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昔ならボツになったテーマでは…マンガ大賞『チ。』が評価された理由

異例の〝満場一致〟 選考委員のコメントは

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ 出典: ©魚豊/小学館

目次

『ドラえもん』(第1回)、『キングダム』(第17回)、『ゴールデンカムイ』(第22回)……。マンガ家・手塚治虫の業績を記念した手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)のマンガ大賞受賞作には名だたる作品が並びます。そこにまた、新たな名作が加わりました。今年の第26回で受賞した魚豊(うおと)さんの『チ。―地球の運動について―』(小学館)です。例年通り、白熱した議論が繰り広げられると思いきや、今回は異例中の異例となりました。どんな点が評価されたのか、選考委員の評を紹介します。(朝日新聞文化部・黒田健朗)

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手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)は、マンガ文化の発展、向上に大きな役割を果たした手塚治虫の業績を記念する賞。第26回マンガ大賞は魚豊さんの「チ。―地球の運動について―」、新生賞は谷口菜津子さんの「教室の片隅で青春がはじまる」「今夜すきやきだよ」、短編賞はオカヤイヅミさんの「いいとしを」「白木蓮(はくもくれん)はきれいに散らない」が受賞。贈呈式での魚豊さんの受賞コメントはこちら

1次選考、推薦でともに1位

魚豊さんは2018年に連載デビュー。連載第2作となった『チ。』では中世ヨーロッパの架空の王国を舞台に、異端とされた地動説の研究に命がけで挑む人々をフィクションで描いた。

物語では真理の追究の途上、地動説への弾圧によって多くの「血」が流れる。主人公が次々と変わる中、「知」が世代を超え、細い糸のように紡がれていくさまが読者の人気を集めた。コミックスの累計発行部数は200万部を超えている。

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ 出典: ©魚豊/小学館

今回、『チ。』はマンガ大賞の有力候補だった。手塚治虫文化賞では、社外選考委員7人が持ち点15点(1作につき最高5点)で投票した1次選考の上位9作品と、書店員・マンガ関係者、読者からの推薦1位の作品を合わせ、最終選考会で議論する。『チ。』は1次選考、推薦でともに1位だったのだ。

ただ、過去の選考では、1次選考で1位ではなかった作品が議論により逆転でマンガ大賞となることも多々あった。

例えば、昨年受賞した『ランド』は1次選考では同率5位だったが、最終選考会の議論で支持を集め、『鬼滅の刃』『約束のネバーランド』との競り合いの末に受賞に至ったという経緯がある。

「昔ならボツになったテーマでは…」

今年の最終選考会も例年通りかんかんがくがくの議論になる……と思われたが、予想を裏切り、異例の展開になった。なんと『チ。』1作品に支持が集中したのだ。

まず、名作を手がけてきた大物漫画家2人から、作品の技術を評価する声が相次いだ。

『こちら葛飾区亀有公園前派出所』の秋本治委員は「構成力がやっぱりすごい。それで一気に漫画の世界に引っ張り込むっていう感じ」。

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館) 出典: ©魚豊/小学館

24歳と若い作家がこの重厚な作品を手がけたことにも驚きの声があがった。

「40代、50代の人で今まで経験して描いたならわかるんですが、この若さで、このテーマで。構成能力は今回手塚治虫文化賞にふさわしい。『未来を託する』ということもやって、やはりこの作品がいちばんテーマ的にもいい」と絶賛した。

1次選考ではほかの作品に5点をつけていた、『天上の虹』の里中満智子委員も「セリフの一言一言が考え抜かれている。これぞマンガじゃないか」。

マンガの広がりについて考えさせられたという。「昔はボツになって、漫画編集者自身が漫画として認めなかったテーマじゃないかな、と思う。50年ぐらい経って振り返った時に非常に象徴的な作品になるんじゃないか」

今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト
今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト 出典: ©魚豊/小学館

現代に通じる「権力者が異端者を排除」

現代との重なりについて評価する声も特徴的だった。

同じく1次選考では別の作品に5点をつけた学習院大学フランス語圏文化学科教授の中条省平委員は、昨今のウクライナ情勢に触れ、「ロシアで起こっていることは中世ヨーロッパで起こったことと何ら変わらない。今ここで『チ。』という作品を推さなくてどうする、という気持ちが自分の中にわいてきた」。

今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト
今年の手塚治虫文化賞のマンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)の受賞イラスト 出典: ©魚豊/小学館

マンガ解説者の南信長委員も続いた。「権力者が異端者を排除していく、科学を軽視して独裁になっていく状況というのはロシアもそうだし、日本が学術会議の問題で色々もめたこともあった。歴史ものだけど現代にも通じている部分がいっぱいあるというところが、非常に価値のある作品だと思います」

そのほか、「奥深さに魅せられた」(タレント・高橋みなみ委員)、「マンガに対する情熱でグイグイ引っ張ってくる」(ライター・東北芸術工科大学芸術学部准教授 トミヤマユキコ委員)、「ビビッドに受け入れられている」(芸人・漫画家 矢部太郎委員)という意見もあがり、終わってみれば7人の社外選考委員の満場一致で「チ。」のマンガ大賞が決まった。

マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ
マンガ大賞『チ。-地球の運動について-』(魚豊著、小学館)のひとコマ 出典: ©魚豊/小学館

まさに、作品の持つ圧倒的な力が象徴されたような、最終選考の議論だった。

24歳でのマンガ大賞受賞は、手塚治虫文化賞史上最年少だ。ちなみに、今回、1997年創設の賞で同年生まれの作家が受賞したということも、最後に付け加えておく。

■手塚治虫文化賞記念プレゼントキャンペーン
朝日新聞社は、第26回手塚治虫文化賞を記念して、受賞者3人による描きおろし記念イラスト(複製画)を抽選で各5名様、計15名様にプレゼントします。また、マンガ大賞受賞作「チ。―地球の運動について―」(魚豊著/小学館 全8巻)を抽選で1名様にプレゼントします。
応募はこちら(https://que.digital.asahi.com/question/11008050?cid=Mkt-CDP_PR0022_mLink_202206-0030)から。7月10日締め切り。

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