マンガ
「あなたはいつも笑ってた」亡き父に娘が捧げた遺影、感謝の物語に涙
「家族への思い、照れずに伝えて」
亡き父親に対する感謝が題材の実録漫画が、ツイッター上で好評を博しています。生きている間に、もっとできたことがあったんじゃないか……。後悔の念を抱きつつも、喪失を少しずつ受け止める主人公の姿に、自分自身を重ね合わせる読者が続出しているのです。作者の女性を取材しました。(withnews編集部・神戸郁人)
冒頭に描かれるのは、父を亡くしたばかりの女性の姿です。タブレット端末を使い、涙ながらに遺影を作っています。
快活な人柄で、生前は女性が手掛けた絵を、よく褒めてくれた父。「もう頑張っても、褒めてもらえないんだ」。在りし日の姿を偲(しの)びつつ、女性は肩を落とします。
お酒好きなことが心配で、「呑(の)み過ぎないでね」と小言を言う暇があったら、大好きな手料理をもっと食べさせたかった。看取ってあげられなくて、ごめんね……。胸の内に、様々な感情が去来しました。
でも、と女性は思い直します。「あなたはいつも笑ってた」。スキーやお祭りに連れて行ってくれたとき。一家で記念写真に収まったとき。年賀状の絵を自作したり、カラオケで十八番(おはこ)の一曲を熱唱したりしたとき――。
「『家族』が大好きだったお父さん みんなで見送るから 天国で呑みながら見守って欲しい」「今までずっとずっとありがとう」。満面の笑みを浮かべる遺影のイラストと、感謝の言葉が示される場面で、物語は幕を閉じます。
先日74歳で他界した、宮城県出身の父。中学校の元体育教諭で、「健康の秘訣(ひけつ)だ」とランニングに勤しむ人物でした。実直な性格である一方、冗談を言って、周囲の人々を笑顔にすることも好きだったといいます。
「東日本大震災で生家が被災した際、現地に住む自らの兄夫婦を支え、折に触れて贈り物をしていました。そして私と弟、それぞれの伴侶のことは、いつも褒めてくれた。ただ感情表現が不得手なところがあり、手紙で思いを伝えてくることもありました」
父は弟の成人後に離婚し、一人暮らしを続けていました。そのため島藤さんは、きょうだいそろって顔を見せに行くことが多かったそうです。今年のゴールデンウィークにも、元気そうな様子を直接確認していました。
「実は父は、今年の父の日向けとして、弟夫妻に『帽子が欲しい』と要望していたんです。いつも『酒のつまみでも買ってくれればいい』と言っていたのに。一緒に購入しに行く日、自宅で倒れているのが見つかった。直接の死因は高血圧症の心疾患でした」
晩年、自分で育てた野菜を調理し、音楽と絵画の鑑賞や制作をたしなみ、大好きなお酒を飲み過ぎては「一人反省会」をしていた父。「家族の電話や来訪を楽しみに、精いっぱい生きた。そう願ってやみません」。島藤さんが語ります。
島藤さんが幼い頃、両親は共に、学校教諭としてせわしく働いていました。ほぼ祖母に育てられ、父とゆっくり話す機会は、なかなかなかったといいます。深く交わるようになったのは、弟と会いに行き出した、独居の開始以降だったそうです。
「でも考えてみれば、小さいときも遊園地やお祭り、スキーに連れて行ってもらっていた。成人してからは、家族と帰省するたび、机に乗り切らないほどの手料理でもてなしてくれました」
「一人で生活している期間中、私と弟に、お中元・お歳暮を毎年欠かさず贈ってくれたことも覚えています。そして私が手掛けた絵や年賀状、孫たちの写真を模造紙に貼り付け、『宝物』として壁に飾っていたんです」
父が家族に向けていた愛情の深さを、実感する毎日。一方で、後悔も絶えないといいます。
手料理をたくさん食べさせてあげたかった。父の絵を描いてあげたかった。もっとたくさん会話し、感謝を伝えたかった――。それでも弟家族と一緒に、たびたび遊びに訪れられたことは、一番の親孝行だったと振り返りました。
今回の漫画の読者からは、「亡き家族との思い出がよみがえった」という趣旨の感想も相次いで上がっています。
島藤さんは「どの書き込みも優しいものばかり。胸が一杯になりました」。その上で、次のようにも話しました。
「家族に伝えたい思いがあるなら、照れずにどんどん伝えていって欲しいです。言葉にしたり、誕生日にプレゼントをあげたり、旅行をしたり。きっとそれが、大切な記憶になるはずですから」
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