連載
#18 特別じゃない日
子猫が行方不明に ちょっと苦手なご近所さんたちに尋ねてみたら…
「特別じゃない日」をテーマにした単行本が発売された漫画家・稲空穂さん。ツイッターで発表して注目を集めた漫画「知らないご近所さん」に込めた思いを聞きました。
子猫を拾った無口な青年。
住んでいるアパートがペット不可のため引っ越すことを決めますが、子猫が行方不明に。
バイト先の後輩と一緒にポスターを貼ったり、猫が好きそうな茂みを探したりしますが、見つかりません。
住んでいるアパートのご近所さんは、いつもケンカをしているカップルや、ぶつかっても謝らない怖そうな男性、陰気な大家さんと、印象が悪い人ばかりでちょっと苦手。
しかし背に腹は代えられず、右隣に住むカップルにポスターを見せて聞き込みをすることに。
彼氏の方は「これやるよ。実家の猫、それ撒いたら即帰宅したから!」と、またたびをくれました。
彼女は「知り合いの店、何軒か回ってみる」と、ポスター貼りを協力してくれることになりました。
◇
夜になって青年がシャワーを浴びていると、玄関のチャイムが鳴ります。
玄関を開けると、大家さんがいて「あなた、ベランダどうなってんのよ!」。
ベランダを確認すると、暗闇の中で何かがうごめいています。
窓をガリガリとひっかき、ゾロゾロと部屋に入ってきたのは、またたびで集まってきた野良猫たちでした。
そのなかに青年が拾った子猫はいません。
大家さんは「もっと早くに言いなさいよね」と言いながら、アパートの入り口にポスターを貼ってくれました。
そのポスターを見た人物から、「写真にそっくりな子、こないだ保護して……」と電話がかかってきます。
名前を尋ねると、左隣に住むぶつかっても謝らない怖そうな男性だとわかりました。
男性は猫好きで、部屋は猫グッズだらけ。
子猫と別れるのが寂しそうな様子を見て、青年は「今度うちで酒でもどうですか。お礼したいんで。猫付きで」と誘います。
住人みんなが猫好きということがわかり、大家さんも「他の部屋の人たちもいいって言ってるし、私も動物好きだし」と、猫を飼うことを認めてくれました。
子猫をきっかけに、青年とご近所さんたちとの交流が始まりました。
最近は「ご近所づきあい」という言葉自体が、あまりいい印象でない場合が多いように感じます。
私自身が社交的な人間ではないため、お恥ずかしながら声をかけていただくのを待つことがほとんどなのですが、お話をするにつれ「もっと早く声をかければよかった!」と思うことがほとんどです。
もしかするとそれは幸運なことかもしれませんが、珍しいことでもないような気がしています。
自分の性格が変わったかといわれると決してそんなことはないのですが、「話しかけてよかった」と思ってもらえる人間でありたいと思っています。
前回の17話「#猫」の中で、猫のことについてややきつめにアドバイスをするSNSユーザーを描写しました。
初見で身構えてしまうという点では、今回登場する「ご近所さん」と共通点があるなと思いながら描かせていただきました。
◇
〈稲空穂=いな・そらほ〉 静岡県出身・在住の漫画家。会社員を経て2017年に「おとぎ話バトルロワイヤル」(KADOKAWA)でデビューし、「特別じゃない日」で日常をテーマにした作品に挑戦中。老夫婦や女子高校生、主婦、バイトの青年……それぞれの小さな幸せがつながっていく物語を描いていて、実業之日本社から第1集が書籍化され、7月に第2集「特別じゃない日 猫とご近所さん」が発売された。Twitterアカウントは@ina_nanana
withnewsでは原則隔週水曜日に、稲さんの漫画とともに作品に込めたメッセージについてのコラムを配信しています。
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