お産の数だけ、このようなエピソードがあることでしょう。義母しかり、たとえ血縁があっても個人差が大きいライフイベントです。
共通することがあるとしたら、お産はやはり、母子ともに命がけであるということ。
医療の発達や、医療者の努力により、当たり前のように思い込んでしまうこともある「お産は安全」。しかし、本来は一定のリスクがあることを、思い知らされました。
後から受けた詳しい説明では、産道を通過する際に赤ちゃんが体の向きを変える「回旋」が途中でうまくできなくなる回旋異常が起きていたのだそう。その間に胎児心拍が低下したため、緊急帝王切開の判断をした、ということでした。
誰にでも起きる可能性があり、明確な予防方法はない、とも。
医療スタッフのみなさんの迅速な対応により、幸い子にも妻にも、悪い影響は残りませんでした。ただ、部屋に一人になったときのあの記憶は、今もじっとりと頭に残っています。
緊急帝王切開は前置胎盤や常位胎盤早期剥離でもしばしば行われます。
厚生労働省の
「第16回 医療計画の見直し等に関する検討会」の資料
「周産期医療の医療計画の見直しに向けて」によれば、2017〜18年の阪神間の周産期母子医療センター6施設の総分娩数12009件のうち、総帝王切開数は3020件、帝王切開率は25.1%。この内、緊急帝王切開数は1594件で約半数、総分娩数の13%を占めます。
このデータに基づくと、緊急帝王切開に至るのはおよそ10人に1人。あらためて、決して他人事ではなかったのだと感じます。
先に帰ってきたのは、生まれてきた子どもでした。新生児用のベッドに入った子どもと、二人で妻を待ちます。妻もあとは閉腹だけと聞き、安堵しつつ、元気に泣く子どもをしげしげと観察しながら過ごしました。
口の周りや腕についた血は、もうすっかり乾いていました。小さな手に、精巧なミニチュアのような爪があることに驚きました。
助産師さんが体重や体長を測ったり、私の話し相手になったりするために、顔を出してくれます。新しく、小児科のお医者さんが子どもの診察に来ました。
「あなたのことが心配でねえ」
戻った妻には、のんびりしたいつもの口調で、かえって慰められてしまいました。そんな妻はまだ麻酔の残る状態で、ぐったりしていました。立場が逆だよ、と返しました。
未だ続くコロナ禍で、翌日から退院までは妻と短時間の面会だけ、子どもはガラス越しに見ることしかできなくなります。
そこから病院の規定で15分だけ、初めて三人家族の時間を過ごしました。
「写真、撮りましょうか」助産師さんが申し出てくれました。慣れているのであろう、板についたカメラマンぶりに、ようやく心から笑顔になれました。
そのときの写真をよく見返します。
頭をよぎる、これが撮れなかった可能性。「すべての子の誕生は奇跡」という言葉は、決して大げさでないことを身にしみて感じます。