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30代最後の年の「免許合宿」話題に 新人漫画家「ごめたん」の正体

©️『39歳の免許合宿 ~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~』ごめたん/ワニブックス
©️『39歳の免許合宿 ~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~』ごめたん/ワニブックス

目次

30代最後の年、もう一度、青春がやってきた――。

そんな書き出しから始まるマンガ『39歳の免許合宿~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~ 』(ワニブックス)が話題を呼んでいる。

大人になると忘れてしまいそうになる、青春の甘酸っぱさを思い返させてくれる同作。新しいことにチャレンジすること、自分でやってみること。「何かを始めることって何歳からでも遅くない」、そう笑う新人マンガ家・ごめたんの正体は、お笑いトリオ「グランジ」のメンバーである五明拓弥さんだ。

どうしてマンガを描いたのか。いかにしてSNSから同人、そして商業出版へとつながったのか。物語制作の背景を訊いた。(ライター・我妻弘崇)
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マンガ家「ごめたん」としてデビューしたグランジ・五明拓弥さん。
マンガ家「ごめたん」としてデビューしたグランジ・五明拓弥さん。 出典: 朝日新聞社

僕らは完全に“肉人形”でした

――静岡にある激うまハンバーグを食べに行くことをきっかけに、免許合宿へ行くことを決意します。

僕と、友人でアーティストのimai( @group_inou )さんと、マンガ家の山本さほさんと3人で定期的にご飯を食べるんですけど、そのときにさほさんから提案されたのがきっかけでした。21年5月くらいだったと思うんですけど、当時はお笑いのライブも縮小していたし、imaiさんもライブができなかったので、時間が有り余っているという状況。

――コロナによって、強制的に時間が生まれてしまった、と。

そうなんですよ。実は、僕もずっと車の運転免許を持っていないことに引っかかりを覚えていて。imaiさんも同じだったみたいで、だったら二人で行ってみようかと。でも、そのときはあくまでその場のノリの一部だったんですけど、しばらくしてさほさんが「行きましょう」と催促してきた(笑)。

――山本さほさんが操縦士だった?(笑)

僕らは完全に“(意のままに操られる)肉人形”でした(笑)。激うまハンバーグを猛プッシュされて、「免許合宿」っていうLINEグループまで作り始めて。でも、具体的に話がふくらんでいくと、僕らもだんだん面白くなってきた。気が付くと、「どこの免許合宿がいいかなぁ~」ってウキウキしながら候補地を探している自分がいましたね。初めての経験ですから、教習所でいろんな出会いがあるんだろうなとか想像するじゃないですか。だから、あれこれ考えているときは楽しかったですね。
作中に登場する山本さほさん。
作中に登場する山本さほさん。 出典: ©️『39歳の免許合宿 ~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~』ごめたん/ワニブックス
――ところが、『39歳の免許合宿』に描かれているように、約2週間にわたる合宿生活は甘くなかったことに気が付くという……。

これは……太字で書いてほしいんですけど、今でも鬼教官はいます! 

――ははははは! マンガの中には、二人を戦慄させる教官「MAX」などさまざまなキャラクターが登場します。合宿の雰囲気って、五明さんの目にはどう映ったんですか?

会社や学校でも、仲が良くなる人と、そうでない人っているじゃないですか? 合宿も似たような雰囲気で、先生を含めて、「仲良くなれそう」「距離を置こう」という人がいる。その割合は、他の場所とあまり変わらないと思いましたね。

トリオの仕事に思うところがあった

――その甘酸が絶妙に描かれているから、本書を読んで学生時代をリフレインしてしまう大人が続出しているんだと思います。

大人になって、突然、新学期の雰囲気を味わう感覚に近いかもしれない。「部屋住み」「山賊」「マリックの娘」……勝手にあだ名を付けたいろいろな教習生がいました。その中に、僕たちと同じタイミングで入学した、若い女の子がいたんですよ。僕とimaiさんって、二人とも身長が190センチくらいあるから、待ち合わせの駅で彼女と合流したとき、二度見されました。

だんだんと向こうから、キャリーバッグを持ったやたらとデカいおじさん二人がやってくるわけですから、怖い思いをさせただろうなって。彼女は、最後まで話してくれませんでした。甘酸っぱかったですけど、「この感じ、この感じ」って。

――(笑)。五明さんが、合宿での体験をマンガにしようと思ったのは、いつごろだったのでしょう?

21年7月初頭に合宿から帰ってきたんですけど、それから半月くらい経ってからですね。もともと、僕は自分がパーソナリティを務めるラジオ番組があるので、そこで合宿体験の話を使えないかと考えていたんですよ。だから、合宿中は毎晩、その日起こったことをボイスレコーダーに記録していたんです。

その上で、この体験をまとめる、大きな理由が三つありました。一つは、ちょうどそのときに、トリオとしての「グランジ」の仕事で、ちょっと思うところがあったんですよね。トリオはトリオとしてやっていくけども、一人でも成立するものを生み出せるようにならなければいけいないと思った。

その次が、僕はラジオCMのシナリオ作成の仕事もしているのですが、CMって流れる期間が決まっていて、面白いものを作っても、半年、一年で消えてしまう。そのことに寂しさを感じていて、ずっと残るものを作りたいという気持ちがありました。それって、結局、自分で作るものしかないんですよね。

そして、最後が……これが一番の理由でしたけど、imaiさんとの強烈な約2週間を何かに残しておきたかった。

――その三つがハマったのがマンガだったと?

