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「サッカー取ったら何も残らない」選手のセカンドキャリア描く理由

TBS系日曜劇場『オールドルーキー』で、元Jリーガー・新町亮太郎を演じる綾野剛さん(右)と、スポーツマネジメント会社で働く深沢塔子役の芳根京子さん。3話ではマラソン選手が登場する。=TBS提供
TBS系日曜劇場『オールドルーキー』で、元Jリーガー・新町亮太郎を演じる綾野剛さん(右)と、スポーツマネジメント会社で働く深沢塔子役の芳根京子さん。3話ではマラソン選手が登場する。=TBS提供

目次

東京五輪2020後に引退したアスリートも多く、その後の「セカンドキャリア」に注目が集まっています。現在放送中の『オールドルーキー』(TBS系日曜劇場)は、引退を余儀なくされた元Jリーガーが主人公です。その葛藤やアスリートを裏方で支えるスポーツマネジメント会社を描くのは、『龍馬伝』や『海猿』など人気ドラマを多数手がけてきた脚本家の福田靖さんです。今、なぜこのテーマでドラマを書こうと思ったのか。制作の背景について福田さんに聞きました。(ライター・小野ヒデコ)

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ドラマ『オールドルーキー』あらすじ:夢が終わった。人生がはじまった――。元サッカー日本代表の新町亮太郎(綾野剛)はJ3チームでプレーをする37歳。ある日、所属のチームが解散となり、突然解雇に。移籍先が見つからず、事実上、現役引退となりました。妻・果奈子(榮倉奈々)と10歳と5歳の娘たちとこれまでの生活を保つために、新たに仕事を探し始めます。アスリートをサポートするスポーツマネジメント会社と出会い、様々な競技やアスリートたちが登場していく中でセカンドキャリアを築き、成長していく姿が描かれています。

“パパ友”荻原次晴さんに話を聞く

――アスリートの引退後、そして、アスリートをサポートするスポーツマネジメントという会社について書こうと思ったきっかけを教えてください。

最初にドラマの企画が動き出しのが、2020年の11月頃でした。アスリートのセカンドキャリアに興味をもった理由は二つありました。

一つは、妻の友人の元野球選手が「アドレナリンがとめどなく出て、男同士で興奮して泣き合うような経験は、引退後にできない」と言っているのを聞いたことがあったこと。

もう一つは、小さい頃から競技に打ち込んでも、有名になる人はほんのひと握りという現実を感じていたことです。

私は中学生時代に卓球をしていて、今はゴルフをしていますが、卓球でもゴルフの世界でも、若くして活躍したりプロになったりする人はいます。でも、「それ以外」の人たちや、引退した人はその後どうしているんだろうと以前より気になっていました。まずは引退したアスリートに、当時の苦労を取材していくことにしました。

年が明けて、元Jリーガーに話を聞く機会を得ました。その中でスポーツ選手を裏方としてサポートするスポーツマネジメントの仕事の話が出まして。そこでつてをたどって、スポーツマネジメント会社のスポーツビズ社長の山本雅一さんやスポーツバックス社長の澤井芳信さんに取材を申し込みました。

今回難しかったのは、“アスリートならでは”のストーリーが一般の人に共感されるかということ。ドラマを制作する際、一般の人に共感してもらえるかというポイントは大切です。スポーツマネジメント会社に所属しているスポーツ選手にも話を伺い、どういう形で、どういう面でマネジメント会社に助けられているかを聞きました。

すると、支える側と支えられる側の関係性の中で「人間ドラマ」を描けると思い、「ドラマになりそうだ」と感じました。

――実際に何人くらいのスポーツ関係者の方とお会いされたのでしょうか?

