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IT・科学

高齢者の運転、本当に危ない?拡散しやすい〝わかりやすいイメージ〟

データから見える「世の中、そんなにわかりやすくない」

データから見えた高齢者の運転の〝真の姿〟とは? ※画像はイメージです
データから見えた高齢者の運転の〝真の姿〟とは? ※画像はイメージです 出典: Getty Images

目次

「高齢者の運転は危険」。そんなイメージに一石を投じる調査結果が、最新のドライブレコーダーのデータから見えてきました。タクシードライバーらの危険運転の発生件数を調べたところ、項目によっては、年代が若い人の方が危ない運転をしていることがわかったのです。対象がプロのドライバーだったとはいえ、年代に関係なく発生している危険運転の種類もありました。世の中に根強いステレオタイプの言説。これって、高齢ドライバーに限った話ではないかもしれません。

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9千人の運転から8種類のリスクを調査

高齢者の交通事故が注目されるのは、実際に、それが深刻化している背景があります。警察庁によると、2021年の75歳以上による死亡事故は全国で346件発生しており、前年より13件増えています。免許人口10万人あたりの死亡事故件数は75歳未満の2倍以上になっています。

【関連リンク】令和3年における交通事故の発生状況等について(警察庁)

では、実際、年代による差はどのような形で現れるのか。

そんな疑問にこたえるため、タクシーアプリ「GO」を手がける「Mobility Technologies」が、タクシー32社、営業車3社、トラック1社、バス1社の20歳~70歳(後期高齢者は含まない)までのドライバー9183人の走行データを分析しました。

集まったデータから、8種類のリスク運転を抽出。それぞれのリスク運転が、どの年代に高いかを調べました。

【調査した8種類のリスク】

若い世代の方が多いリスク運転も

調査の結果、「急加速」「一時不停止」において、年齢を重ねると発生率が高くなる傾向が見られました。

一方、「脇見」「後退時後方不確認」は、60歳から70歳のドライバーより、45歳から55歳のドライバーの方が発生率が高い結果に。

また、「急減速」「急ハンドル」「車間距離不足」「速度超過」では、ドライバーの年齢による違いは見られませんでした。

ビッグデータからは年齢に関係のないリスク運転もあった ※画像はイメージです
ビッグデータからは年齢に関係のないリスク運転もあった ※画像はイメージです 出典: Getty Images

調査する側にもあった「先入観」

データ抽出と分析を担当した同社のAI技術開発部データサイエンスグループグループマネージャーの松井健一さんは「ニュースで取り上げられやすいこともあり、高齢者の運転が危険というイメージは、自分自身にもあった」と明かします。

その上で、「『急減速』のような、運転の丁寧さについては、年代による違いはそこまでないことがわかった」と指摘します。

ニュースレターを監修したスマートドライビング事業部ビジネス開発部次世代事業本部自動運転タクシービジネス部長の武田浩介さんは「誤ったイメージをそのままにしておくと、それを根拠にした間違った対策を取ることになりかねない」と警鐘を鳴らします。

「高齢者に免許返納を求めても、都市部ではない地方では生活手段がなくなるので、限界がある。どういう場面で気をつけるべきか、詳細な分析を進めることで、運転できる期間を最適化することができる」と話します。

犯罪は減っているのに「不安」

「高齢者の運転は危険」に限らず、ネット上では、話題になりやすい出来事が、シェアされたり、アルゴリズムによる「おすすめ」に選ばれたりすることで、必要以上に注目を集めてしまうことが多々あります。

たとえば、2021年の犯罪白書によれば、刑法犯全体の2020年の認知件数は61万4231件で前年比17.9%減。戦後最少を更新しています。

【関連リンク】法務省:令和3年版犯罪白書のあらまし

一方、セコムによる2021年の「日本人の不安に関する意識調査」によると、7割の人が「今後、治安の悪化、犯罪が増加する可能性がある」という質問に「そのように思う」と答えています。

【関連リンク】セコム株式会社第10回「日本人の不安に関する意識調査」調査項目・調査結果 データ集

犯罪自体は減っている一方、犯罪に対する社会の警戒心はなくならない実態が見て取れます。

原因の一つとして考えられるのは、一部の凶悪事件が、何度も話題に上ることで、不安な空気を醸成してしまうことです。

人々の不安の根底にあるのは何か。単純に監視カメラを増やせばいい、というわけではない対策の難しさが見えてきます。

刑法犯の認知件数は減っているのに、世の中の不安は高い…… ※画像はイメージです
刑法犯の認知件数は減っているのに、世の中の不安は高い…… ※画像はイメージです 出典: Getty Images

世の中、そんなにわかりやすくない

大阪大准教授の辻大介さんの推計によると、「ネット右翼」はネット利用者全体の1%弱に過ぎないそうです。

【関連リンク】ネットが社会の分断を導くのか 専門家調査で異なる結論:朝日新聞デジタル

しかし、ネガティブな情報が拡散しやすいネット空間では、「ネット右翼」による過激な主張は、実態よりも大きく見えてしまいます。その結果、偏った考えが広まるだけでなく、多様な発信が制限され、社会の萎縮を引き起こしてしまいます。

高齢者の運転を調べる中で「Mobility Technologies」の武田さんが気づいたのは、世代に関係なく安全運転をずっとできる人がいることです。

「本当は、年齢ではなく、その人の安全意識に左右される面が大きい」と武田さん。

「詳細な因果関係についての調査はこれからだが、高齢者よりも下の世代に多かった『脇見』は、スマホの使い方と密接に関係しているかもしれない」

もちろん高齢者が気をつけるべき項目が多いのは事実です。都市部と地方、仕事で運転するプロドライバーと一般の人との違いもあるでしょう。その上で、大事にしたいのは、データの裏付けがあることで見えてくる本当の姿です。

ステレオタイプのイメージが増幅し、それが、あたかも事実であるかのように現れやすい時代。でも、世の中、そんなにわかりやすくできていません。

データに基づいた議論は、わかりやすい方向に熱しやすくなるネット空間において、大事な落ち着きを取り戻してくれる存在だと言えます。

 

人々の関心や趣味嗜好(しこう)が細分化した時代に合わせて、ネット上には、SNSやブログ、動画サービスなど様々なサービスが生まれています。そんな中で大きくなっているのが、限られた人だけに向けた「ニッチ」な世界の存在です。ネットがなかった頃に比べれば手軽に様々な情報を得ることができるようなった一方、誰もが知っている「マス」の役割が小さくなったことで、考え方の違う人同士の分断を招きかねない問題も生まれています。膨大な情報があふれるネットの世界から、「マスニッチの時代」を考えます。

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