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ビスブラ優勝の理由 「キングオブコント2022」見えた審査の基準

ytv漫才新人賞を受賞したビスケットブラザーズのきん(左)と原田泰雅=2020年8月2日、大阪市中央区
ytv漫才新人賞を受賞したビスケットブラザーズのきん(左)と原田泰雅=2020年8月2日、大阪市中央区 出典: 朝日新聞社

目次

今年も熱戦が繰り広げられた、コント日本一を決める大会『キングオブコント2022』(放送はTBS系)。優勝したビスケットブラザーズは、そのほかの組と何が違ったのだろうか。2つのコントジャンルの対比、シチュエーションコントに対する審査の違い、演劇とお笑いで異なる「暗転」「繰り返し」への見方についてなど、優劣の基準となった部分を中心に今大会の特色を考える。(ライター・鈴木旭)
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独自の世界観が目立った大会

10月8日に放送された『キングオブコント2022』(TBS系)で、ビスケットブラザーズが15代目王者となった。ファーストステージとファイナルステージで合計963点を叩き出し、昨年から歴代最高得点を3点更新しての優勝である。

とはいえ、そのほかの決勝組も軒並みウケは良いように見えた。では、どのあたりで評価が分かれたのだろうか。今大会の特色を踏まえて考えてみたい。

決勝メンバーは、ニッポンの社長、かが屋、ネルソンズ、ビスケットブラザーズ、ロングコートダディ、最高の人間、いぬ、クロコップ、コットン、や団の10組。いずれも得意とするスタイルが異なり、個性豊かな面々だった。

その中で、あえて分類するなら、「日常的なシチュエーションで笑わせるコント」と「非日常的な世界観で笑わせるコント」の大きく2つのグループに分けられるだろう。前者はかが屋、ネルソンズ、コットン、や団。後者は、ニッポンの社長、ロングコートダディ、ビスケットブラザーズ、最高の人間、いぬ、クロコップだ。

この対比と審査員の評価ポイントが、今大会の流れを大きく左右したと考えられる。

や団、コットンで見えた審査基準

お笑いトリオ・東京03の(左から)豊本明長、飯塚悟志、角田晃広=2016年7月22日撮影
お笑いトリオ・東京03の(左から)豊本明長、飯塚悟志、角田晃広=2016年7月22日撮影 出典: 朝日新聞社
まずは、「日常的なシチュエーションで笑わせるコント」組に対する審査員の評価を振り返ってみたい。例えば、「や団」の1本目のネタに対する東京03・飯塚悟志のコメントが印象深かった。

「リアリティーがどっかにコントってないといけないと思うんですけど、死体処理のリアリティーが半端なくて。それで笑わすっていうのはすごいと思いましたね」

バーベキューにきた友人3人の日常が、行き過ぎた“死体どっきり”を境に狂気じみた方向へと進んでいく。スウェットのフードを被って煙草をくわえたロングサイズ伊藤がブルーシートを広げながら鼻歌を歌うシーンは、セリフにもあった通りアメリカのシリアルキラーが死体処理の準備をしているようでリアリティーがあった。

ファイナルステージへと進んだ、や団の2本目のネタ「雨」でも、飯塚は「僕は今日一番面白かった」「気象予報士が予報を外して責められるっていうのは、思いついたとしても1本あれを仕上げるのはなかなか至難の業だと思う」と高く評価した。

また、続いてファイナルステージに登場し、「喫煙者女性とのお見合い」のネタを披露したコットンと比べて「や団は、もうオリジナルストーリーに僕は見えたんですね。で、(筆者注:コットンは)すごく面白かったんですけど、やっぱりこう何かのラブストーリーを踏襲しているように見えた」とコメント。ダウンタウン・松本人志も「ここは飯塚と一緒です」と、おおむね同じ評価を下した。

これに対して、コットンのネタに軍配を上げたのが、かまいたち・山内健司、ロバート・秋山竜次、バイきんぐ・小峠英二だ。山内は「面白さを2人の演技力で何倍にもしてる」、秋山は「煙ボケをここまで広げることってできるんだと思いました」、小峠は「(筆者注:くわえ)煙草の何とも言えないこの角度というか。これがやっぱ面白かった」と口にしている。

