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連載

#13 #啓発ことばディクショナリー

「お前が全部悪い」今野晴貴さんが語るブラック企業の〝搾取ワード〟

労働者を徹底的に働かせるための手口

自社の発展のため、働き手を使い潰す「ブラック企業」。職場では、社員の心を絡め取るための、様々な「言葉」が駆使されているといいます。労働問題の専門家・今野晴貴さんに、実態について聞きました。(画像はイメージ)
自社の発展のため、働き手を使い潰す「ブラック企業」。職場では、社員の心を絡め取るための、様々な「言葉」が駆使されているといいます。労働問題の専門家・今野晴貴さんに、実態について聞きました。(画像はイメージ) 出典: Getty Images

目次

劣悪な労務管理を行う会社は、一般に「ブラック企業」と呼ばれます。社員を徹底して追い込む強圧的な経営手法が、長きにわたり批判を集めてきました。その現場では、働き手を搾取するための言葉が駆使されているといいます。どのような内容なのか、労働問題の専門家・今野晴貴さんに聞きました。(withnews編集部・神戸郁人)

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#啓発ことばディクショナリー

ブラック企業は「経済合理性」を重視する

そもそもブラック企業という言葉は、2000年代に登場したネットスラングとされています。次第にIT業界やサービス業界など、比較的新しい産業を中心として、労働者に違法な働き方を強いる企業を指すようになりました。

今野さんの著書『ブラック企業』『ブラック企業2』(文春新書)では、同種の企業に勤める働き手たちの境遇が紹介されています。過重労働の強要や残業代未払い、上司による罵倒、職務上の不公平な評価の常態化など、いずれも深刻です。

過酷な業務に従事した末、心を病んで離職を余儀なくされたり、思い詰めて自死を選んだりする人も少なくありません。いわば労働力をわざと枯渇させるわけですが、実は事業を継続する有効な手段になっていると、今野さんは解説します。

「ブラック企業は心理学的な手法を使い、社員の『内面』を破壊します。ハラスメントなどで人権を侵害し、命令に逆らえないような精神状態をつくりだすのです」

「するといくらでも働かせられるし、不当な待遇への損害賠償請求を避けることもできます」

新興産業の中には、労務管理システムが未成熟な企業が珍しくありません。事業規模を拡大させるため、人材を大量に採用し、使い潰すことを繰り返す場合もあります。自社の成長の原動力になる点で、「経済合理性」があるとすら言えるのです。

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画像はイメージです 出典: Getty Images

働き方の検証を拒もうとする言葉遣い

では、ブラック企業から社員に対して、どのような働きかけがなされているのでしょうか? 今野さんいわく、よくみられるのが「自分が悪い」と思い込ませる目的で、上司が部下に声をかける事例です。

「例えば教育産業では、『お前の教材を使う子どもたちのことを考えているのか』と、ベテラン社員が新人の仕事ぶりを非難することがあります」

「実際には経験に見合わないノルマや、困難な仕事が課せられていたとしても、責任を個人に帰すんです」

類似するフレーズとして「お前は努力が足りているのか」「この程度の働きしかできなくて、悔しくないのか」といったものも。業績が上がらない原因を労働者の人間性に求めることで、働き方の検証を拒もうとする意図が共通しています。

このような声かけが、標語の形を取って行われることもあります。

外食大手ワタミは、渡邉美樹会長兼社長の発言録「理念集」を社員に配布してきました。かつて「365日24時間、死ぬまで働け」との一文を掲載し、批判を浴びて撤回に至っています。

「労働契約は、企業と労働者が対等な立場で結ぶ取引です。しかしブラック企業は、『全部お前が悪い』というフレーズを使って、その関係性を壊してしまう。そして労働条件の問題を人格の問題にすり替えるところに、一連の雇用管理の怖さがあります」

