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お金と仕事

あの魚、88%も高く… 5年前のレシート持って買い物してみた

「上がらないに越したことはないですが…」

5年前のレシートを、今回買い直した買い物の一部=6月9日
5年前のレシートを、今回買い直した買い物の一部=6月9日

目次

ニュースには連日「物価高」の文字が躍り、食品メーカーの商品値上げのニュースもたびたび目にします。一つ一つの値段が上がっていることはなんとなくわかるものの、普段の買い物の金額がどのくらい増えているのかリアルに感じたくなり、5年前のレシート品目と同じものを買ってみることにしました。

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ツイッターで募集「過去のレシート」

5月、記者はこんなつぶやきをしました。

《【募集】数年前のスーパーでの何気ない買い物のレシートとっておいてある方いらっしゃったらDMいただけないでしょうか?お願いします!!》

いま、「数年前」と同じ買い物をしてみたら、日々の生活にのしかかる重みが、より明白になるのではと思ったからです。

このつぶやきに反応してくれたのが、川崎市に住む34歳の男性。
家計簿アプリに残っていた、2016年~2017年のレシート7枚を提供してくれました。

レシート2枚分、6月にお買い物

季節で価格が変動する生鮮食品を考慮し、今回買い物をする6月に比較的近い時期のレシート2枚の商品について、買ってみることにしました。決行日は6月9日。

2枚のレシートは、いずれも2017年の5月の買い物を記録したものです。川崎市内の大手スーパーA(レシート①)と大手スーパーB(レシート②)での買い物で、今回は同市内のそれぞれの系列店で買い物をすることにしました。

野菜や酒などの飲料、豆腐などの冷蔵商品が、レシート①は12品目、レシート②は17品目。
正確な商品名がわからないものなどについては、まずは価格が近いものに置き換え、さらに容量がわかるものであれば、近い容量のものに置き換えるなどしました。

その結果、5年前の買い物との差額は、レシート①で630円、レシート②で195円になりました。

正直①の630円増は衝撃的です。ただ、この増額分の大半は、ある一つの商品が押し上げた要素が強いです。

5年前のレシートと、(できる限り)同じものを買ってみた今回の結果について、レシートの比較画像や、総務省が24日に発表した、5月の消費者物価指数などを元に、ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長に話をうかがいました。

今回の買い物のレシート
今回の買い物のレシート

レシートだけでは計れない3点

――まず、今回5年前のレシートからわかる情報だけを頼りに、買い物金額の合計を比較するという、やや雑な手法をとってしまいましたが、懸念される点があれば、恐縮ですが補足をお願いします。

物価変動を見る、わかりやすいやり方だと思います。

ただ、レシートだけを頼りにすると、①完全に同じ商品なのかわからない②もし同じ商品でも内容量が減っているなどがあれば、同じ価格でも物価としては上がっている場合がある③店によって価格戦略が違うので、値上げの全体像としては語れないという、3点は指摘しておきます。

――その上でうかがいたいのですが、今回のレシート比較、消費者物価の全体像と照らし合わせて、気になる商品はありましたか。

目立つのは、サンマの缶詰ですよね(レシート上では、279円が578円に)。
全体の物価を見ても、サンマはものすごく値段が上がっているので、どこで買ってもこういう感じになると思います。

6月24日に総務省が発表した5月の消費者物価指数の細かい品目を見てみると、サンマは5年前と比較して88%の上昇です。
この上昇率を見ても、レシートに記載されているサンマの缶詰の値上げ幅は全国の平均的な値上がりに合致するのかなと思います。

ただ、サンマについては、いまに始まった話ではなく、数年前から不漁などの要因が続いているので、近頃の物価高以前からの話です。


――確かに不漁の問題は以前から言われていましたよね。一方、今年に入ってからも2月にはマルハニチロが「原材料価格の上昇」を理由に、サンマの缶詰など41品目で参考小売価格を約3~15%引き上げると発表しています。
《「サバ・サンマの缶詰値上げ 贈答用カニ缶は2倍に マルハニチロ」:朝日新聞デジタル https://www.asahi.com/articles/ASQ105K0VQ10ULFA00W.html 

いまは、魚そのものの値上がりと、缶詰の容れ物の値段、運送費、サンマを獲るための燃料費など、値上げに影響する要素がたくさんあります。
小名浜漁港に水揚げされたサンマ=2021年12月9日、福島県いわき市小名浜、長屋護撮影
小名浜漁港に水揚げされたサンマ=2021年12月9日、福島県いわき市小名浜、長屋護撮影 出典: 朝日新聞

――他に値上がりが気になる商品はありますか。

大豆製品です。
大豆は、輸入品の割合が多い作物です。

新型コロナから世界が回復する中で、原油などの値段が上がっています。そこに、ロシアによるウクライナ侵攻が加わり、小麦や大豆などの穀物価格が急騰しています。

日本は輸入しているものがほとんどなので、その急騰の影響を受けています。

食品用大豆の自給率は2020年で6%。
農水省のHPより

「2%の物価上昇は『普通』」ただし…

――ちょっと話はそれてしまうのですが。5年前のレシートと今回のものを比較していて気になったのですが、食品の値段は一回値上げすると下がりにくいということはあるのでしょうか?値段が上がるニュースはよく見ますが、「この商品を値下げします」というニュースはあまり見ない気がするので。

