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バイト芸人がウーバーを選ぶ理由 「帽子をかぶる」小仲くんのルール

「かわいそうだけど、ちょっと笑える」芸風

〝自分ルール〟を決めていれば、自由がきくので「この働き方を気に入っている」と話す小仲くん
〝自分ルール〟を決めていれば、自由がきくので「この働き方を気に入っている」と話す小仲くん 出典: 安倍季実子撮影

目次

ピン芸人として活動する小仲くん。高校生にして、第1回目のM-1グランプリの予選に参加するほどのお笑い好きでした。お笑い戦国時代のいま、コロナという逆風に負けず、活躍の場を少しずつ増やす一方で、合間を縫ってウーバーイーツに励んでいます。(ライター・安倍季実子)

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好きや得意を生かしたアルバイト遍歴

一度見たら忘れられない風貌の小仲くんは、2021年の第1回「Be-1グランプリ」で3位に輝いた実力派ピン芸人です。

大会後はテレビやABEMAの番組などへ出演するようになり、やがて「SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ内のお笑い芸人プロジェクト)の期待の若手芸人」と呼ばれるようになりました。

小仲くんのTwitterでは、仕事に邁進する様子がうかがえます。

その一方で、辛いアルバイト事情がわかるつぶやきも……。

※クエスト:ウーバーイーツのインセンティブ(追加報酬)の一種。設定されている配達件数をクリアすると、追加で報酬が発生する

そう、小仲くんはお笑い活動に力を入れる反面、ウーバーイーツをしながら生活をするアルバイト芸人なのです。

「大分県の工業高校卒業後、一度は就職しましたが、芸人になるために会社を辞めて、22歳で上京しました」と話す小仲くん。

2007年にコンビを結成、解散後の2018年からはピン芸人として活動しています。

「パチンコや居酒屋や派遣とか、いろいろな仕事をしましたが、コロナ禍になって思うようにシフトに入れなくなったので、ウーバーに切り替えました。まわりにも、同じような理由でウーバーやってる芸人は多いですね」

芸歴15年目の小仲くん。ピン芸人歴は4年目
芸歴15年目の小仲くん。ピン芸人歴は4年目

コロナの流行直後は、配達人が少なかったこともあり、「チップも足したら時給3000円を超す日もありました。とにかく稼ぎたい放題で、週に4日、お昼の12時前から夜10時までやって、25万円くらい稼いだ月もありました」と振り返ります。

2年前は、お笑い業界が「自粛モード」に入ってアルバイトの時間が十分とれた上に、ウーバーイーツが人気だったこともあり、簡単に稼げたといいます。しかし現在は、それほど稼げなくなったそう。

「少しずつお笑いの仕事が復活してきて、その合間を縫ってウーバーに出る感じなので、前ほどは働けなくなりました。去年、ウーバーの配達報酬の料金体系も変わりましたし、パートナー(配達人)も増えたので、以前ほどガンガン注文が入ることもなく……。今は大体15万円くらいです」

ウーバーがやめられない理由

収入は減ってしまいましたが、ライブやオーディションを優先できるので、この働き方を気に入っていると小仲くん。

「お笑いをやる上で、いろいろな自由がきくのはものすごく助かりますね。普通のバイトだと、事前にシフトが決まっていて、オーディションが入った場合は代わりの人を見つけて、交代のお願いをしなくちゃいけない。でも、ウーバーは、そういったわずらわしさがありません」

「いつ働くのか」だけでなく、「どこで働くのか」も自由だというところも魅力だとか。

「僕は、レンタサイクルで自転車を借りてウーバーをしているんですが、ちょっと離れた場所でオーディションがあっても、近くで自転車を借りれば、すぐにウーバーができちゃいます」

満足度の高いアルバイトですが、ひとつだけネックになっていることがあるそうです。

「雨が降ったらやらないようにしています。以前、雨の日にスマホが水没状態になってバグってしまって、エラい目に遭って。全て自分の責任になるんで、事故なんかを起こしてしまったら大変ですしね」

ウーバーイーツは手軽にスタートできる反面、自分が責任を負う部分が大きくリスクもあります。

ただ、自分なりのルールを守っていれば、「これほど恵まれた仕事はない」そう。再び居酒屋といったシフト制の仕事に戻る考えは今のところないといいます。

マツモトクラブ、AMEMIYAから受け継いだ悲哀のある笑い

配達をするときは「絶対に帽子かぶるようにしています」と力を込める小仲くん。

「自分でも分かってるんですが、僕みたいな風貌のやつが食べ物を持ってきたら怖いんですよ。オートロック式のマンションで、エントランスのインターホン越しに僕を見たお客さんから、『直接受け取りから置き配に変更したい』っていわれることもありますから……」

