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情熱がギチギチに詰まってる!「87字印鑑」が魅せる超絶技巧に驚嘆
「脱はんこ」の時代に職人が示した意地
私たちの生活に身近な印鑑。その製作を担う職人たちが、技術の粋を集めて生み出した、とある逸品が話題を呼んでいます。小さな丸枠内に、めいっぱい文字を詰め込んだ特別仕様で、人々を驚かせているのです。生産元企業の関係者に話を聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)
好評を博しているのは、松江市に本社を構える永江印祥堂の印鑑です。
1円玉よりも小さい、直径1.2センチほどの丸枠。その内側に、9行の文章がひしめくようにして、ぎっちりと詰まっています。内容はこんな具合です。
永江印祥堂は1970年に創業し、一貫して印鑑生産を続けています。既存の書体を印章向けに改良した独自書体「永江文字」の開発など、ユニークな取り組みで名を馳(は)せてきました。
同社の担当者によれば、「87文字印鑑」も、そうした施策の延長線上に誕生したといいます。印材に地元・島根県名産の「神楽ひのき」を用いた特注品です。
いわく、印面上の文字の幅は1ミリにも満ちません。機械を使い、太さが異なる複数の針で彫り込まれました。文字データの配列や印刻を専門とする6人の職人たちが、その力を結集したのだそうです。
「『ここに文字を置いてしまうと飛ぶ(押印した際に潰れる)よね』などと、職人同士で話し合いながら、文章の配置や行間の空け方を考えました」。担当者が、作業の様子について振り返ります。
同社がツイッター上で投稿した印鑑の写真には、18日現在で22万超の「いいね」がつき、4万回以上リツイートされています。これだけの反響があるとは、全く予想していなかったと、担当者は驚きました。
「元々、弊社のスキルを周知する目的で印鑑を作りました。そのため一点物となる予定だったのです。しかし盛況ぶりを受けて、リツイートが3万3千回を超えたのを機に、記念品として33本限定で販売することにしました」
一本5500円(税込)で売り出すと多くの注文が舞い込んだといいます。ちなみに今回の製品は杉の端材を用いた「グリーン印鑑」と呼ばれるもの。圧密加工という特殊製法で木質の柔らかさを克服しており、高い技術力にも注目が集まりそうです。
近年、デジタル化の進展により、「脱はんこ」の流れが加速しています。事業縮小や廃業の憂き目を見る印鑑事業者も少なくありません。苦しい時代だからこそ、自社の存在意義を積極的に示していきたい。担当者は、そう語りました。
「新型コロナウイルス流行に伴う『巣ごもり需要』で、宅配物などの受け取り用に認め印のニーズが高まるといった、明るい話題もあります。世の中に必要とされる限り、これからも印鑑を作り続けていきたいですね」
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