そういう(一度値上げしたものを下げにくい)傾向はありますよね。

もともと、ものの値段は下がりにくいというのが基本です。かつての日本、そして世界的にみると、ものの値段は下がるのではなく「どれだけ上がるか」が注目されます。下方硬直性っていうんですけど。

でも日本の場合、1990年代後半、あまりに景気が悪くなったため、「企業が労働者の賃金を下げる」という一線を越えてしまいました。ものの値段は人件費に連動する部分があります。賃金の下落に連動して、ものの値段も下がったのです。

日本はその後20年以上に渡りデフレの状況が続いているので、世界的にはノーマルではありませんが、ものの値段を下げることが長く続いていました。


――確かに、「日本だけものの値段が低価格なままなのはどうなんだろう」というのはよく耳にします。

日本は世界的に見ると物価が異常な国で、なごりはいまもあります。

いまも、「物価があがっている」という声がありますが、2%ずつくらいの物価上昇は、世界でみると普通です。

アメリカとかヨーロッパは、現在物価上昇率が8%とか9%になっているから騒いでいるのです。

日本はもともと、あまりにものの値段が上がらなかったからに過ぎません。

アメリカやヨーロッパのように賃金が上昇していれば、ものの値段がある程度上がっても対応することができます。しかし、日本は賃金がほとんど上がっていないので、2%の物価上昇でも負担が非常に大きく感じるのです。

前年比12.3%の生鮮食品の衝撃

――食品の物価高の話に戻りますが、5月の消費者物価指数をみると、食べ物の中でも生鮮食品がものすごく上がっています。

生鮮食品は前年比12.3%と4ヵ月連続で前年比二桁の伸びです。

消費者物価指数は、天候などが要因で物価が変動する生鮮食品をのぞいた総合指数(コアCPI)でみることが一般的ですが、それはあくまで金融市場が注目しているものです。

一般の家計にとって物価をみるときに生鮮食品を除く理由はないですよね。
今回、コアCPIは前年比2.1%でしたが、生鮮食品を含めた「総合」は前年比2.5%でした。

その生鮮食品の中でも、タマネギの上昇率は顕著でした。前年比125%になっています。

理由としては不作が大きく、去年あたりから出荷量が少なくなっていて、市場に出回る量が減っているため価格が高騰しています。


――食品の価格上昇で気になるものは、他にもありますか?

今回発表された消費者物価指数で、上昇率が一番高いのが、前年比36.2%の食用油です。他にも、前年比25.4%のマヨネーズなど。原材料価格の高騰そのものが理由です。

パン、麺類、菓子類の価格上昇も気になります。ウクライナ情勢の影響を受けた、小麦価格の上昇が理由です。

小麦については、これからさらに上がると思われます。
日本の場合、小麦の価格を政府が決めているので、輸入価格が上がった分の反映があとにずれてくることが理由です。

「どえりゃ~安い!!」などと書かれたポップが掲げられたスーパー「ウオダイPLUS+」の店内=2022年6月21日午後、名古屋市緑区、三宅梨紗子撮影
「どえりゃ~安い!!」などと書かれたポップが掲げられたスーパー「ウオダイPLUS+」の店内=2022年6月21日午後、名古屋市緑区、三宅梨紗子撮影 出典: 朝日新聞

食料、「夏場には4%近く」予測の理由

――今後も食品の値上げは続くのでしょうか。

5月の消費者物価指数の「生鮮食品を除く食料」は前年比2.7%ですが、夏場には4%近くまで加速する可能性が高いです。

というのも、「消費者物価」は企業から家計に販売する価格のことを指します。ただ、企業から家庭に販売される前には、企業間の取引がありますよね。現在、企業間での食料品の取引はどのくらいで行われているかというと、前年比5%近いんです。

一番川下の段階にある消費者物価には企業間の取引が100%転嫁されるわけではないので、企業間の取引よりは上がりにくいですが、今後4%近いところまでいくんじゃないかと見込んでいます。

ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長
ニッセイ基礎研究所の斎藤太郎・経済調査部長

レシート提供男性、気になる「1千円の壁」

記者も、スーパーでこれまで通りの買い物をしたつもりでも、精算時に「え?こんなに高くなる?」と感じていました。

今回レシートを提供してくれた男性は、さんまの蒲焼きの缶詰の値上げ幅に驚きつつ、「5月の消費者物価指数をみても、印象通りという感じです」と話します。

「上がらないに越したことはないですが、コロナの影響で、最近は飲み会も海外旅行も行っていないので、いまは家計の不安はそんなにありません。ただ、この先どうなるかなという不安はあります」

男性が心配なのは、学生時代から年間100杯を目標に食べ続けているラーメンの値上げ。基本的には小麦など原材料価格の高騰による値上がりで仕方ないと思っているものの、「ラーメンには『1000円の壁』(1杯1000円を超えられない)があると言われているんですが、最近はそこを超えてくる店も増えてきているように思います」と話します。

今後の食品値上げがどうなっていくのか、心配しながら行方を見守っています。

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