同じシチュエーションコントを得意とする、や団、コットンの個性の違いをよく表した言葉だと感じた。そして同時に審査員の評価にも違いが見られ、飯塚と松本は、ネタのオリジナリティーを、そのほかの3人は、演技力とネタの構成力をより重視していることがよくわかる場面だった。

舞台上の勢いを左右した「暗転」

脚本家の三谷幸喜さん=2021年11月29日午後、東京都渋谷区、関田航撮影
脚本家の三谷幸喜さん=2021年11月29日午後、東京都渋谷区、関田航撮影 出典: 朝日新聞社
また同大会では、舞台演出の一つである「暗転」、笑いのパターンの一つである「繰り返し」について審査員が言及する場面も目立った。

暗転ついては、ニッポンの社長が「新世紀ロボの研究者が一人の若者に『頼む、世界を救ってくれ』と声をかけるが、『やっぱええわ』と立ち去ってしまう」というパターンを繰り返すネタの中で頻繁に使用された。

これに松本は「どうしても次のないパターン、どのパターンでくるかなっていうのをちょっとこっちは先回りしちゃってしまう」と語り、山内は「ショートコントっぽさをいかにして最後につながげるとか、そういうふうな方向でいってたらもっとウケやすいのかな(中略)単発でいくんだったら、もっと爆発的にウケてかき回してほしかった」とコメントしている。

その後、最高の人間も後半の回想シーンで暗転を使っていたことから、小峠も「暗転のあのへんの照明の使い方の連続で、ちょっともう1個バッといき切れなかったのかな」と言及するに至っている。暗転によって、ネタの評価を下げてしまった格好だ。

演劇における暗転は、基本的に場面転換を意味する。別の場所に移る以外では、回想シーンや独白、時間経過を表すことが多い。これに加えてお笑いは、同じ設定の別パターンで笑わせるショートコント、ネタ終わりと次のネタへの節目にも使用される。

ニッポンの社長は、「どこで博士が『やっぱええわ』と言うのか、また言わないでスカすのか」といったショートコントに近い天丼(繰り返しで笑わせるお笑いの手法)形式で暗転を使用していた。最高の人間が回想シーンで使っていたのとはまったく別の手法と言える。

とはいえ、どちらも「特殊な世界観を強調して笑わせるための暗転」だったに違いない。ニッポンの社長は、ケツが目を見開いてショックを受ける場面、最高の人間は、ナンシー(吉住)が特殊なテーマパークにやってきた頃の回想シーンで暗転となる。じっくり見られる単独ライブの1ネタなら、きっと味わい深いものになっていたはずだ。

難しいのは、「暗転は笑いを持続させにくい」という点である。演劇における暗転は、物語に奥行きをもたらすために使用される。明転したままでは、過去や未来、別の空間へと移ったことをわかりやすく表現するのは困難だ。そこで観客との間に「暗転=場面転換」という暗黙の了解を設け、時空を超えた世界を構築したと考えられる。

しかし、演劇でもお笑いでも、特殊な意味を持たない暗転が舞台上の勢いを失速させてしまう点では同じだ。一度は物語をストップさせるわけだから、当然と言えば当然である。喜劇を多く手掛ける劇作家・三谷幸喜氏の作品に、長時間の公演で一度も暗転を使用しないものがあるのもこのためだろう。

意味合いが異なる「繰り返し」表現

もう一つ、「繰り返し」はニッポンの社長をはじめ、クロコップ、いぬ、ロングコートダディ、ビスケットブラザーズ、ある意味では、かが屋、ネルソンズにも見られた。前者5組はお笑い的な手法、後者2組は演劇的な手法である。

クロコップは、「カードゲーム」と「あっち向いてホイ」を組み合わせた滑稽かつスケールの大きい対戦もので、新たに引いたカードの種類によってその後の展開に変化をつけた。いぬは、フィットネスジムに通う中年女性と男性トレーナーが夢の中でキスを繰り返し、現実でも正夢になってしまうというもの。