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画像はイメージです 出典: Getty Images

「自由な働き方」をうたって搾取

ところで近年、企業単位で副業の解禁が進んできました。また正社員のホワイトカラー層で、特に転職希望者数が増えているとする統計もあります。一見すると、働き手の企業に対する執着心は弱まっているようです。

しかし今野さんいわく、むしろ「自由な働き方」をうたい、不適切な労働を展開する企業が後を絶たないといいます。一例として、低価格・短時間の散髪サービスを提供する、QBハウスのケースを挙げました。

QBハウスの一部店舗では、エリアマネージャーが従業員を雇う運用が行われています。このため、有給休暇の取得義務といった労働法上の責任が果たされていないとして、労働組合が運営元企業に団体交渉を求めているのです。

【関連記事】QBハウスの理美容師、本社に団体交渉を要求 改善求めた2つの要点(朝日新聞デジタル)

同様の問題は、大手コンビニチェーンでも発生しています。

2015年、ローソンのフランチャイズ加盟店で働いていた男性が、店主によるパワハラなどを理由に本部を提訴。本部側は当初、店主と本部は「互いに独立の事業者で、(本部に)具体的な指揮監督権がない」と反論したものの、昨年6月に和解しました。

【関連記事】ローソン本部と元従業員が和解 長時間労働めぐる訴訟(朝日新聞デジタル)

「企業にとらわれない仕事への憧れが、ブラック企業からの労働者の解放を実現するどころか、かえって利用されてしまっている。その結果『雇用しているわけではない』と言って、労働者を脱法的に、死ぬほど働かせる状況が生まれています」

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画像はイメージです 出典: Getty Images

源流は、ごく普通の一般企業に

こうして概観してみると、ブラック企業による労働者の取り扱いは、いかにも過酷です。しかしその源流をたどっていけば、ごく一般的な日本企業の労務管理に行き着くと、今野さんは強調します。

「昇進などを判断する上で、『査定』という手法がよく使われますよね。あれは業績ではなく人格の評価なんです」

「サービス残業をどれくらいしているか、といった点が『頑張り』とみなされる。ブラック企業同様、非常にスピリチュアルな世界です」

「頑張り」は曖昧(あいまい)な概念で、その範囲が際限なく広がる恐れがあります。一方で企業は、働き手の努力に終身雇用や昇給で報いてきました。しかし経済状況が変化し、従来の関係性が崩れ、企業の命令権だけが肥大化したといいます。

「ストライキや団体交渉で、企業側に改善を促すことは大切です。でも『今以上に頑張るから賃金を上げて』と言っても意味が無い」

「『これだけの仕事をしたら、これくらいの賃金を払って下さい』と、企業や職業の枠を超えて訴える必要があるでしょう」

むちゃな働き方を社員に強いるブラック企業。その成立過程には、個人の心がけを過度に重視する仕事観と、それを労働者の意識に刷り込む巧みな言葉遣いがありました。こうした構造に気付くことが、状況を変える一歩になるのかもしれません。

※「ブラック企業」は、労働問題を引き起こす企業の在り方を告発・是正する文脈で、象徴的に広がってきた用語です。近年「黒人差別を連想させる」との批判も上がっていますが、雇用主が働き手に対して使う言葉を検証する本連載においては、元々の意味合いを尊重して用いています。

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今野晴貴(こんの・はるき)
NPO法人POSSE代表。年間5000件以上の労働相談に関わり、労働問題について研究・提言を行っている。 著書に『賃労働の系譜学』(青土社)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)など。 一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)1983年生まれ。仙台市出身。
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【連載・#啓発ことばディクショナリー】
「人材→人財」「頑張る→顔晴る」…。起源不明の言い換え語が、世の中にはあふれています。ポジティブな響きだけれど、何だかちょっと違和感も。一体、どうして生まれたのでしょう?これらの語句を「啓発ことば」と名付け、その使われ方を検証することで、現代社会の生きづらさの根っこを掘り起こします。毎週金曜更新。記事一覧はこちら
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