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「さっきも聞いたよ!」高齢者にツッコミ 愛される〝弁当配達〟芸人

ゆったり感・中村さん「アメトーーク!」でも注目

高齢者漫談で47都道府県をまわりたいと考えている〝バイト芸人〟のゆったり感・中村さん=吉本興業提供
高齢者漫談で47都道府県をまわりたいと考えている〝バイト芸人〟のゆったり感・中村さん=吉本興業提供

目次

全国の施設を「高齢者漫談」で巡りたい――。そう願うのは、2008年から3年連続でM-1グランプリの準決勝に進出したお笑いコンビ「ゆったり感」の中村ひでゆきさんです。『アメトーーク!』(テレビ朝日)の「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」回で、ひとり暮らしの高齢者宅へのお弁当配達と、安否確認のアルバイト話で注目を浴びました。「バイト先で関わった〝クセの強い〟高齢者とのエピソードを、みなさんに伝えたら面白いのでは……?」中村さんが新たな「夢」を見つけるまでの道のりを聞きました。(ライター・安倍季実子)

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中村ひでゆき:大学4年生のときにNSC東京校へ入学(東京NSC9期生)。2004年のデビューから数年で、「エンタの神様(日本テレビ)」、「新しい波16(フジテレビ)」などの多数のバラエティー番組に出演。2008年から3年連続でM-1グランプリの準決勝に進出するが、2010年以降はライブ活動がメインに。2019年に、「東京都住みます芸人」に任命される。
2021年1月放送の『アメトーーク!』で話した高齢者とのエピソードが反響をうけ、それを漫談にした「高齢者漫談」が誕生。現在は、都内の高齢者施設にて、レクリエーションとして高齢者漫談を行っている。 

「芸につながるバイト」はこれだ

「2010年のM-1の準決勝が、今までで1番ウケたんです。100%決勝に行くと思ってたのに落ちてしまって、それからは何をやればいいのか分かんない時期に入りました」

ハリセンボンやしずるといった同期たちの活躍を横目に、自身は営業やライブをメインに活動する日々。そこにやって来たのが、2020年の新型コロナウイルスの感染拡大です。

芸歴18年目のゆったり感。左が江凸崎馬門(えとつざきばもん)、右が中村ひでゆき=吉本興業提供
芸歴18年目のゆったり感。左が江凸崎馬門(えとつざきばもん)、右が中村ひでゆき=吉本興業提供

ちょうど40歳になることもあり、今までの自分を分析し、今後のことを真剣に考えはじめました。

「いろいろ考えた結果、僕は1人でしゃべることが好きだと気づきました。ただ、すべらない話やスタンダップコメディでは勝てない。なので、アルバイト先で出会った高齢者とのエピソードを記した日記を元にした『漫談』をやろうと思ったんです」

「ぶっちゃけ、辞めようと考えていた時期もあります。高齢者漫談は最後の賭けのようなものかもしれません」=筆者撮影
「ぶっちゃけ、辞めようと考えていた時期もあります。高齢者漫談は最後の賭けのようなものかもしれません」=筆者撮影

吉本興業の社員さんから、「バイトをするなら芸につながるものを選ぶように」といわれていた中村さん。その言葉の真意を見出せないまま、7年前に清掃バイトをはじめました。

一人で黙々と働きながらネタを考えたり、エピソードを見つけようとしましたが、芸人の中には清掃バイトをする人が多く、さらに清掃関連の会社を立ち上げている人もいます。

このまま続けることに疑問を感じていた矢先に紹介されたのが、お弁当配達でした。

「バラつきはありますが、だいたい週に2~3回バイトをしています。お弁当を盛り付けて、配達しながら高齢の利用者の安否確認をしています」と話します。

バイクでお弁当配達をする中村さん=本人提供
バイクでお弁当配達をする中村さん=本人提供

バイトのある日は、7時からお弁当の盛り付けをはじめて、12時まで配達。昼休憩を挟んでから配達を再開し、全て届け終わったら終了です。ライブがある場合は、その後で劇場に向かいます。

1日50軒ほどをまわりますが、配達先の高齢者は、みんな個性的でクセ者ぞろいだそうです。

「みなさん特徴があるので、名前と顔と自宅をすぐに覚えられて、3回目のバイトから一人で配達するようになった」のだそう。

高齢者とふれあう中で、たくさんのエピソードが誕生し、「自分にとって芸につながるバイトはお弁当配達だったんだと思うようになりました」と振り返ります。

「お客様ではなく友達」スタンス切り替え

なかには、気むずかしくて突然「帰れ!」と怒られることもあるといいます。

「人生の先輩なんで敬う気持ちもあるんですが、みなさん本当に口が悪いんですよ(笑)。はじめの頃はバイトの先輩と同じようにみなさんを褒めていましたが、ラチが明かないんで、スタンスを変えました」と中村さん。

「帰れ!」と言われたら「〇〇さんのお弁当届けにきたんだよ」と返します。同じ話をされたら「さっきも聞いたよ」とツッコむようにしました。

「そうしたら、あちらから歩み寄ってくれるようになったんです。最初は『帰れ!帰れ!』と叫んでいたおばあさんが、ある時からエレベーターで一緒に入り口まで降りて、『次いつ来るの?』と聞いてくれるようになったりして。たぶん、ちゃんと向き合い続けたことで、認めてもらえたんだと思います」