「運転中、帽子が風に飛ばされて、それを見ていた小学生たちに笑われたこともあります……」と話します
「運転中、帽子が風に飛ばされて、それを見ていた小学生たちに笑われたこともあります……」と話します

なんとも切ないエピソードですが、この「かわいそうだけど、ちょっと笑える」というのは、小仲くんの芸風に通じるものがあります。

「笑いに、もうひとつ感情を揺さぶる要素が欲しいので、『なんだかかわいそう』と思われるような哀愁を足したネタを作ることが多いですね。もしかしたら、コンビの頃からマツモトクラブさんとAMEMIYAさんにかわいがってもらっているんで、それが関係しているのかもしれません」

元舞台俳優だったマツモトクラブさんは、音声と芝居を合わせた芸風が特徴的なピン芸人です。確かな演技力と巧みな心理描写が持ち味で、「R-1ぐらんぷり」には5年連続で決勝進出しています。

一方のAMEMIYAさんは、「冷やし中華はじめました」という歌ネタで、一躍有名になったシンガーソングライター芸人。高い歌唱力で悲哀に満ちた曲を力強く歌い、「R-1ぐらんぷり2011」では準優勝という好成績を残しました。

「マツモトクラブさんには、数年前から全国ツアーや賞レースの音響スタッフにつかせてもらってますし、AMEMIYAさんにはコンビ時代に『お前はピンの方が向いてると思う』と言われたこともあります。この2人の背中を近くで見ていたから、ピンになった時もあまり戸惑わなかったのかもしれません」

ピン芸人の自信がついた「Be-1グランプリ」

コンビ解散が急だったため、とりあえずひとりで活動を始めた小仲くんでしたが、いつの間にか実力派の先輩ピン芸人2人の影響を受けていたようで、ピン芸人としての活動は意外とすんなりいったといいます。

しかし、着実に力をつけていった先に起こった、「R-1グランプリ2021」の芸歴10年目までという出場資格の変更。「めちゃくちゃショックでしたね」と振り返ります。

「先輩からも『いいところまで行くんじゃないか』と言われていましたし、決勝の舞台でマツモトクラブさんの音響をやってから、『自分も演者として舞台に出る』っていう夢があったんで。『今年こそは』と期待していたところもあって、やるせない気持ちでいっぱいでした」

「ウーバーをしていない時も、ウバック(専用のバッグ)を使っています。大きくて、コントの小道具入れにピッタリなんです」
「ウーバーをしていない時も、ウバック(専用のバッグ)を使っています。大きくて、コントの小道具入れにピッタリなんです」

そんなときに生まれたのが、芸歴10年目以上のピン芸人を対象とした賞レースの「Be-1グランプリ」です。やり場のない気持ちをぶつけるように参加したところ、結果は予想外の3位入賞。

「1位の野田ちゃんさん、2位のギャバホイさんをはじめ、参加者のみなさんは面白い方ばかり。憧れの先輩たちがたくさんいる中での3位だったので、ピン芸人としてやっていく自信がつきましたね」

その後、「有吉ジャポンII ジロジロ有吉」(TBS)や深夜のネタ番組、ABEMAなどへ出演が次々に決定。「お笑い王者が激推し!最強ピンネタ15連発」(関西テレビ・フジテレビ系)には、事務所の先輩のバイきんぐ・小峠英二さんの推薦で出演できたといいます。

「風向きが変わったのは確かです。がむしゃらにやっていて良かったな、という感じです(笑)」

ユニットを組む理由「何で売れるかわからない時代」

小仲くんはピン芸人として活動するほかに、仲のいい芸人と『おむすびズ』『フィラデルフィア』といったユニットを組んで、「キングオブコント」や「M-1グランプリ」にも出場しています。

その理由を、「賞レースで準決勝や決勝まで残ればいいなと思って。ピンとして売れたいという気持ちもありますが、それよりも芸人として売れたいという気持ちの方が強いんです」と話します。

「『おいでやすこが』さんの件は、デカかったですね。マツモトクラブさんの音響について『R-1』の舞台で2人とも見ていたので」
「『おいでやすこが』さんの件は、デカかったですね。マツモトクラブさんの音響について『R-1』の舞台で2人とも見ていたので」

「ユニットや役者、ユーチューバー……。フィーチャーされるきっかけは何でもいいと思うんです。最終的には芸人という一面にもつながって、ピン芸人としての活動も一緒に引き上げられると思うんで。今年もユニットで賞レースに参加するつもりなので、売れるきっかけになれば嬉しいですね」

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