総勢30人ぐらいです。国内最大手のスポーツマネジメント会社のスポーツビズが立ち上だったきっかけは、スキー・ノルディック複合でメダルを取った荻原兄弟だったと聞きました。たまたま弟の荻原次晴さんが近所に住んでいて、“パパ友”だったんです。荻原さんにも引退時や引退後の話をじっくり聞くことができ、その点もドラマを書く上で影響を受けました。

――ドラマ内で「サッカーファンしか知らない新町さんに商品価値はない」と言われた新町が「5歳からずっとサッカーしかやってないんです!僕からサッカー取ったら何にも残らない!」と悲痛に叫ぶシーンに胸がえぐられました。以前に取材した元アスリートからも同じ心境を聞いたことがあり、本質をついていると思いました。

プロになれたとしても、1軍で活躍できる選手はわずかですし、そういう人ほど子どもの頃からその競技しかやってこなかった傾向が強い。戦力外通告を受けたら、突然、社会に投げ出されるわけじゃないですか。
そこから第2の人生、厳しい人生が始まっていく。企画が動き出してからの1年強は、現役もしくは元選手に話を聞き、材料集めをしていく作業を繰り返していましたね。

『オールドルーキー』の脚本を手がけた福田靖さん=本人提供
『オールドルーキー』の脚本を手がけた福田靖さん=本人提供

綾野剛さんにサッカーを指導した人

――脚本を書かれる際、どのように人物像のイメージを膨らますのでしょうか。また、主人公役に綾野剛さんが決まった際の率直な印象を教えてください。

まずはレギュラーになる登場人物のイメージを作っていきます。『オールドルーキー』では、サッカー選手の新町亮太郎と妻の果奈子、そしてスポーツマネジメント会社「ビクトリー」の面々がキーパーソンたちになります。配役が固まってきたところで、その俳優の方に合わせて、「この人にこういうことを言わせると面白いだろうな」と思いながら、書き進めていきます。

綾野剛さんは若いイメージがあったので、「現役を引退して、途方にくれるような年でしたっけ?」と最初は思ったのですが、実年齢はアラフォーで新町の年代とぴったりでしたし、もちろん演技力も分かっていたので、僕としては、綾野剛さんでいきたいと思いました。

一度、綾野さんとお会いした際、その時できていた3話までの仮の台本をお渡ししたのですが、綾野さんはとても気に入ってくださって。前向きに考えてくださっていたので、相思相愛だったと思っています。

――綾野さんは高校時代まで陸上をされていたので、スポーツに関係するドラマに興味があったのではないでしょうか。

初めてお会いした時、陸上について熱く語っていらっしゃいましたし、元旦の箱根駅伝は「録画して、3回見て3回泣いています」と言われていたほどでした。

ただ、サッカーに関しては、綾野さんは全くの素人でした。なので、この2月から元Jリーガーの大久保嘉人さんと、時間のある限り練習していましたね。

第1話の冒頭、埼玉スタジアム2002で日本代表の試合のシーンがありますが、綾野さんが本当にプレーをしています。撮影はノーカットだったそうです。最後に決めたボレーシュートは、最初はかすりもしなかったと。とても演技を追求される俳優さんなのだなと思いました。

シュートを決めてガッツポーズをする新町亮太郎役の綾野剛さん。その左、10番をつけている元日本代表の大久保嘉人さんにサッカーの指導を受けた=TBS提供
シュートを決めてガッツポーズをする新町亮太郎役の綾野剛さん。その左、10番をつけている元日本代表の大久保嘉人さんにサッカーの指導を受けた=TBS提供

役者ではなく本物のアスリートが出演

――『オールドルーキー』では、各回でフォーカスする競技や選手が異なります。1話ではサッカー選手、2話ではスケートボードの話でした。

このドラマには二つの軸があります。一つは、主人公の新町亮太郎が、セカンドキャリアでスポーツマネジメントの会社で働いて、「サッカー選手」への未練と折り合いをつけていくというストーリー。

もう一つは、1話ごとに異なるスポーツを扱っていくこと。あまり知られていないスポーツの裏側を見せていくようにしています。当初は、メジャースポーツのみを扱う予定だったのですが、東京五輪を見る中でスケートボードなど普段は見かけないスポーツを目の当たりにしました。

僕と同じく、東京五輪がきっかけで「世の中には色々なスポーツがある」と知った人が多いのではないでしょうか。メジャースポーツばかり扱わなくても、視聴者の方が関心を持って見てくれるのではと考えました。

――2話で登場した9歳のスケードボード選手の「ひかりちゃん」役に、本当のスケードボーダーの佐竹晃(さたけ・ひかり)さんが起用されていました。

脚本家として1話ごとに書き進める中、「一体誰がこの役をやるのだろう」と思っています。スケードボードの回は、正直「この役ができる子役はいるのかな」と思っていました。結果的に、TBSの編成と監督の方が本物のスケートボーダーの方に芝居をしてもらおうと判断されての起用でした。

