マンガ
中年男性・女性の生き方を丁寧に…オカヤイヅミさんの描く〝時代感〟
「〝感じ〟を閉じ込めるのが、フィクションの強み」
いしいひさいち(第7回)、伊藤理佐(第10回)、森下裕美(第11回)、大島弓子(第12回)、ヤマザキマリ(第14回)、吉田戦車(第19回)……。手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)の短編賞は、短編、4コマ、1コマなどを対象とした作品・作者に贈られる賞です。いま社外選考委員を務める芸人・漫画家の矢部太郎氏も第22回で受賞しています。今年の第26回では、オカヤイヅミさんの『いいとしを』(KADOKAWA)と『白木蓮(はくもくれん)はきれいに散らない』(小学館)が選ばれました。(朝日新聞文化部・黒田健朗)
手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)は、マンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫の業績を記念する賞。第26回マンガ大賞は魚豊さんの『チ。―地球の運動について―』、新生賞は谷口菜津子さんの『教室の片隅で青春がはじまる』『今夜すきやきだよ』、短編賞はオカヤイヅミさんの『いいとしを』『白木蓮(はくもくれん)はきれいに散らない』が受賞
オカヤさんは1978年生まれ。webデザイナーを経て2011年にデビューし、イラストレーターとしても活躍している。
72歳の父と「バツイチ」の42歳の息子が同居する『いいとしを』と、孤独死した同級生からアパートを託された50代の女性3人を描く『白木蓮はきれいに散らない』。対照的な2作で、リアルな日常や心情を「観察日記」(オカヤさん)のように淡々と描いた。
作品には現代との地続きが見られる。『いいとしを』では新型コロナによる五輪延期を盛り込んだ。
『白木蓮はきれいに散らない』の主人公3人は皇后雅子さまと同い年で、即位後「朝見の儀」のテレビ画面から物語が始まる。
オカヤさんにインタビューをした際には、「時代感、このときの人がこう考えていたみたいなのが残るといいな、と思う」と語っていた。
3月下旬の最終選考会の短編賞の議論では、マンガ解説者の南信長委員がオカヤ作品を推薦した。南委員も現実との接続について評価を述べた。
『白木蓮はきれいに散らない』について「男女雇用機会均等法施行の年に社会人になった3人の女性の人生をミステリー要素も入れつつ、実感がこもった感じで描かれていて、その心情の描き方がうまい」、『いいとしを』についても「これもまた非常に現代的な状況を描いている」と評価。
「今を生きるある程度年のいった人、中年の女性、男性の生き方が丁寧に描かれていて感銘を受けた」とした。
芸人・漫画家の矢部太郎委員は「センセーショナルなところではなく、ゆっくりした大人の方が読める漫画」。
ライター・東北芸術工科大学芸術学部准教授のトミヤマユキコ委員も「着実に仕事をされている方。なかなかスポットライトが当たりにくい作家さんという感じもする」と推した。
選考では、マンガの創作に取り組む女子2人を描き、インターネットを中心に注目を浴びた『ルックバック』(藤本タツキ、集英社)への支持も集まり、激論に。最終的にオカヤさんの2作が受賞となった。
6月2日に開かれた贈呈式でオカヤさんは、自身の作品を思わせる淡々とした口ぶりでこう語った。
「出来事ではなくて『感じ』を閉じ込めておけるのがフィクションの強み。賞を頂いて2カ月間オロオロしていたんですが、いまのこの感じを覚えておいてマンガに描こうかなと思います」
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