ロングコートダディは、番組収録で料理長が被る背の高い帽子がセットの看板に引っかかって何度もNGとなるネタ。ビスケットブラザーズは、2本目のネタで原田泰雅が「衣装を脱いだり着たりすることで男女が入れ替わる」という突飛なキャラクターを演じて笑わせている。

一方、かが屋は扉のセットによってカウンター席とトイレの空間を分け、その出入りによって男女それぞれの食い違い、虚勢と本心とを演じ分けている。ネルソンズは、新婦の気持ちが元カレに移りそうになったり新郎に戻ったりする心情の揺れによって展開を作っていた。

どちらも繰り返しではあるが、その意味合いはまるで違う。かが屋、ネルソンズはシチュエーションコメディーを母体とするコントが特徴で、登場人物の置かれた状況や機微を笑いにつなげるため、繰り返し表現が使われている。

そのほかは、ある種のシステム(特殊な世界観や状況、ルール)によって笑いを生んでいる。例えばロングコートダディの場合、番組収録というシチュエーションではあるものの、「どう注意しても帽子を看板にぶつけてしまう料理長」という、このネタの世界だけに息づくマシーンのようなキャラクターおよびルールを前面に押し出していた。だからこそ、同じことをやっても笑いが起きるものになっている。

これがお調子者だったりおっとりしていたりするリアルな料理長では、さすがに後半で冗長さを感じただろう。既視感のある設定とキャラクターの組み合わせは、あまりにネタとしての新鮮さに欠けるからだ。こうした前提を踏まえて、どのように「繰り返し」を生かそうとしたのか。そのあたりが評価を分けたように感じてならない。

ビスケットブラザーズが優勝した理由

ビスケットブラザーズが高く評価されたのは、2ネタともに特殊な世界観をフルに生かした点にあるだろう。

ファーストステージは、上半身セーラー服、下半身ブリーフ、奇妙なツインテールという出で立ちのヒーローが野犬に襲われた男を救うネタ。ファイナルステージは、同じバイト先の女友達が実は男性だったという奇抜なネタを披露した。

設定こそ違うが、いずれも風変りな男(もしくはヒーロー)になぜか魅了される男(または女性)という構造になっている。リアルに考えれば、そんな突飛な男をすぐに受け入れるはずがない(野犬を追いやってくれた恩義はあったかもしれないが)。しかし、あまりに特殊な世界なため、細部のほつれをつつくのも野暮に感じられてしまうのだ。

他方、笑いの面においては、あらゆる手が施されている。例えば1本目のネタでは、原田の強烈なキャラクターを生かしてお尻を相方のきんに押し付けたり、ステッキを失い一度は舞台からはけるも「もう1本落ちてた」と軽快な足取りで戻ってきたり、背中を指さして「こっちが前さ」と言って野犬の攻撃を受けたりと縦横無尽にボケ倒していた。

支離滅裂なフレーズも光った。「口が悪くてすまねぇ、学歴が低いもんでねぇ」「一応ほら(セーラー服を摘まんで)高校もいってるし、ほら(ブリーフを摘まんで)大学もいってる」「クソッ、まだ奨学金も払い終えてねぇのによぉ」「俺は国とは関係ない公務員だ」というような一連のフレーズは、野犬のバトルとはまったく関係がない。

しかし、男がなぜか学歴や安定した職業を意識しているだろうキャラクター性は読み取れ、その“含み”に笑ってしまう。また、それがヒーロー的存在とどんな関係があるのかも最後まで明かされず、謎が謎を呼ぶことでさらに笑いの勢いを後押ししていた。

これに加え、出順も彼らの優勝を決定的にした。ファーストステージでは、6番手にや団、7番手にコットンというシチュエーションコント組が続き、その後に独自の世界観を持つビスケットブラザーズが登場したことで、よりインパクトを与えることができた。

ファイナルステージも、や団、コットンの後にビスケットブラザーズである。もちろんネタの面白さがあってのことだが、明らかにカラーの違う彼らは最後まで出順に恵まれていたのだ。

今後しばらくは大阪を拠点に活動するというビスケットブラザーズ。関西の土壌にコントを根付かせ、さらにレベルアップした笑いを見せてくれることに期待したい。

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