人ときちんと向き合うこと。これを深く実感したエピソードがあります。

「この前、あるおじいさんのお宅へ配達した時に、お弁当と一緒に請求書を渡したんです。そうしたら、『請求書は食べられないよ!』とボケてきたんですが、そのおじいさんには、今まで何度も嫌味を言われてきたので、ボケだと思わず嫌味だと思ったんです。それにノッて『あれ? 〇〇さんヤギじゃなかったでしたっけ?』と返しました。今まで、まわりから面倒くさいと思われてたのかもしれません。ノッた僕に深々と『ありがとう!』と頭を下げられました(笑)」

「今まで、ちゃんと相手にされなくて寂しかったんだと思います。だから、あれは心からのありがとうだったんでしょう」=筆者撮影
「今まで、ちゃんと相手にされなくて寂しかったんだと思います。だから、あれは心からのありがとうだったんでしょう」=筆者撮影

「ちゃんと食べてね」必ず約束

中村さんにはもうひとつ大事にしていることがあります。それは、お弁当をちゃんと食べるように促すことです。

「健康な人には普通のお弁当を配達していますが、体調にあわせてやわらかいメニューのものやムース食もあります。『食は健康の源』といいますし、お弁当を残す人には、『ちゃんと食べなきゃダメですよ』『次は絶対食べてくださいね』と約束してもらっています。そして、少しでも様子がいつもと違うと思った場合は、必ず店長とケアマネジャーに報告します」

バイト中の中村さん=本人提供
バイト中の中村さん=本人提供

この声かけを始めたのは、孫のようにかわいがってくれたおばあさんとの関わりがきっかけでした。

「その人もすごく口が悪くて、負けじとツッコミを続けていくうちに仲良くなっていきました。だけど、そのうち入退院を繰り返すようになって、もちろん、お弁当も最後まで食べきれず……。お医者さんから『ここ数日が山だろう』と言われた時に、ケアマネジャーのご好意で、最後に顔を見せてもらえました」

悲しいエピソードをあまり深く話そうとはしない中村さん。高齢者との仲が深まることでバイトが楽しくなり、面白いエピソードが増えていったことも事実ですが、突然、悲しい出来事がやって来るのも事実です。

それらをすべて受け止めた上で、「お弁当配達のバイトを続けつつ、高齢者漫談で全国をまわり、たくさんの高齢者を笑わせたい」と語気を強めます。

たくさんの応援で実現した高齢者漫談

今後も芸人として生きていくために、バイト中に出会った高齢者とのエピソードをネタにした、かつ高齢者に向けた漫談。その名も「高齢者漫談」をやりたい――。

そう思い始めた頃、『アメトーーク!』の「40歳過ぎてバイトやめられない芸人」回の出演が決まりました。

「『アメトーーク』の放送後に、バイト先の店長に『高齢者漫談で全国でまわるのが夢』だと伝えたら、漫談をさせてくれる介護施設を紹介してくれたり、営業用チラシの裏に高齢者漫談の内容を印刷してくれたりしました。介護施設でボランティア活動をしている団体も紹介してくれたんですが、その人たちも、僕の活動を応援してくれています」

中村さんの高齢者漫談のチラシ=筆者撮影
中村さんの高齢者漫談のチラシ=筆者撮影

同じころに、YouTubeの「街録ch」にゲスト出演。ディレクターの三谷三四郎さんが背中を押してくれて、さまざまなことが動き出したといいます。

「YouTubeで個人のチャンネル(ゆったり感中村の高齢者漫談ch)を立ち上げたほうがいいとアドバイスしてくれました。登録者数の少なさをイジられることもありますが、三谷さんなりに応援してくれています」

「ほかにも高齢者漫談を応援してくれる人はたくさんいます。だから、僕は何が何でも高齢者漫談で全国をまわりたいんです。まわらないといけないんです」

バイト先の制服を着て、お弁当配達で出会った高齢者とのエピソードを話す中村さん=吉本興業提供
バイト先の制服を着て、お弁当配達で出会った高齢者とのエピソードを話す中村さん=吉本興業提供

たくさんの支えによって形になってきた高齢者漫談。中村さんはレクリエーション介護士2級も取得し、都内の高齢者施設で30分~1時間のレクリエーションとして開催しています。

「回によって内容は変わりますが、前半に漫談、後半はみなさんとのフリートークをします。少しずつ高齢者漫談が広まっているようで、回を増すごとにウェルカムムードになってきている気がします。施設のみなさんで僕への手紙を書いてくださっていたり、手作りの歓迎ポスターやうちわを用意してくださるところもありました」

施設のスタッフさんからは、高齢者漫談が「笑わせる以外の意味もある」と教えてもらったといいます。

「『1週間くらい前から、みんなで手紙や花を用意するんだけど、これも立派な手遊びのレクリエーションになる。中村さんにはウケたかどうかが大切かもしれないけど、それ以上のことをしているのよ』って言われました」

6月に開催した高齢者漫談。「大歓迎されて、反対にテレちゃいました」

高齢者漫談をやり続ける自信にもつながりましたが、一方で大きな問題も抱えているのだそう。

「休みの日に福祉関係の施設や協会に飛び込み営業をしていますが、がんばっても1日に4件しかまわれないんですよね。全国をまわるには、あまりにも効率が悪い。北海道や沖縄とか、遠方にどうやってアプローチしたらいいのかが課題です」と話します。

「でも、高齢者漫談は5年計画なんで。5年後、僕はマイク1本でとんでもない笑いを起こすんで、今に見ててください」

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