現代の「当たり前」に至るまで

日立製作所は来年1月から、腕時計型無線センサー「日立AirSense」を発売する。心拍数や脈拍を感知し、データを離れた場所に送れるため、家族や医師が遠隔地に住む高齢者らの健康状態を把握できる。(中略)いずれも消費税込み1セット94万5千円。
日立製作所が17年前の2005年に発表した、この腕時計型無線センサー「日立AirSense」。形状はいたってシンプルで、フェイスに当たる部分には、液晶モニターと二つのボタンのみが確認できます。
「腕時計型」とされていますが、白を基調としたボディ、落ち着いた赤と青のボタン、簡素な装飾は、“時計”よりも病院で見かける“医療機器”のイメージに近いもの。実際にも「心拍数や脈拍を感知する」ことが主な機能でした。
一方で、現代のスマートウォッチは、見た目は時計的でありながら、その機能には心拍数や脈拍の感知があるなど医療機器的であり、結果的に17年前の腕時計型無線センサーとの一致点が生まれています。
さらに驚きなのは、日立AirSenseが取得したヘルスケアデータを「離れた場所に送る」ことで、医師や家族らが「遠隔地に住む高齢者らの健康状態を把握できる」という思想を、当時から実現していたことです。
今となっては高齢者にウェアラブルデバイスやスマートフォンを持たせる大きな理由の一つですが、当時としては非常に先進的だったことは想像に難くありません。
スマートウォッチの代名詞でもあるApple Watch第一世代の発売は2015年。日立AirSenseの発売から約10年後のことです。もっともApple Wacthは今や、さらに医療機器としての側面を強め、心電図機能を備え医療機器としての認証を得るまでになっていますがーー。
もう一つ、別の意味で驚きなのがその値段です。1セット94万5千円と、個人での使用を想定していたとは考えにくい価格帯です。
当時のリリースによると「世界最小レベルの1.5cm角基板にセンサ、マイコンと無線機能を集約する技術」が使用されているとあり、これが値段が高かった一因と言えるでしょう。
「センサをワイヤレス化し、装着後の移動も自由に行うことが可能」「移動する人やモノへのセンサへの装着も可能」になったことで、センシング対象や範囲が大きく広がった、エポックとしてのこの商品。
現代の「当たり前」は、こうした技術革新の積み重ねの上にあることを思い出させてくれます。

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いま流行している「Y2Kファッション」。街中でルーズソックスを履いている高校生を見かけることも珍しくありません。広い層に2000年代の出来事や空気感への興味・関心が高まったこの機会に、当時の世情を振り返り「現代社会」を考えます。