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書店員芸人で注目、でも…カモシダせぶんの本音「ネタでも売れたい」
文芸誌でコラム執筆、小説賞にも応募……だけど
ネタ以外に、特技でメディアに登場する芸人が増えてきた昨今。本好きということに加えて、現役書店員であることを武器に活躍するピン芸人がいます。テレビやABEMAで書店員芸人の力を発揮して、活動の場を広げているカモシダせぶんさん。書店員芸人の活動は、もはやライフワークともいえる域ですが、芸人であることへの強い想いもありました。(ライター・安倍季実子)
「書店員芸人から離れて、芸人カモシダせぶんとして見てもらったときに、『やっぱり、あの人面白いな』って思ってもらいたいです」
そう話すのは、松竹芸能所属のカモシダせぶんさん。こちらまで明るくなるような笑顔で、力を込めて語ります。
今年で芸歴15年目になりますが、純粋に「ただの芸人」としてテレビなど大手メディアに出たことは、ほぼありません。
これまで最も大きなスポットライトを浴びたのは、2019年の年末に自宅マンションが火事に遭ったときでした。
「収れん火災という珍しいタイプの火事です。部屋にあった3000冊の本が全部燃えてしまって、その中には大事なサイン本とかもあって、めちゃくちゃショックだったんですが、1日に3件くらい取材を受けたのは、ちょっと嬉しかったです」と笑い話に変えています。
そんな、カモシダせぶんさんの現在の主な活動の軸は「本」です。実は「現役の書店員」でもあるのです。
読書好きの芸人を集めて本好きのためのトークライブを主催したり(今後リニューアル予定)、10年以上にわたり書評ブログを書いたり……実にさまざまです。
昨年スタートしたオンラインサロンでは、「実際に店頭で売れている本を知っているので旬な情報を出すようにしている」といいます。
「書店員芸人」としてはメディアでも注目を集め、この春に放送された『上田晋也の芸人トーク検定』(フジテレビ)では優勝を飾り、「令和のうんちく王」という称号を手にしました。
ABEMA放送のバラエティー番組『2分59秒』では、「読書好きがプレゼン!最高の1冊SP」回でも優勝。番組MCの千原ジュニアさんのYouTubeチャンネルにゲストとして呼ばれ、本のプレゼン力を絶賛されました。
「YouTubeを見て、僕がプレゼンした本に興味を持ってくれた人がたくさんいたのが嬉しかったですね。書店員芸人をしていて良かったと思いました!」
まさに、本を紹介するために生まれてきたといっても過言ではない芸人さんです。
しかしカモシダせぶんさんが書店員のアルバイトを選んだのは、積極的な理由ではありませんでした。
「書店員の前は中古品販売店、喫茶店、コンビニでもバイトをしました。でも、どれも長くは続きませんでした。というのも、僕は仕事ができるタイプじゃないんです」と話します。
「喫茶店でバイトしていた時は、トマト抜きのピザトースを作るというミスを何回か続けてやってしまって、めちゃくちゃ怒られたこともあります……。それくらいどうしようもない人間なんですが、書店員だったら『本好き』を活かせるんじゃないかと思って始めました」
いま書店員のアルバイトは、週に2~3日。朝8時半から、6~8時間勤務します。ライブがある日は、アルバイトの後に向かいます。
まずは、その日に届いた雑誌や書籍の新刊の開封・品出し。開店後は、定期購入や予約注文のお客さんへ電話連絡をしながら、引き続き品出しをおこないます。
「この説明だけだと、『意外と簡単な仕事だ』と思われそうですが、僕のバイト先はエレベーターのないビルの2階にあります。本が入ったダンボールを自分たちで運ばなきゃいけないんで、実は肉体労働でもあるんですよね」
その一方で、書店員バイトは頭脳勝負なところもあるそう。
「とにかく覚えることが山ほどあります。実用書や語学書などのジャンルや棚の場所はもちろん基本中の基本。ちゃんと覚えてないと、お客さんをご案内できません。ほかにも、本の返品ができる出版社とできない出版社があるといった事務的な知識も必要です」
書店員バイトをはじめたのは2012年。本の分類など表面上の知識だけでなく、本の内容やジャンル別のオススメといった教養も少しずつ深めてきました。しかし、バイト歴10年目を超えた今でも、初めて知ることがあるといいます。
知れば知るほど、奥が深い書店員バイト。バイトを続けるうちに、自然と本好きは加速していき、最近では創作活動もはじめました。
「去年は文芸誌でコラムを書かせていただいたり、読み切り漫画の原作をつとめたりしました。今年は集英社主催の小説賞にも応募しました。初めて小説を書いたんですが、最終選考まで残って自分でも驚きましたね。僕なんかがおこがましいですが、芸人として売れるよりも先に文学賞を取っちゃうのも面白いかなと思いました(笑)」
今は本好きや「書店員」を全面に出していますが、純粋に芸人としての一面も大事にしたいといいます。
「同期には渡辺直美や見取り図、ジャングルポケットなどがいます。みんな自分なりに頑張った結果だと思うので、妬みとかはないですが、シンプルにうらやましいですよね(苦笑)」
やはり根本には「芸人としてネタで売れたい」という気持ちがあったと振り返ります。
しかし、ほぼ同期で、昔から仲のいい男女コンビの「ハナイチゴ」が、今年からネタ番組などで活躍しはじめたことで勇気をもらい、自身の活路も見出したのだそう。
「ハナイチゴは全然個性の違う二人なんですが、それをちゃんとネタに反映していて、まったく無理をしていないんですよね。だから、平場のトークもウケるんです」
「肩書や特技って、『芸人』とは別の一面として考えがちです。でも、二人を見ていて、肩書も特技も、その人の個性や面白さに直結しているんだと思いました。コンビとピン芸人という違いはありますが、個性を生かすという点で、二人は僕が今やってることの延長線上にいるのかもしれません」
身近に目標がいることで、自身の芸人活動にも気合いが入っています。
「芸歴が長いので『R-1ぐらんぷり』には出場できません。ゆくゆくは誰かとコンビを組みたいと思っています。今はいろいろな芸人とユニットを組んでネタライブをして、そこから賞レースを目指そうと取り組んでいます」
昨年、2カ月に1回、それぞれ別の3組のユニットを組んでネタをするライブを3回開催して、合計9人の芸人と組んでみました。
そこで一番相性の良かった小仲くん(Sony Music Artists)とユニットを組み、今年のキングオブコントに挑戦しました。
「残念ながら2回戦で敗退しちゃいましたが、今後もじっくり相性のいい相方を探しながら賞レースに出て、芸人としての知名度や実力をつけていきたいですね。そうすれば、書店員芸人としての発言に説得力が加わりますし、書店への恩返しになるはずです。一日でも早く、『ネタも書店員芸人としても面白いヤツだ』って思われるようになりたいです」
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