取材の段階で、スケードボード選手に話を聞くと、「スケートボードの世界は、勝ち負けだけではなく、相手や自分のトリック(技)を見たい、見せたいという意識が強い」と話してくれました。スケードボードは、スポーツであり、ファッションであり、ライフスタイルであり、友達を作る機会があるというのが、他のスポーツと違う感じがしたので、新鮮でしたね。

第2話では、9歳のスケードボード選手の佐竹晃選手(左)と、東京五輪のスケートボード女子パーク金メダリストの四十住さくら選手が出演した=TBS提供
第2話では、9歳のスケードボード選手の佐竹晃選手(左)と、東京五輪のスケートボード女子パーク金メダリストの四十住さくら選手が出演した=TBS提供

東京五輪で考えさせられたスポーツの意義

――福田さん自身、東京五輪を経て日本におけるスポーツの捉え方に何か変化はありましたか。

2019年に開催したラグビーワールドカップでは、それまでラグビーを見たこともない人も熱狂していましたよね。

その反面、東京五輪はコロナ禍の開催だったので「スポーツの意義」を考えさせられた大会になったと感じています。勝ったりメダルを獲得したりした選手が、まずは「東京五輪を開催してくださったことに感謝します」と言っていたのが印象的でした。五輪開催はうれしい一方、自分が競技を続けてきて良かったのだろうかと考えた選手もいたのだと思います。

東京五輪から1年が過ぎ、スポーツ熱が冷めていると思います。それでも、ある程度記憶に残っている中で、スポーツやアスリートに触れることで、視聴者の方に当時の熱を思い出してもらえるのではと感じています。このタイミングで放送できたことはよかったですね。

――『オールドルーキー』が、世の中にどういう風に広まっていったらいいなと感じていますか。

まずは、純粋にドラマとして楽しんでほしいです。今回は、視聴者が求めているものではなく、私たちが作りたかったものを提供しました。なので、世間に受け入れられるか不安がありましたが、おかげさまで評判は悪くないようです。

このドラマでは、殺人も起きませんし、犯人もいません(笑)。新町亮太郎という男が、どのような風に変わっていくのか、また、次は何のスポーツなのかと楽しみにしてもらえたらうれしいです。

取材を終えてー新町と重なる取材者たち

筆者はこれまで40人以上の現役・元アスリートのキャリア形成について取材・執筆をしてきました。新町と同じく、現役を続けたい気持ちがある中で戦力外通告を受けたり、ケガをしたりして引退を余儀なくされ、絶望したアスリートと出会いました。

それでも、もがきながらも自分の強みを見つけたり、現役時代の学びを生かしたりして、新たなキャリアを築く彼ら彼女らのストーリーは、アスリート関係者だけではなく、転職や新たな挑戦を目指す人にも刺さると感じています。

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アスリートの引退後やスポーツ界やアスリートを裏方で支える仕事を取り上げるドラマは、これまで日本ではなかったと筆者は思います。その中で、『オールドルーキー』の物語をゼロから作り上げた脚本家の福田靖さんが、どのような思いでドラマを書かれたのが興味を持っていました。

このドラマを通して、普段表にはなかなか出ない、アスリートの苦悩、引退後のアスリートの現実、アスリートを支える人の存在が知られることで、スポーツやスポーツに関連する仕事に興味を持つ人が増えるといいなと思います。

 

福田靖(ふくだ・やすし)
1962年、山口県生まれ。95年脚本家デビュー。口述筆記で脚本を創作する。主な作品にドラマ「HERO」「海猿」「ガリレオ」「CHANGE」「救命病棟24時」(以上、フジテレビ)「DOCTORS〜最強の名医」「ケイジとケンジ〜所轄と地検の24時」「書けないッ!?〜脚本家・吉丸圭佑の筋書きのない生活〜」「未来への10カウント」(以上、テレビ朝日)「先に生まれただけの僕」(日本テレビ)「トキオ 父への伝言」「大河ドラマ 龍馬伝」「連続テレビ小説 まんぷく」(以上、NHK)、映画「陰陽師」「容疑者Xの献身」など。2022年9月には映画「沈黙のパレード」の公開が控えている。
 

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