ですね。コロナ禍の21年1月に、家にいることが多いから初めてiPadを買ったんですよ。それで、イラストマンガ制作アプリの『CLIP STUDIO PAINT』を使って、見よう見まねでマンガを描き始めた。SNSに投稿すると、文章よりも圧倒的にマンガの方がリアクションがいい。だから、一応、合宿の半年前からちょこちょことマンガらしきものは描いていたんです。
出典: ©️『39歳の免許合宿 ~ストーリーは自分(てめぇ)で創れ~』ごめたん/ワニブックス
――五明さんと(平成ノブシコブシの)徳井さんと僕とで、21年2月に下北沢『B&B』でイベントをしたと思うんだけど、そのとき「我妻さん、ファイル便ってどうやるんですか?」と、iPad片手にしかめっ面をしている五明さんの姿が忘れられない。その状況から、よくマンガを描くまでiPadを使いこなせるようになったなぁと。

ははははは! あのときは、iPadがただの重い板でしかなかった。全然使いこなせていなったですね。

俺は上手いと思って描いているよ!

――それが今や、メジャー版(商業出版)まで発展しているのだから面白い。『39歳の免許合宿』は、19日間の日々を19話で完結させています。最初から、19話で終わらせようというイメージがあったのでしょうか?

その日一日に何があったかということを、まず文章にして、そこから構成を考えて、マンガとして描き下ろしていました。19日間の思い出なので、19話になったという感じですね。僕は、何かを作るにしても、今までやってきたコントを作るという脳味噌しかない。そのやり方しか知らないというか。

――無手勝流でマンガの腕を磨いていったと。

でも、それが面白かった。毎日アップしていくと、徐々に反響が届くのも楽しかったですね。たとえば、ライブでコントをすると、具体的な感想ってあんまりないんですよ。「グランジ、面白かった」と言ってもらえるのはうれしいけど、僕らのネタを好きになってもらえることってあまりない。だから、僕よりもマンガの方を好きになってもらえる感覚が新鮮だし、うれしかったですね。

――ところが18日目をアップして、残り最終話という段階で、一旦すべてを削除するという非常事態に陥る。ご自身のYouTubeチャンネル『ごめたんのメジャー流通への道』でも経緯と心情を語っています。

不適切な描き方があったということで全削除に。具体的な教習所の名前などは伏せていたのですが、やはりそれでも配慮に欠けると。明日、最終話をアップしようという段階で、愛着のある……それこそコメントなどもたくさん付いていたマンガを、自分の手で消すというのは辛かったです。

しかも、なんで消したのか、その理由もこのときはまだ言えない。消したことで、「書籍化が決まったから消したの?」といったコメントが届くんですけど、もっとネガティブな理由なんだよ……って(笑)。でも、やっぱり世に出すことが一番だと思ったんですね。それで、そうした意見を真摯に受け止めて、描き直そうと決めました。
マンガ家「ごめたん」としてデビューしたグランジ・五明拓弥さん。
マンガ家「ごめたん」としてデビューしたグランジ・五明拓弥さん。 出典: 朝日新聞社
――描き直しは、あくまで問題のある個所だけだったんですか?

それがですね、どうせ描き直すならプラスにしたいじゃないですか。ずっと僕自身気になっていたんですけど、よちよち状態から描き始めて、最終話の段階になったときには280ページに及んでいた。描き続けるうちに、画力がアップして、初期と比較するとまったく違う。

――初期の『こち亀』の画が、ぜんぜん違うみたいな?

ホント、それですね。どうしてマンガ家の先生の初期作品が、「あれ!?」って感じるのか理解できました(笑)。改めて見直すと自分の絵が、だんだん気になってしまって、納得いかなくなるんですよね。結局、全部、描き直しました。始めると、自分の中で「机の線は全部まっすぐの線で描かなきゃいけない」とかルールを勝手に作り出しちゃって。

――芸人・五明拓弥が、マンガ家・ごめたん先生になっていく瞬間ですね。

どうでもいいこだわりが出てきちゃう(笑)。もし、僕の奥さんが、部屋に籠って黙々とマンガを描き直す僕の姿を覗いていたら、きっと僕の頭上に赤いベレー帽が見えていたと思います。今も、画力を見て「ヘタウマがいい」ってほめてくれる人が多いんですけど、「俺は上手いと思って描いているよ!」って思ってますからね。何度、描き直したことか。

>>後編は8月31日公開予定です<<
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