~29歳では、55%あったのが35%に激減。30代でも48%あったのが23%へとほぼ半減しました。

 

政権の足元でも経済政策への期待感はそれほど高くありません。「期待できない」という人は、自民支持層で52%にのぼり、内閣支持層でも43%と、一定程度います。

「倍増」の本家本元 実は厳しい視線

では、「倍増」という耳あたりのいいキャッチフレーズの本家本元・池田内閣では、経済政策は世論にどう見られていたのでしょうか。

所得倍増計画を閣議決定したのは1960年12月。翌年3月の朝日新聞社の世論調査(面接)では、池田内閣が「10年後に所得を倍増させるという経済政策」を実行していると思うかどうか質問しています。

結果は「実行している」が25%、「実行していない」が34%で、「その他の答え」と「答えない」が合わせて41%もいました。このころはまだ、計画の先行きに判断がつきかねる様子がうかがえます。

参議院予算委員会で激しい論戦をする池田勇人首相(左上)=1962年3月、参議院
参議院予算委員会で激しい論戦をする池田勇人首相(左上)=1962年3月、参議院 出典: 朝日新聞

内閣発足から1年たった1961年8月の調査(面接)では、前年の同じころと比べ、収入の変化を聞いています。「ふえている」という回答は38%で、「へっている」が12%。「変わらない」が46%となっています。

「ふえている」は「給料生活者」で目立って多く、64%に達しています。一方、同じ調査で、前年からの暮らし向きの変化を尋ねると、「楽になった」は14%と少なく、「苦しくなった」の方が31%と多くなっています。「変わらない」は53%いました。

この年の消費者物価の上昇率は5.3%。収入が「ふえている」と答えた人がそれなりにいる割には、暮らし向きが楽になったという人が少ない背景には、物価高もあったようです。

翌62年8月の調査(面接)では、池田内閣にやってほしい政策をたずねていて、「物価の安定」が21%と、「所得倍増の実現」(6%)よりかなり多くなっています。

 

内閣の政治のやり方で「よくない」点を複数回答で挙げてもらうと、「所得倍増政策は失敗で物価が上がった」というのが32%と目立って多い結果でした。

決め手は物価高への対応

結局、物価が上がっているときには、それへの対応が経済政策の評価自体を左右する様子は、いまも昔も変わっていないようです。

岸田首相の物価高への対応を評価するかどうか、10月の世論調査で聞くと、「評価しない」が71%に達し、「評価する」はわずか19%でした。

「評価しない」という人の中では、首相の経済政策に「期待できない」という割合が80%にのぼりました。

 

首相は、物価高対策や賃上げを柱にすえた「総合経済対策」で反転攻勢をかけたいところでしょうが、うまくいくかどうか。

高度経済成長が、4年あまり続いた池田政権を支えたのと打って変わって、物価高で実質賃金が目減りするような低成長時代は、首相にとって、いかんともしがたい環境です。

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